島の夜

 結局、このわけのわからない島での夜はそう悪くなかった。島に一軒だけあったホテルにもクレジットカードで泊まることができ、食事も何とかなった。

 謎のパッションフルーツと豚肉の炒め物みたいなわけのわからんものを食ってコーラを飲んでベッドで寝て夢から覚めるのを待ったが、翌日しっかり俺は南国のホテルで目が覚めた。

 しつこい夢だ。

 ビーチをぶらぶらしているとこの島唯一の知り合い、売店の男が今日は何を買うんだ的な事をへたくそな英語で言ってきた。何も。クレジットカードだっていつまで使えるかわからない、目立つことはしたくない。親父が止めたらそれまでだ。そんなことを言うとふんふんと頷きながら聞いていて、じゃあ友だちのために力を貸してやろうと言い出す売店の男。

 いつの間にかこいつと友だちになっていたらしい。名前も知らないぞ、というと売店男はゾリと名乗った。

 ゾリに連れられて行ったのはゾリの友だちがやっているという土産物屋。貴金属のネックレスが何本か並んでいるのを見て何となく察する。あれか、クレジットの現金化というやつか。何かものをクレジットカードで買ってそれをすぐに売り払う。金に困った底辺のやることで一応はクレジットカードの規約違反で最悪詐欺になるはず、等と思っていたがゾリとその土産物屋の手口はそんな生易しいものではなかった。

 カードを受け取り何かの機械に通し、レシートが出てくる。それを10回やった。レシートが10枚、それぞれ100ドルと書いてある。1000ドル分のお会計。ゾリの友だちは無造作にレジ金から900ドル俺に渡した。アメリカ大統領の顔の書かれた緑色の米ドル札。

 物を買って売るとかいう面倒な事もすっ飛ばした豪快な手口に俺はもう感心して笑うしかできなかった。

 「今日は千ドルまで。10%がコミッション、良心的。明日まだカードが使えるような幸運があれば、もう千ドル行こう。それでしばらく遊んでいられる。それ以上は犯罪だからやらない」

 ゾリ友はそういう。ゾリよりは聞き取りやすい英語だった。すでに犯罪だろ、とか突っ込みたかったがやめておいた。とにかく手元に現金ができた。


 その日は熱かったので夜まで土産物屋でだらだらチープな民芸品とかを見たりテレビをぼーっと見て時間を潰した。テレビはなぜかCNNが流れていた。夕暮れ、ホテルに戻る俺にゾリとゾリ友が当然のようについてきてそのまま一緒に飯を食った。たかられるのかと思ったが、普通に二人とも自分の食った分の金を払っている。

 ホテルのフロントに世界地図があった。ここはどこだ、と聞いてみるとゾリはカリブ海のあたり、ゾリ友はオーストラリアの上あたりを指さした。

 大笑いする。何だこいつら。


 翌日、いくらかの幸運があったので俺はもう900ドル手に入れた。

 「ついてるな。明日もいけたら、もう千ドルいくか」

 犯罪はどうした。

 俺たちは何となくそのまま海に行って、一日ビーチで泳いだり泳がなかった利して過ごす。なんだこれ。

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