第5話

 さて、義兄さんから借りた創生機材ジェネレータを使って、意気揚々と世界構築を始めたあたしだったんだけど。


 甘かった。

 そりゃもう、さっき食べたデザートなんて比較にならないくらい甘々だった。


 世界の作成も法則の構築も、座学と実技でこんなにも勝手が違うとは。

 いや、実習もしてたよ? してたけどね? 

 実習だと、元々存在している世界に『神託』を降らせるとか、『奇蹟』を起こして調整するとかのピンポイントな物がほとんどだったからね……。


 丸ごとの世界構築なんて、仮想でも(もちろん実世界でも)やった事なかったから、もう勝手が全然分からない。

 『ギルド』義兄さんが貸してくれた機材の感度が高すぎて、法則とかの微調整がダイレクトに影響するってのもあると思うけどさ。



 義兄さんと別れた後、最初はやっぱり課題に沿ったファンタジーが作りたかったんで、忠告は一旦脇に置いて、『学園のあるファンタジー世界』を手当たり次第に作ってみたんだけど。


 とにかくもう、世界がじゃんじゃん滅ぶ。


 魔物があふれて滅び、魔力を巡っての人同士の争いで滅び、突然魔王が出現して滅び、魔法技術が発達し過ぎて滅ぶ。禁忌とか破滅とか、こっそりでも置いたらもう完全アウト。凄いね人類! あっと言う間に見つけるんだもん。

 神力の温存って意味合いでなくても、仮想世界で良かった。


 ぶっちゃけ、学園を作る以前の問題だよね、これ。

 『神託』で無理やり学園っぽいものを作ってもらったり、あらかじめそれっぽい遺跡を『奇蹟』で埋め込んだりしても、すぐ無くなるか『学園』とかいう名前の違う組織になるし。

 今のところ一番上手く行った世界でも、『世界を半ば支配した魔導帝国おうこくにおける、軍の養成機関まほうがっこう。教えることは魔法戦闘技術に特化』とか。


 ダメじゃん! 王制も貴族制も吹き飛んでるし、婚約破棄に必要な、ラブでロマンスな状況なんて全然起きないし。……まあ、一番上手くいったのは確かなので保存はしとこう。


 これはあれだ。魔力の理解とか魔物の強さのバランスとか、使える魔法の種類とかがダメなんだね。

 魔物が強すぎると生存競争、魔物なしで魔力が強いと資源獲得戦争が起き、攻撃魔法が強い世界は軍拡レースが発生と、いい塩梅にできないと本当にあっさり世界が滅ぶということが分かった。


 ――いやでも、それが分かったところで、手作業で調整しては構築、調整しては構築で、独学で何とかなるとは思えないなあ。

 義兄さんの言ってた『幻想物理学』と『幻想生物学』の大事さを痛感する。


 最終的に、滅んだ世界が五桁いちまん回に達したところで、あたしは義兄さんの助言に従うことを決意した。


『……初めからそうしてもよろしかったのでは?』

「いやいや、何事も経験が大事だよ。諦めるにも、理由がある方が良いしね!」

『そうですか。まあ、ワタシは命令を聞くだけの単純作業ですので、ご主人様マスターが足掻くのを楽しく見てましょう』

「うわー、感じ悪ー。それでも義兄さんの創生機材ジェネレータなの?」

『ワタシはしがない補助聖霊アシスタントですから、見てアドバイスをする位しかできません。何でしたら応援歌でも歌ってましょうか?』

「面白そう! お願いしてもいい?」

『やっぱりお断りします』

 

 今あたしと話しているのは、創生機材ジェネレータ補助聖霊アシスタントちゃん。デフォルトなのか分からないけど、今はメイド服を着ている小妖精の姿をしている。

 色々と試行錯誤をしている所、彼女が創生機材の中で眠っていることが分かったので、起こしてみたのだ。楽しくお喋りしながら創れるようになったのが最大の収穫だったかな、うん。

 お喋り相手がいるのは、何だかんだ言って楽しいし、方向転換して頑張ろうっと!


