鯖サンド

 少なくとも朝は早く起きるようになった。ホテルの部屋にカーテンはなく、朝日が入り込むと嫌でも目が覚める。そのまま何となくビーチを散歩し、ゾリからコーラを買って昼までビーチで過ごす。今は昼飯にうまいサンド屋を見つけた。焼いた鯖とスライスした玉ねぎをバゲットに挟んでレモンを絞ったやつで、どこの料理か知らないが、少なくともどん兵衛よりうまい。

 俺は一応帰る道を探してみた。初めに落ちてきた草原に行ってみようと思ったが、どういうわけか来た日にはなかった陣地?のようなものができている。兵士がいて鉄条網が張り巡らせて入れないようになっている。

 ヘルメットを脱いで道の木箱に座ってパンを食っていた兵士に聞いてみた。ここ、入れないのか。

 外国人の年齢はよくわからんが、その兵士はずいぶん歳をとっていた。メガネをかけてペーパーバックなんか読んでいた。

 「入れんよ。不発弾が見つかったんでプレジデンテの命令で封鎖してる。国民のためさ」

 プレジデンテ。スペイン語で大統領、どうもこの島はまんまトロピコに近い設定になっているようだ。ちなみに話しているのは一応英語で、多少は上達してきた。


 夜。インターネットがつながるPCがホテルのフロントにあったので、ここがどこか調べてみた。パラダイス共和国。いくつか小説やドラマの舞台になった架空の国名が出てきて、それだけだ。

 当たり前だが実在の島じゃない。というわけで俺の部屋のクローゼットから通じた先は異世界みたいだった。やったぜ異世界に転生っていうかケツを打ちながら落ちてきた。そろそろ無双しててもいいころなんじゃないか、その手のコンテンツだと。

 繋がっているのが本当に俺の知っているインターネットかどうか、いくつか利用していたサービスにログインを試みた。将棋ウォーズとか。ログインは成功、出てきたマイページデータも俺が知っている者に相違ない。では繋がっているのは実際のインターネット。

 まあ俺の頭がどうかしている、という最有力の説は依然として残っているのだがそれは考えるだけ不毛な話で。だいたい俺の脳が作り続けているにしてはなかなかに快適だ。

 戻ってどうするという話もある。本当に腹を切るかどうかはともかく、向こうに、日本の親父がもう帰っているであろう家に戻ったところで俺に明るい未来があるとは思えない。

 そんな調子で決めかねてビーチをうろうろしていると、ある日ホテルの電話が鳴った。来客が来ているという。

 ゾリかと思ったがあいつはいきなり部屋に来る。誰かと聞いたら相手はプレジデンテだと。

 ようやく異世界モノっぽくなってきた、のか?

 

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