第3話

それから数日後。

私が受かったと告げると母と父は驚き、喜んだ。

私が喜んだ時よりももっと喜んだ。

それから妹の墓参りに行き、妹にも受かったことを告げた。

ちょうど3日たった時に海軍の制服が届き、家族みんなでまた大喜びした。

夢ではなかった。

制服は、白い首元の詰まった一般的な制服と呼べるものであったが、ズボンではなくプリーツスカートだった。

着ると少し大きくて母は服に着られているみたいだと笑った。

いつもはこう言われると怒るのだが、なんだか今日は嬉しく思えた。

明日からほとんど会うことが出来ないのだと思うと自然と涙が出た。

「嬉しいはずなのに」

父はただ黙って私を抱きしめて、母もそれに続いて私を抱きしめた。




「遅いぞワグナー!」

もうワグナーさんとは呼ばれることは無い。

フンボルト大尉は、私を毎日こき使った。

しかも何も道具を使わずにお茶を入れろだの、芝を刈れだの……

「まだ1分もたってませんよ、ペンギン大尉」

皮肉たっぷりに言ってやった。

しかし、そのおかげもあってかだいぶ魔法が使えるようになった。

バリエーションも増えたし、威力も大きくなった。

しかしまだあの水晶は割ってしまう。

コントロールすることは何より難しいのだ。

ここに来て数ヶ月。

私の他に軍に入ったのはわずか9名。

私合わせて10名という訳だが、海軍には私1人。

海軍の軍人は1人で舵を取り、攻撃をし偵察をする。

だからあまり人がいらないそうだ。

しかしだ。

教育するだの言っている割には家事全般だったり書類ばかりだ。

艦にも1度しか乗せてもらっていないし、自分で動かしたことなんてない。

入れた紅茶を大尉の前に置き、私も正面に座った。

「いつになれば私は艦を動かせるのですか?私はここにメイドとしてきた訳では無いのです。見てくださいこの制服を」

手でまだ綺麗なままの制服をピンと伸ばし見せつけた。

「知らんな」

手に新聞を取りいつものように返された。

聞こえるように大きく溜息をつき立ち上がって出ていこうとすると、慌てて大尉が私を止めた。

「こっちに来い………よし。」

そう言って私の胸に赤く光る星のついた勲章をつけた。

そこには小さく、クララ・ワグナーと掘られていた。

「これは…」

「教育終了のなんだ、あれだ。お前は元々魔力もあったし素質もあったし覚えが早かったからな、でも今日までは渡せなかったんだ。のにお前は急かすだろ?全く」

大尉は少し笑っていた。

「それにだな、お前の艦ももう出来てるんだ。見に行くか?」

そう言った大尉の腕をガシッとつかみ、無理やり立ち上がらせた。

行く先はドック。

見るものは私の艦。

海軍の船は全て乗る人の名前がつけられている。

つまり私の艦はクララだ。

「私のクララが待ってるんです」

大尉はまたクスッと笑って2人は子供ののように走り出した。


「す、すごい。」

艦をぺたぺたと触り、にやにやしながら言った。

明日からこれに乗るんだ。

「駆逐艦 クララ。こいつの名前よ」

前から三つ編みそばかすの汚れた少女がちらっとこちらを覗いた。

「ええ、私の名前なの」

するとその少女は目を見開いて、嬉しそうに笑った。

「この艦私が作ったのよ、私のはじめの艦なの」

「ならあなたも新兵?10人中の1人?」

すると激しく縦に首を振り、2人は手を繋ぎあって笑いあった。

彼女はソフィーというそうだ。

ソフィーはそのあとこの艦のすごい所を湧き水のようにどんどん話して言った。

その時の彼女の瞳はルビーをそのまま押し込んだように美しかった。

そして2人で話し込んだ。

どうすれば早く進むのか、どうすれば狙いを定めやすくできるのか、どうすれば大尉を超えるぐらいに強くなるのか。

結論は、自分の個性を生かすこと、そしてクララを信じることだった。


3時から始めたはずの話はいつの間にか夜の10時になっており、クララとソフィーは2人クララの中で眠った。

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