第4話

私たちが戦うのは、人間ではない。

それはある日突然現れた。

ある人は神と崇め、ある人は悪魔と貶した。

そいつは巨大で何一つとして同じ形のものはいなかった。

ただ全ておなじなのは人を見つけ次第殺すということだけ。




「起きろワグナー!いつまで寝ている!」

大尉が私の髪を掴んだまま持ち上げた。

「痛い痛い痛い!やめてくださいよ!今日はクララの初仕事なんです!」

わざと口をふくらませて見せた。

「だからこうやって起こしてやってるんだ!このピン返してもらおうか!」

それは嫌だ。

やっと、やっと貰えたこのピン。

守るように手を重ね、昔母にしたようにキッと睨んだ。

そして素早く立ち上がり、乱れた髪を手ぐしで元に戻した。

「お前乗り方わかるのか?わからんだろ」

顎を少しあげてニヤつく大尉はいつもより20倍ぐらいうざったるかった。


シャワーから戻り、クララの中心部に入った。

書類作業と並行して乗り方とか、動かし方を勉強していたが、本物だと思うと手から湧き水のようにドバドバと手汗が出てくる。

それから私は真ん中のふかふかした椅子に座った。

すると目の前は外の映像に切り替わり、手元には操作用のハンドル。

無線では大尉の声が聞こえる。

大尉は戦艦で何かあったら駆けつけてくれるらしい。

あの人のことだからあまり信用していないが。


「よし」

決意をかため、ぐっとハンドルを押し込んだ。

轟音と鐘の音、そして右耳から聞こえる大尉の声。

全てが私の背中を押した。

目の前には青い海が広がり、眩しいほどに太陽が私を射止める。

「やりました!大尉!」

「これくらい当たり前だ。1度前に撃ってみろ」

私はゴクリと息を飲み、ボタンのカバーを親指でカチンと弾き、力強く押した。


さっきとは比べ物にならない轟音と衝撃が走る。

背中をなぞられるような、そんな気持ちになった。

しかしそれが快感で、波を貫く弾は真珠のようにキラキラしていた。


「あの塔みたいなのはなんですか?」

目の前に白い巨塔が見えたので聞いた。

それは一定間隔をあけ立っていて、まるでこの国を守っているようだった。

「お前そんなことも知らないのか。全く、だから村の娘は……」

「村のことバカにしないでください!」

こっちからすれば全く、どうして都会の人間は何も教えないのだ。

そう言いたいぐらいだ。

「あれは国防十八柱の1本だ。ぐるっとこの国を囲んでいて中には魔力の強い何かが入っている。それは剣であったり、鏡であったり、また鬼であったりする。」

鬼?そんなもの本当にいたんだ。

私はてっきり作り話だと思っていたから、すごく驚いた。

それと同時に好奇心に変わった。

「お前のことだから会いたいとか言うだろうが、絶対に近付くなよ!」

いつも以上に強く言われた。

そんなこと言われたらもっと近付きたくなる。

人間は誰だってそうだと思う。

いや、そうに違いない。

だって、昔から火災報知器に向かって煙をかけてみたかったし、学校のあのボタンは押してみたかった。

どれもやったし、どれもきつく怒られた。

でもそれが楽しい。

それが人間なのでは無いのか。

「甘いですね大尉」

ニヤリと笑って言ってやった。

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