第4話

 脂の多い美味しいお肉って、ちょっと食べただけでも満足しちゃうよね。


「んじゃ、一通り食ったし早速やるか。そういやお前、魔法系の単位って何取ってたっけ?」

「い、一応『魔法学基礎』をⅠからⅢまでと、『日常魔法学』位、かな?」

「『幻想物理学』とか、『幻想生物学』は?」

「……えと、物理の方はⅠだけで、魔物学は取ってないデス」


 脂負けしてサラダに逃げてるあたしに、むっしゃむっしゃと未だにお肉を食べ続けている『ギルド』義兄さんから痛い質問が。魔法系の単位って、必須でもなかったし、あんまり興味なかったから取ってなかったんだよね……。

 ふむーと箸を咥えながら、腕を組んで考えごとをしていた義兄さんだったけど(お行儀が悪い!)、一つ頷くと、さらっと助言をくれた。


「うん。お前さんの場合、ガッツリとファンタジーってよりは、ちょい混ぜの方が良いかもだな」

「……と言いますと?」

「いや、課題を読み返してみたんだけどよ」


 箸と皿を脇によけて、課題の紙をひらひらさせる義兄さん。


「魔法系世界ってことの他に、『伯爵家』『王子』『学園』『庶民』とかって単語あったろ。普通に考えるなら、ファンタジーの王国に建っている学園を舞台にするイメージなんだろうが」

「うん、そんなイメージ」

「俺の経験上、『ファンタジー』と『王国』と『学園』の相性は、最悪とは言わんが大分悪いんだわ。それこそ、ファンタジー世界の『冒険者ギルド』レベルでな」


 えー、そうなんだ。

 結構鉄板っぽい組み合わせに見えるんだけど、ファンタジー世界と冒険者ギルドって、相性悪いの?

 

「そっちは置いとけ、長くなるから」

「置いとかれた!」

「『ファンタジー世界』の『王国』に建てられた『学園』ってな。しっかり方向を誘導できる熟練者なら行けるんだが、大体の場合どれかの要素が邪魔になるんだ。なので、『基準世界リアル』の近世から近代――産業革命前くらいかねぇ――あたりにして、そこにちょっとだけ魔法要素を足す方がお勧めだぜ。そもそもこの課題、魔法世界である意味、あんま無いしな」

「なるなる。そも中世じゃないんだ。何かズルっぽいけど、義兄さんがそう言うってことは、何か理由があるんだね」


 『基準世界リアル』は、あたし達の始祖が作った世界。大体の世界はこの世界を基準にして、何かしらの差となる要素を追加して作られることが多いね。

 うむうむと頷いてメモを取るあたしに、義兄さんは更にアドバイスをくれる。


「あと、初めから『実世界』作るなよ? メドが立つまでは絶対『仮想世界』にしろ。でないと、神力がいくらあっても足りなくなるぜ」

「え、そうなの?」


 義兄さんの言ってる『仮想世界』とは、神力を使わずに作れる架空の世界だ。


 専用の機材を使って、『もし、この条件で世界を作ったなら?』というのを試すことができる。実際に作るわけではないので、神力の消費自体は無いんだけど、精度が粗すぎるので、あんまり役に立たないって聞いてたよ。

 『実世界』と違って、時間の巻き戻しや途中保存なんかができて、便利といえば便利。だけど、あくまで玩具レベルって話だ。実際あたしも授業で何回か使ってたけど、実際の創世に役に立つとはあんまり思わなかったし。


「あ、そうか。大学の教材レベルだと、お前の言う通り、あまり役には立たんな」

「ふむふむ」

「だが、実業務になると、かなり細かな要望が飛び交うことになるんでな。専用の創世機材を使って仮想で回さねえと、酷い目に遭うんだわ。最近の機材は進歩してて、そこそこな性能のヤツでも十分参考にはできるし、それこそ業務用なら実世界と遜色のない物も創れるしな。――っつーことで、ほれ」

「おお!」

「昔使ってた鍵タイプの創世機材、課題終わるまで貸しとくわ。大学の課題用にしちゃ、ややオーバースペックだし、結構設定がシビアだが、まあお前なら使いこなせるだろ? そろそろ卒業課題の発表時期だし、お前さんからの呼び出しってことで、大体用事の検討はついてたしな」

「流石義兄さん、分かってる!」


 『ギルド』義兄さんは、小さな水晶製の鍵を投げ寄こしてくれる。この鍵型の道具が、世界を作るための機材一式が詰まった創世機材ジェネレータだ。型落ち品とか言ってるけど、ぱっと見た感じでも、確かにあたしが授業で使ってた奴――占いに使う水晶玉みたいな形で、色々と遊んでいた機材――とは性能が段違いに見える。


「とりあえず、慣れるまでは仮想でガンガン作ってけ。いくらお前さんでも、暫くはマトモには作れんだろうがな」


 そう言って頭をポンポンと叩く『ギルド』義兄さん。

 うーん、素敵な笑顔だ。我がお姉ちゃんの目に狂い無し、ってね。


 そのあと、締めのデザートまで堪能したあたし達だったが、結局「餞別だ」って、義兄さんが焼肉代を全額払っていってしまったのであった。

 何だあの義兄、神か。


 ……神だったわ。

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