第2話
唐突な話だけど、あたしは女神だ。
容貌が、とか、性格や評判がとか、そんな大層な奴じゃなくて、ガチ創造神の方。
正確に言うと、まだ見習いなんだけどね。
どんなお仕事をするのかっていうと、基本的には他の神様――運命神とか破壊神とか――からの要望を訊いて、その要望を叶えるべく世界を構築するというのが一般的かな。
お給金はそれほどではないけれど、やりがいが凄くあるって、先輩方はみんな言ってる。
大きな世界を構築するのは天界でも一大プロジェクトで、その中でも、運営する側に渡すまでの一切を取り仕切る創造神は、まさに「花形」と言っていいと思いマス。
あたしも創造神になるべく、天界大学の創世学部に通ってて、今のところまあまあ良い成績を修めてる。必修単位は一通り取ったので、あとは、卒業課題だけ。これさえ出すことができれば、卒業後、立派な新米創造神として、簡単な世界の創造を任せてもらえる事になっているのだ。
ただ、この卒業課題と言うのが凄い曲者で。
一年以内に「指定された条件の世界を一つ構築し、その世界の出来によって評価される」という仕組みなのは例年変わらないんだけど、年が経つにつれて難易度がどんどん上がっているらしいのだ。
そもそも学生は、
なんでも、創った世界の中で特定のシチュエーションを発生させることが最近の流行らしいのだ。ゼミの一期上の先輩が、
何とか『可』をもらえて卒業できたって、飲み会の席で言ってたけど、完全に燃え尽きてたしなあ。
今、生きてると良いけど……。『ヤンホモ監禁エンド』先輩……。
ちなみに、この課題中はゼミ生同士の交流も基本NGになるので、今まで他神に頼ってばかりの神(あたしとか)には、かなり辛い試練になりそう。
どんな難題がくるのか、すごい不安。
どうか
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……と、そんな数時間前のあたしの痛切な祈りも虚しく。
今、あたしは大学のキャンパスを歩きつつ、教授から受け取った卒業試験の課題メモを眺めて、途方に暮れていた。
教授が言うには、まだ教授会で話し合いがなされてる最中だから少し変更があるかも、という話だったけれど、大枠はこれらしい。
先にこっそりリークしてくれるあたり、やっぱりうちのゼミの『ハーレクイン』教授は優しいな、とは思うんだけどね。
課題の紙には、こう書いてある。
「――卒業過程。
下記全ての条件を満たす、簡易小型世界(惑星)以上の実世界を構築し、提出すること。
・魔法世界であること(小分類は問わない)
・当該世界にて、悪役令嬢が婚約破棄されること。
・上記は、悪役令嬢の通う学園の卒業式にて、公衆の面前で行われること。
・悪役令嬢の立場は伯爵家以上とし、また婚約者は王国の王子とすること。
・婚約者たる王子には、想いを寄せる庶民の令嬢が存在すること。
・上記、庶民の令嬢には、王子の外に四名以上の貴族男性が想いを寄せている(逆ハー状態である)こと。
※ざまぁ要否については教授会にて検討中。
なお、構築後の世界に対する神技介入の行使は『神託』と『奇蹟』および『悪役令嬢への転生』に限定し、『神託』の濫用、および『奇蹟』の行使は評価に影響する。
以上――」
いやー? と遠い目になるあたし。
難易度云々の前に、まず用語の意味が分からないんだけど。ツッコミどころが満載じゃない、これ?
そもそも悪役令嬢って何さ?
なんで婚約破棄されてんの?
公衆の面前? というかそれ以前に学園なの? 王子が学園に通ってるの?
逆ハー状態? って何??
しかもですよ。
例年の教授会の傾向から、恋愛系が来るだろうとは思ってて、それ自体はあってたけれど、舞台がまさかの魔法世界。
ファンタジーですよファンタジー。
色々と切羽つまったあたしは、とりあえず大学図書館に行って、単語の意味だけでも一通り調べてみようと、心に誓ったのだった。
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