第5話
カンカンカンカン_____。
艦内に無機質な音が響き渡る。
「ワグナー!1時の方向に敵だ!」
方向を変え、目を凝らしてよく見ると黒い影がぽつんと見えた。
「今から向かう。私含めた第一艦隊が出撃する。お前は早く戻ってこい!」
大尉の言葉に私は耳を傾けずにただ艦を前に動かしていた。
「何をしている!死にたいのか?!」
まるで水の中にいるような聞こえ方だった。
少し進むと、小さな黒い影だったものの形がはっきりと直視できた。
「フランス人形……」
確かにフランス人形だった。
それは巨大な巨大なフランス人形だった。
こんなものといつも戦っているのか。
新聞にも、テレビにもインターネットにもこんなことは書いていなかった。
フランス人形は目から油をたらし続け、カクカクと動く腕で海をかき分け進んでいる。
ガコン_______。
大きな頭をこちらに向け、まるで新しいおもちゃを見つけたかのようにニィッと不気味な笑みを浮かべた。
あの時話を聞いていれば。
何度も心の中で謝り続けた。
撃たなければいけない。
やっと決意ができた。
私はこの国を守るために、あのへんてこりんなフランス人形を撃つ。
簡単なことじゃないかクララ。
決めたならもうもたもたしていられない。
手は汗で今にも滑り落ちてしまいそうだ。
「私はクララ・ワグナー!大尉の忠告も無視する馬鹿な女!」
このへんてこな野郎に聞こえるぐらい叫んでやった。
親指でボタンの蓋を弾く時にはもう楽しい気持ちが勝っていた。
どうすれば勝てる?
弱点は?
考えれば考えるほど楽しい。
「これだ!!!」
思いっきり力を込めてボタンを押した。
きっとこれなら。きっとこれなら。
主砲からは色とりどりのドレスやリボンなどが飛び出していった。
そしてもう目の前に迫っていたフランス人形を包み込んだ。
ぱきぱきと、竹鳴子のような音がして灰になって消えた。
港に艦をつけて降りると、すぐに大尉が駆け寄ってきた。
そして私を殴った。
「クララ・ワグナー!お前は上司の話も聞けない馬鹿な女だ!死にたかったのなら今ここで私が殺してやる!」
胸ぐらを捕まれ身動きが取れない。
大尉は溜息をつき、敵との初戦はどうだったかと聞いた。
私は唾を飲み込み楽しかったと大きな声で言ってやった。
またこの後に頭にゲンコツが落ちたのは言うまでもない。
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