第6話

 ガンバレナカッタゾー。



「オ、オヒサシブリデス、ニイサン」

「おう、久し振り――てオイ、大分痩せたんじゃないか?」

「ソンナコトナイデスヨ、ダイジョウブ、ゲンキゲンキ」

「お、おう……」


 それからしばらく(半年くらいかな)、『ギルド』義兄さんからの「進捗どう?」に、「進捗ダメですニャオス」しか返さない日々が続いていたんだけど。

 課題の締め切りまであと半年となったところで、流石に呼び出しをされる羽目になった。

 こちらも義兄さんに、というか姉さんたちに頼みたいことがあったので、ちょうど良かった、と久々の外出を決意するあたし。


 場所は天界大学近くのカフェ、前回の焼肉屋のような雑然とした空気は無く、落ち着いた感じの場所だ。

 調度品のたぐいは白で統一されてるし、テラス席は日が当たって、ポカポカ陽気が気持ちいい。久しぶりの昼の日差しが眩しい、というか目に痛いね!


「んで、実際のとこ首尾はどうなんだ? あいつも大分心配してたぞ」

「あー……。お姉ちゃんにも、進捗ダメですニャオスメッセージしか送ってなかったや」


 ランチセットを頼んだ後、テラス席で向かい合うあたしと義兄さん。

 お姉ちゃんにも心配かけたのなら、悪いことしちゃったなあ。義兄さんのうわぁって表情を見るに、あたし、今結構ヤバめな顔色してるっぽいしね。

 え、服装? 安定の上下ジャージですよ? オシャレなカフェなので、ちょっとどころでなく浮いている気もする。


「実際のところは、まあ、ボチボチ、かな? 世界のガワと魔法学園までは何通りか作れて、どうやったらイベントを起こせるか、試行錯誤してる感じ。義兄さんのアドバイスはすごく役に立ったよ、ありがとう!」

「おう、そいつは良かった。……どうなってるのか大分不安だったが、まあまあ進んではいるみたいなんで安心したぜ。どの辺りまで創れてるか、見せてみな」

「あいあいさー」


 あたしは創世機材ジェネレータを操作して、いくつかの仮想世界を提示する。

 条件に合う学園が設立されるところまで行った世界が大体五十から百くらいで、あともう少しでうまく行きそうな世界が二千ちょっと、って感じかな。

 創った世界の数々をふんふん見ていた義兄さんだけど、機材の残り容量を見たときに、ちょっと顔を引きつらせてた。


「……作りすぎじゃねえ?」

「いやー、最終的に同じような世界にするって言っても、初期条件で色々アプローチを変えられるのが楽しくてさ、つい」

「しかもこれ、世界のコピーをした形跡が一切ないぞ? ……まさかとは思うが、全部一から作ったのか?」

「やり方、分からなくて……。え、世界のコピーなんてできたの?」


 ハハハと空笑いをするあたしを見ながら、なぜか天を仰ぐ義兄。

 「アホだ、アホがいる」とか呟いてるけど、失礼しちゃうね。


「えっと、聖霊ちゃん? なんで教えてくれなかったの?」

『え? その、訊かれませんでしたから。正直な話、初期条件をガリガリと微調整する様子が楽しそうだったもので、ご主人様マスターのご主義かご趣味かと』


 半年私と苦楽を共にした聖霊ちゃん、昼夜問わず色々付き合わせていたせいか、若干くたびれたような姿になってる。芸細かいけど、その前に大事なこと教えてよ!


「効率悪すぎだろ、お前。いや、こんだけ作れるって集中力は確かに凄いけどよ」

「ここ半年の間、ほぼ寝る時間ゼロです、ハイ……。ただ、これだけやってれば、大分作り方もこなれてきたよ。この世界なんか、初期構築したっきりで一切何もせず、魔法学園設立まで行けたし!」

「一切何もせずって……、『神託』も無しで?」

「うん」

『私も保証いたしますよ、旧主人。ぶっちゃけ、アホの所業です』


 遊びで作った、初期条件のみ設定して後は眺めるだけ、の世界を見せてみる。ただ、倫理面やら信仰面であんまりうまいこと行ってないので、今回の課題には使えなさそうだけどね。

 一切何も手出ししてないんで、信仰が育つわけないとか思ってたんだけど、なんか独自の信仰体系が発達してるところがちょっと面白かった。仮想世界の中では、群雄割拠の戦国乱世の中、『学園』の卒業生たちが、楽しい野外活動コロシアイをしている様子が映し出されている。うん、修羅道かな?


「……倫理面が大分問題だが、ギリ秩序を保って繁栄してるように見える。凄えなコレ。このデータ、コピーして貰っても良いか?」

「? 別に、大したことしてないし、今回の課題には使えないから、義兄さんにあげるよ?」


 別に使わないし、義兄さんがなんでか興奮してるようなので、プレゼントすることになった。

 あたしで作れるくらいなんだから、誰でも作れるだろうし。


制作者名クレジットはアホ、ではなく、ご主人様マスターにしておきますね、旧主人」

「おう、助かるぜ。何やったのか分かってなさそうだしな、このアホ、じゃなくて義妹は」


 なんか二人(一柱一霊?)掛かりで罵倒されてる!



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――閑話休題。


「一応、この世界が今の本命かな。良い感じに、王国のお偉いさんのご子息が、まとめて生徒会役員になるタイミングがあるし、悪役令嬢候補もヒロイン候補も見繕いやすいし、あと何より人権意識が『基準世界リアル』の近代レベルだしね」

「確かにな。貴族主義がそこそこ強めだが、治安も悪くない」


 治安やら倫理観、あと社会通念は大事、マジ大事。

 今回の課題である『悪役令嬢が婚約破棄をされる世界』の場合は特にね。

 ざっと条件を挙げると『人間社会で』『階級制度(貴族制)が崩壊しておらず』『貴族がノブレスオブリージュを遵守し』『婚約が守られる事が約束として成り立つ』『ある程度以上治安のよい』『基本的人権が存在する位の倫理観の』『一夫一婦制を採用している(王族は別)』という世界が理想だ。


 どれか一つが欠けていても、婚約破棄されるような世界にならないか、『婚約破棄』に意味が生まれない世界になっちゃうからね。


 義兄さんが言ってた、ファンタジーと学園の相性の悪さも痛感したよ……。『貴族制を維持し』つつ、『基本的人権のある』『学園物』で『魔法に意味がある』って、確かに近世から近代の過渡期以外でやるの、初心者のあたしには絶対無理だ。

 魔法要素抜きなら『ル・ロゼ学院』とか『エイグロン・カレッジ』とかいろいろと参考にできるのが『基準世界リアル』にもあるんだけど、あたしに『ホグ○ーツ』は創れなかったんだよ……。


 ちなみに、逆転の発想で『貴族の淑女が、学園の卒業式に婚約破棄をされることが成人儀礼になっている世界』とか『婚約破棄がステータスになっており、皆競って婚約しては破棄する世界』も作ってはみたけど、凄いシュールな光景が広がってたので、最終手段として封印している。

 今提示してる本命の世界は、逆ハー候補が生徒会に集まりそう、というプラス面もあるので、多分この世界がベースになるかな。なんでか分からないけど、いい感じに産業革命前で技術革新が停滞してくれてるし。

 義兄さんも納得したように頷いている。


「というわけで」

「と言う訳で?」

「仮想世界のコピーのやり方、教えて下さい……」

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