『ところでご主人様マスター。なぜアナタは、世界の魔力総量や魔物の強さなどの法則値を、最初必ず0か100で設定するのですか?』

「え? だって、最初は『ある』か『ない』かじゃないの? 確かに教科書とかには細かいサンプル数値とか書いてるけど、あたし馬鹿だから根拠分からないし。だったらもう、全部の法則値を1ずつ数値変えて全通り試せばいいかなって!」

『…………なるほど。ご主人様マスター、ワタシはアナタがどれだけ失敗しても、見捨てたりはいたしませんよ?』

「馬鹿にしてる?」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 で、方向転換してからがまた大変だった。

 よくよく考えなくても、魔法の要素を追加しながら、『基準世界リアル』と同じ歴史を歩ませるって、これはこれで無理な難易度だよね。

 ほとんど誤差レベルの魔法しか使えないなら特に問題ないけど、それだと魔法世界って呼べなくなっちゃうし。


 最終的には『エブリデイマジック』教授(日常魔法学の権威、優しいお爺ちゃんで、著書多数)の世界を参考にしつつ、こんな世界にすることにしたのだ。


 ・魔物なし、魔族なし、魔王なんてもってのほか。禁忌も封印も破滅も隠された世界の秘密も全部なし!

 ・魔法の構造は、術者の体力を元に発現するタイプ。魔素とかマナとかって概念は争いの元だから撤廃。人力依存なので魔法道具も無し。

 ・魔法の才能は血統に依存する。なので、優秀な魔法使いの血が群れのリーダーになって、ひいては貴族になる。

 ・優秀な貴族の使用する戦闘魔法で、マスケット銃レベルまでの火力が出せる。大したことできないけど、あると有利位のノリだ。

 ・怪我や病気を治療する魔法は重宝されるけど、こちらは血統では安定的に出ない。突然変異的なノリだね。

 ・生活魔法はそれなりに浸透している。掃除とか水の浄化とか。

 ・一般の人たちは、生活魔法以上の魔法はほとんど使えない。ただ、たまに隔世遺伝とかで魔法の才能を持った庶民が生まれる。

 ・産業革命前夜の時代で、王制は維持。産業革命が起きると魔法の優位性が吹き飛んで、それと一緒に封建制度も吹き飛ぶっぽい(あたし調べ)


『ふむふむ。これでもやはり、魔法世界である意味が殆ど無いのでは?』

「でもでも、これなら魔法を教える学園ができるハズだし、基本貴族、ちょっと庶民というバランスも行けるはずだよ。貴族が血統主義になれば、政略結婚が基本になるだろうし、うん」

『血統主義を魔法の才能、という見える形で後押しすることで、封建制度を繋ぎ止めるイメージですか。まあ、庶民が非才なりに頑張ったと言えるのでは?』

「どこまでも上から目線!」


 まあ、ここまでに滅んだりダメになったりした世界の総数は、五桁後半から、六桁じゅうまん回にギリギリ行かない位だしね。

 つきっきりで調整に付き合ってくれてる聖霊ちゃんになら、これくらい言われるのも分かるわー。


 仮想世界でよかった(二回目)


 そもそも、使える神技がほぼ『神託』だけってのも頭おかしいよね。

 一度作ったあとに、修正したり干渉したりする手段がほとんど無いよって言われているような物だし。

 いや、まあ今は試作期間中なんで、『奇蹟』どころか『編纂』やら『改竄』やらバンバン使ってて、それでも上手く行ってないんだけどね……。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 あ、そう言えば。

 あたしがガシガシと世界の滅びを量産してた時に、教授会から正式に課題の通達が来たよ。

 正式な文章ということで、文言がやたら難解になってた(というか、何か読んでも全然頭に入ってこなかった)んで、教授に通訳をお願いしたけど、曰く大枠は変わらないようで。


「やっぱり悪役令嬢が婚約破棄でパーリナイなんですね、教授!」

「パーリナイ……? 大分ハイテンションなようだが、大丈夫かね?」

「世界の滅びを繰り返し見てると、なんか万能感が凄くて! あと最近、全然寝てません!」


 世界の滅ぶ様子って、仮想世界であっても何かこう、そそる物があるよね。癖になるって言うか。実世界では絶対体験したくないけど!


「君が頑張り屋なのは分かっていたが、多少は寝た方がいいと思うがね……。まあ、中々に込み入った課題だが、君なら大丈夫だろう。教授会では最後まで揉めたが、『ざまぁ』もありになった事だし、頑張って。良い『ざまぁ』が見れることを期待しているよ」

「? あ、はい、わかりました、頑張ります!」


 すらっとしたスタイルの、できるキャリアウーマンのような風貌で、普段は厳しいことしか言わない教授。

 その教授から期待しているとまで言われたら、俄然やる気が出てくるね。


 まだ今の所、悪役令嬢に『ざまぁ?』(酷い目に合わせる、ってことだよね、多分)させる、遥か手前の所でつまずいてるけど、一歩一歩作っていこう。


 よっし、気合を入れてガンバルゾー。

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