城9 マッドサイエンティスト

 飄々としていたチヌとは違い、その青年は明かに警戒しているようだった。

 顔を見ればそれがわかるだろう。


「そういえば私もよくわからない人だった。まあ、名乗ってよ。私はチヌ・メイデン」


 改めて名乗るチヌ。フルネームではチヌ・メイデンというらしい。


「俺はアトゥ、彼女はペイル・ムーン。この城に取りに行くものがあったんだよ」


 と、アトゥ。その隣でペイル・ムーンがお辞儀をした。


「俺は」


「うん、ミナキも私も知ってるから名乗らなくていいよ。いつもロールケーキを差し入れてくれて助かってるからね」


 名乗ろうとしたエリアスを遮り、チヌはツッコミを入れる。


「ハカセが言ったように、僕はミナキ。ミナキ・サイレニア。ハカセと一緒にいろいろな研究をしてて、僕は機械を作っている。ハカセは薬を作っているよ」


 と、ミナキ。

 ミナキは吸血鬼だ。アトゥでもはっきりとわかる。


「ああ、そうだ。僕は地上のこと少しは知っているけれど探索者のボスが猫って本当かい?」


 ミナキは続けた。


 ボス。アトゥやペイル・ムーンの上司に当たる人物だが、顔出しはNGだと言われている。ゆえに、その顔を知る者はいないという。


「……噂だろ」


 アトゥは返答に詰まり、そう言った。

 確かめられないことをホイホイと話すようなことはできない。


「そうかもしれない。僕がいくら地上のことを知っているとはいってもね」


 ミナキは言った。


「地上がどうのっていう前にミナキの発明品見ていってよ。もう、凄いんだから」


 アトゥとミナキの会話に口を挟むチヌ。

 発明品、と言ったが――


「見たいです」


 ペイル・ムーンは言う。


「俺とプイスは上に戻るからいいや」


 エリアスは言った。

 もともと彼とプイスは治療のためにここに来たのだから仕方がない。第2階層に戻ればまた楽しく殺人オセロでもするのだろう。


「また会おう! 今度はマイルドな殺人オセロかトレーニングでもどうかな!?」


 プイスも言った。


「殺人ってつく時点でやらねえよ! いや、でもトレーニングはしたいな。また今度な」


 アトゥとペイル・ムーンは手を振って、エリアスとプイスと別れた。




「ミナキ君のラボはこっちだったかな」


 エリアスとプイスと別れた後、チヌは言った。


「合ってるよ。生きたまま首を切断する装置もあるんだ」


 と、ミナキ。

 心なしかミナキは嬉しそうな顔をしていた。




 ミナキは鉄製のドアを開け、アトゥとペイル・ムーンを中に案内する。

 ドアのむこう側には何やら怪しい機械が並べられていた。

 そのうちの1つ――人体の置かれたベッド。だが、置かれた人体は首と体が離れており、血管や神経がチューブらしきもので繋がれていた。呼吸はある。


 アトゥはその正体に気付き、目をそらした。

 とんでもないものを見てしまった。


 一方のペイル・ムーンは装置に近寄って置かれた人体を見た。


「だいたい首ポロ……?」


 と、ペイル・ムーン。彼女の目がキラキラと輝いている。


 アトゥとペイル・ムーン。とんでもないものを見た2人の反応は正反対だった。


 装置をまじまじと観察していたペイル・ムーンはある貼り紙を見た。


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 貼り紙にはこう書かれていた。

 二文字のアルファベットが示すもの。それはアトゥもペイル・ムーンもまだ知らない。

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