城5 全治(多分)一週間
プイスは座っていた椅子から立ち上がり、首を拾うと元のところに載せた。もちろんつながってはいないので不安定だが。
そして、エリアスの腕も燃えた後だけあって痛々しい。これでは
「それじゃあ、階段まで行こうか!」
首が取れているのに、プイスは相変わらずの声で言った。
やはりプイスは階段の場所を知っていた。この城の住人だから当然だともいえるが。
「やれやれ、吸血鬼ってここまで物騒な遊びをするんだな」
呆れながら言うアトゥ。
人間の常識でいえば、命の危険がある遊びは「危ないから」と止められることが多い。体が頑丈な吸血鬼だからこそ殺人オセロができるのだというと、アトゥは少しうらやましくも思えた。
「物騒?」
エリアスは聞き返した。
「いや、確かに俺は全治一週間くらいの怪我はするけど」
全治一週間。他の吸血鬼より治りが遅くてこれなのだから、他の吸血鬼はもっと早いのだろう。
「俺は人間だから腕を燃やしても元通りにならねえよ!」
アトゥはプイスとエリアスに言おうとしていたことを言えた。まだまだ2人に突っ込みたいことはあったが。
アトゥたちはトレーニング器具の間を縫って進んでいき――
「ここだよ!」
プイスは言った。
これは、壁。アトゥもペイル・ムーンもただの壁だと見逃していた。だが、よく見てみれば、この部分に「プトラ」と書かれた書道半紙が貼ってあった。しかも、かなりの達筆だ。
これを見たアトゥは。
「プトラって何だよ」
「プトラ」という文字列に毒されていない人々が当たり前にするようなツッコミを入れた。
「この扉を開くためのパスワードだよ!」
「それ、パスワードの意味なしてねえだろ!」
意味不明なパスワード「プトラ」。アトゥがツッコミを入れるのももっともなのだが。
プイスは半紙を剥がし、その下にあった何か――パネルらしきものを使って文字を入力していった。アトゥの知らない文字が入力されていく。この文字は何語か。
「多分これで開くよ!」
と、プイス。
彼の言う通り、壁が少しずつ動き始め、引き戸のように開いていった。
壁が開き、プイスが後ろに下がろうとした瞬間。プイスの首がまた落ちる。
「わっ、また首落ちましたね」
ペイル・ムーンは興奮したような顔で言った。相変わらず彼女はブレない。
その先にあるのが階段だ。ジムのような雰囲気とは打って変わり、これまでの廃城のように石造りの階段が下の階層へと続いている。
そうだ。これが本来の廃城のあるべき姿だ。厨房はともかく、ジムなんて廃城にあるはずがない。
「俺とプイスも下の
と、エリアスは言う。
吸血鬼を診る医者がいるのか、とアトゥは目を丸くする。
これまでに害獣のように思っていた吸血鬼は案外紳士的で興味深いものだった。が、アトゥは自分の目的を忘れていなかった。
「……炭の首。殺人オセロやらで騒がれても忘れてねえぞ」
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