8話
今日は私の艦隊の初顔合わせだ。
色々私が問題を起こしてしまったために、数週間遅れてしまった。
私が所属するのは第二艦隊。
第四艦隊まであるのに第二艦隊というのは入ったばかりにしては凄いらしい。
ちなみに、フンボルト大尉は私に合わせて第一艦隊から第二艦隊に下がってくれた。
早く第1で活躍できるように頑張れと、交通安全のお守りを渡された。
なぜ交通安全なのか、そんなことよりもフンボルト大尉の優しい対応が嬉しかった。
「大尉、第二艦隊の皆さんはどんな方々なんですか?」
行く途中の長い廊下、朝の清々しい風と洗って干したてのシャツ。
なんて贅沢なんだ。
フンボルト大尉は鼻でフンと笑い、おまえよりは優秀だと私の頭をガシガシと撫でた。
もしかしたら、大尉は伝えるのが苦手なだけなのかもしれない。
いつもは少し落ち込んでしまうけど、今日はなんだか嬉しく感じた。
昨日のおじいさんのおかげだろうか。
大尉に話そうと思いあの、と声を出した時キラキラに光る銀の装飾の綺麗なナイフが私めがけて飛んできた。
思いっきり目を瞑ってつい最大出力のバリアを出してしまった。
残念なことにナイフは曲がってしまっている。
「ほぅ」
目の前に小さな丸メガネの男の子がたっていた。
私よりもずっと小さいのに胸元には勲章がびっしりとついている。
軽い足取りで私の前に落ちているナイフを拾い上げると私の方をじっと見つめた。
「あんた、名前は?」
見た目には似合わないバリトンボイス。
背筋を無理やりぴんと伸ばして敬礼をした。
「今日から第二艦隊に所属しております。クララ・ワグナーです。」
「そうか、あんたが……」
ニヤリと怪しげに笑うともくもくと煙に包まれ、煙が消えたかと思うと小さな少年だった彼は少し小太りの中年になっていた。
「すまんな、図体がでかいから魔力を温存しておくのには向かないんだ。これが本来の私だ。」
手元のボタンをしっかりとめ、シャツの襟元をぴんと伸ばすと私に手を伸ばす。
私がしっかりと握ると、乱暴に腕を上下させた。
腕が外れそうだ。
「今日からご指導お願いします。隊長はお元気ですか?」
フンボルト大尉も手を伸ばし、こっちは丁寧な握手をしていた。
なんだ、できるじゃないか。
私は少しムスッとした顔で帽子をかぶり直した。
「エスダンか?あいつは相変わらずだよ。お前が来るって聞いたらな、あいつも落ちたなって笑ってたぞ。照れ隠しなんだよ。」
ワハハと豪快に笑って大尉の背中を叩いた。
「とりあえず来いよ、こっちだ」
気がつくと男は大きな扉の前に立っており、手招きをしている。
手元にある銀のナイフはもう元どうりになっていた。
「遅いのでは。」
目の前に威圧的なガスマスクを着けた人がどしっと座っている。
男なのか女なのかわからない。
もじゃもじゃくるくるの長い髪であるが、随分と大きくて他とは違う陸軍歩兵の迷彩服を着ていた。
「すみません。こののろまが歩くの遅くて」
私のことを指さし、大尉が鼻で笑った。
「でもワグナーちゃんは才能あるぞ」
私の方を指さしまた少年に変わった男が得意げに笑った。
「それでは自己紹介とでもいきますか?」
奥からひょろっとした痩せ型の男が言った。
「私がデント・リュース大尉だ!しっかり覚えておくんだぞ!」
私の目の前で手をおおきく振りながらぴょんぴょん飛んだ。
やっぱりこの声は合わないと思う。
いつか慣れるのかなと思いながらはいと元気よく言った。
「僕はトム・ステルフ中尉です。よろしくお願いしますね」
さっきの痩せ型の男だ。
リュース大尉を持ち上げ騒がしくてごめんなさいと謝られた。
なんだかほっこりする。
そして、端からもう消えてしまいそうな声が聞こえた。
「初めまして……ステラ・テルスフ少尉です。こっちが妹のリュヌ・テルスフ」
そう言って、前髪で顔がほとんど見えないステルフ少尉は奥のガラス張りの箱を指さした。
薄い青色の液の中に少女が入っていた。
箱に手を触れると、横のPCがピコンと着いた。
「わわっ!この子が?かわいー!!」
PCの中に箱の中の少女が浮かび上がり話し出す。
それから、自らの体を見て少し苦笑いし私も一応仲間だよ、1隻をお兄ちゃんと2人で操作してるんだけどねと言った。
「私はエスダン第二艦隊隊長です。」
相変わらず表情の読めないガスマスクで冷たい声をしている。
「何かわからないこととかは?」
エスダン隊長が近付き私の前髪を上げ、頬を撫でた。
ゴツゴツしたグローブを着けたエスダンの手は少しくすぐったくて無機質な冷たさがあった。
に、しても距離が近い。
「本当に綺麗、光の加減によって色が変わるの。」
私の目を不思議そうに見つめ、光の角度を変えるように私の顔を動かす。
「おもちゃじゃないんですけど?うちのは。」
「いいじゃないか、私は好きだ。」
こうして小一時間フンボルト大尉の話も聞かずに遊ばれた。
クララ戦記 鞘 漣帝 @german1940
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