クローゼットの島

 クローゼットの中の草原に落ちてケツを打って痛かった。意味が分からなすぎて逆に安心感さえ感じる。もう全部夢ってことで大丈夫だよな、的な。

 とりあえず現実に痛むケツをさすりながら立ち上がる。明らかにそこは屋外で、見渡してみると道路があり南国風の建物があり向こうの方にはヤシの木の生えたビーチもある。

 南国の島っぽく見えた。それこそトロピコみたいな。

 潮の匂いのする風が吹いてくる。夢か俺がメンヘラになったのか知らんが、とりあえずリアリティがあった。まあ夢だって見てる間はリアリティがあるもんだが。

 俺はビーチに向かって歩き出す。クローゼットの中に草原があると思ってなかったから当然靴なんか履いてない。草原はまだよかったが道路を渡る時は石ころが痛かったしビーチは砂が暑い。

 ビーチにあった売店ぽいものに近づく。いかにも古そうな瓶のコーラのポスターが貼っていた。店番をしているやる気なさそうな外人に「コーラをくれ」と言ってみると多分スペイン語で何か言われた。不便か。ガチ外国か。

 一応高校で真面目に英語やっていた程度の英語力でコーラを要求し、財布に入ってたクレジットカードで支払った。親父のカードの親子カードで、出張の間の買い物はこれでしろと言われていた。明細を監視出来て都合がいいらしいがとにかく助かった。

 礼を言って去ろうとする俺に、店員は店先に並べてあったサーフボードを指さす。成績は良かったが実践経験に乏しい俺の英語力で何とか理解したところこれも買っていけ、ということらしい。ビーチを楽しむにはお前の恰好じゃだめだ。ここはこの世の楽園のパライソ共和国、海で楽しまないとどうするんだと。

 夢なら楽しい方が良い。俺はやったこともないサーフィンを試してみることにした。売店の男のいうまま水着も買い、その辺の茂みで着替え人生で初めてのサーフィンに乗り出し2秒で波にのまれてひっくり返り水中に叩き落された。海水が気道に入り飲んだばかりのコーラを吐き散らしながらもだえる俺を売店の男は指さして笑っていた。


 口の中にいつの間にか入りこんだ砂を吐き出している俺に売店の男がやってきてもう一本コーラを渡してくれた。できればミネラルウォーターがよかったが好意に文句はつけられない、と思ったが普通に金を請求された。死ね。あと流されたサーフボードの代わりにもう一本買うか?とも。二度死ね。

 

 もう夢でも俺の頭がおかしいということでも構わない。せめてもっと俺の都合のいい展開になれ。

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