城10 ほとんど首ポロ

 首が切断されて、その後に血管や神経を繋げば生きていられるらしい。首を落とされて生存していたニワトリだっている。長くて18か月とも聞いたことがある。


「アトゥさん、ADって何の略でしょうね?」


 ペイル・ムーンは言った。


「さあな。正直、ほとんど首ポロ死体は見たくねえよ」


「え? 生きてますよ」


 アトゥはほとんど首ポロ死体の方を見た。

 ……息をしている。首が離れていても、怪しい技術のおかげで生き永らえているようだ。意味が解らない。


「生きたまま首が取れるとかどんな冗談だよ。さっきのプイスか?」


 と、アトゥ。まだ冗談か何かにしか思えなかった。その様子を見るミナキは何かを企んでいるようだ。


「それにしても気持ち悪いモン見せられたな。さっさと出ようぜ」


「ええ……せっかく首が取れかけたイケメンを見たのにもう出るんですか?」


 ペイル・ムーンの趣味からしてみればおかしくない発言だ。だが、アトゥはもう耐えられない。この痛々しいほとんど首ポロを見続けるのは。


「俺は先に出るからな。つうか、目的はわかってんだろうな」


「炭の首ですね?」


「そうだ」


 ペイル・ムーンも一応は本来の目的を覚えていた。そもそもこのADと書かれたものが炭の首である可能性も否定できなかったがアレが人体につながっているはずなどないのだ。

 とりあえずここから出よう。




 部屋から出たアトゥたち3人。チヌは表情を変えることなく出迎える。ここに炭の首があったというわけでもなく、ミナキやチヌの発明品と技術を見てきたということで終わりだった。

 さて、次のフロアへ向かうつもりなのだが――


「Yo! お2人、楽しんでるかい!?」


 この胡散臭そうな声は。

 奇抜な服装をした正体不明の人物、DASSYだ。案内人としてここにやってきて一度姿を消していたというのになぜここで現れた。


「あ、DASSY。また私の邪魔をしに来たのかな?」


 チヌはあからさまにいやそうにしていた。一方のDASSYはそれに構わずにミナキの方に近寄って。


「ミナキー。君の発明品を見せてもらいたいんだYO」


「ああ、例のブツだね」


 発明品。例のブツ。何のことかわからないが、2人だけの話のようだ。そして2人はアトゥたちにわからないことを話しながら再び研究室に入っていったのだ。


「チヌさん。DASSYさんの言う例のブツって何なんでしょうね」


 ペイル・ムーンは臆せずに言う。


「……知らない方がいいから。でも2人で何かやろうって考えているのは確かなんだよね。ミナキは私に教えてくれないし」


 チヌは答えた。彼女でさえ知らないものが扉の向こうにあるのだそう。それがADとやらかとはアトゥも考えたがそれ以上に面倒になりそうなのでこれ以上つっこむのは避けたかった。


「へえ。ADって何だったんでしょうね」


「謎のシステムじゃねえのか? プイスの首が取れて生きていられたように」


「なるほど!」


 アトゥとペイル・ムーンは納得した様子だった。あの謎のシステムは話を聞いたところで謎であることに変わりないので2人ともこれ以上知ろうとするのはやめたのだ。

 そして2人はチヌに見送られて次のフロアへ向かう。階段はわかりやすい場所にあり、第2階層ほど迷うことはなかった。




 DASSYはほとんど首無しの体を見た。血管や神経が何かの管でつながれている。


「ミナキは本当に有能だYO! ADを作り出してくれて」


「それほどでも。これをやったからといって僕をマッドサイエンティストとか言わないでくださいね」


「言うわけないYO! フフフ、Alternative DASSY……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る