城4 殺人オセロ
ない。
この階層。トレーニング器具と倉庫とプロテインがあるばかりで階段らしきものが見つからない。さらに、トレーニング器具はジムに置いてあるもののように色々な種類のものがある。
だが、肝心の階段はここにはない。
「俺、道間違えたか? それともDASSYっていう怪しい案内人に騙されたか?」
不安になってきたアトゥはペイル・ムーンに尋ねた。
「いや、私もこれまでずっと見ていましたけど一本道でしたよ。迷うはずがないです」
「迷うはずがないかー」
そう。アトゥとペイル・ムーンが見てきたこれまでの道のりは確かに一本道だった。第1階層の階段も簡単に見つけられたのだが。
これは罠か。アトゥは急に不安に駆られた。ここで取るべき行動は。
「もし間違ってたら困るしエリアスに聞くか。殺人オセロ中だし」
にらみ合うエリアスとプイス。エリアスが白い駒で黒い駒を挟んだ瞬間、黒い駒から炎が噴き出した。
「かかったな! これがトラップフォーメーション!
噴き出した炎はエリアスの左腕を狙い打ち。エリアスの左腕に火が付いた。
「ストップ! 熱い熱い熱い熱い! この前燃やしたばっかりなのに!」
うろたえるエリアス。
「これもルールだろ! オセロのルール改革で駒が重くなるほかに属性までつけられるようになったって忘れたか!?」
プイスはその勢いで黒い駒を置いた。
「ふふん、プイスくん! 四隅を取ったら有利になるっていうのはかわらないんだろ?」
エリアスは燃える左手をよそに、オセロの盤の隅に白い駒を置いた。裏返る白い駒。
「甘いな、エリアス! 一体いつから四隅に駒を置いたと錯覚していたァー!?」
違う。エリアスが駒を置いた場所は四隅などではない。エリアスが駒を置いたはずの場所に置かれる、黒い駒。
「滲み出す混濁の――」
「やめようか!」
プイスの詠唱らしきものを遮るように言ったのはアトゥ。その隣にはペイル・ムーン。
「エリアスさん、腕は燃えても顔は燃えないんですね。でもそれっぽい性格じゃなさそうだし……」
プイスを止めようとするアトゥをよそに、ペイル・ムーンは何やら物騒なことをつぶやいていた。
「あ、そうだ。階段の場所を教えてください」
本来の目的を思い出したように、ペイル・ムーンは言った。彼女は天然なようで、妙なところで冴えている。
本家とは乖離しすぎたオセロを見ていれば、アトゥでさえ本来の目的を忘れるところだった。なにしろ、オセロの駒から火が噴き出すから。
「ちょっと待って! これを終わらせてから案内する!」
プイスは盤上を見たまま答えた。まだ殺人オセロの決着はついていなかったのだ。
次はまた、エリアスの番らしい。
「これでどうだ!
残された1つの隅に置かれる白い駒。そして。白い駒から放たれた光は刃物となり、プイスの首をすぱん、と切り裂いた。
ごろりと転がり落ちるプイスの首。その瞬間、あからさまにペイル・ムーンの無表情な顔が明るくなった。彼女は首ポロ――首が切断される瞬間が好きだから。
「いやー! 負けたよ、エリアス! 殺人オセロはプレイヤーの首が落ちても決着がつくからね!」
プイスの生首は言う。
「これで決着がつくのかよ!」
アトゥは思わずツッコミを入れた。謎の詠唱といい、プイスの生首といい、殺人オセロはアトゥの理解を越えていたのだ。
「それで、階段の場所だっけ? 案内するよ」
と、エリアスは言った。
エリアスの腕の火は消えていた。が、その腕はアトゥと出会ったときよりも悲惨な状態になっていた。皮膚や筋肉が焼け爛れ、骨まで見えている。
「全治何日だろうな、コレ」
エリアスはぼそりと呟いた。
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