第2話
群がる人を割って姿を現したのは、たくさんの勲章をつけた鼻の高いブロンドの男だった。
年齢は若く見えたが、勲章からして若くて20前半か。
「あなたがワグナーさんですね?」
落ち着いた冷たい緑色の瞳が私を刺す。
「ごめんなさい、割るつもりはなくて、あの……弁償……おいくらぐらいに……」
最後の方になるにつれて声が小さくなり、もう消えてしまいそうだった。
すると、緑の瞳が輝く。
グフッ____。
誰かが笑った。
その音がした方向は、確かにこの幹部だ。
「失敬。その反対ですワグナーさん」
仏頂面のこの幹部が笑うとは思わなかった。
「反対、とは?」
「次の試験の筆記、実技は必要ないです。つまり、合格です。」
緑の瞳はぐにゃりと折れ曲がった。
水晶は3年間割れていなかった。
その3年前に割ったのは何を隠そうこの私だ。
あの水晶は物理的な攻撃では割れない。
つまり割れたということは、魔力が計り知れないということだ。
その知らせを聞いた時、私はこの前の電撃戦以来の興奮に満ちた。
会ってどんなやつか顔を見て見たかった。
しかしこの女と来たら弁償するだの意味のわからないことを言っていた。
未知にも程がある。
「さあ、来てください」
無理やり手を引っ張り、軍の接客間に連れ込み、座らせた。
「私はフンボルト大尉です」
軍部の接客間に通らされたものも、周りには前の村では見れなかったようなものがキラキラと光り輝いており、どうしても落ち着けなかった。
さっきフンボルト大尉が掴んでいた私の右手首は少し赤くなっていて、まだヒリヒリする。
「ペンギン…」
しまった。
フンボルトと言えばペンギンだななんて考えたから……
すると、フンボルト大尉はクスッと笑いペンギン大尉とも呼ばれていますと言った。
「申し訳ございません。私はクララ・ワグナーと申します。」
少し俯いて、また声が少し小さくなってしまった。
「ワグナーさん、あなたは小さい頃からこの魔術に気づいていたのですか?」
直ぐに首を横に振った。
「知っていたらもっと早くからここに来ていました。この前の村の被害も防げましたし」
私の村でこの前隣国によってテロ事件が起きた。
こんな小さな村でテロを起こすのはおかしいなと村人はみんな口を揃えて言った。
きっとそっちに警備が回るようにわざと中心地から外れた場所で爆発させたんだろう。
軍からもそう説明されたし。
「あなたは何軍志望なんですか?」
4個目ぐらいの質問でそう聞かれた。
「海軍です!」
思わず立ってしまった。
大きく上げた拳を膝に置き、そのまま何も無かったようにさっと座った。
入るなら海軍と決めていた。
「いろんな国を、いろんな景色を見てみたい」
5年前に死んだ妹が最後に言った言葉だ。
海軍は魔力が他の軍とは桁違いに必要だ。
だから少し諦めていたところもあった。
「そうですか、私も海軍です。良ければ私が上の者に言って推薦者として軍に招待しますが…」
そう言われた瞬間、嬉しさと喜びと不安が一気に外に出ていったような気分になった。
自分が今どんな顔をしているのか分からない。
しかし、きっと幸せに充ちた赤ん坊のような。
餌を与えられた子犬のような。
あるいはそれ以上の顔であると思った。
「喜んで!」
こうして私の戦いは始まった。
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