城2 糖分は吸血鬼の体にもよくないらしい
「せっかく来たんだからフォンダンショコラ食べていかない? また作りすぎたみたいでさあ」
ふと、エリアスは言った。彼の持っているヘラについている茶色の生地はフォンダンショコラの材料だったのだろう。
「さすがエリアス! でも今回ばっかりは遠慮するYO!」
DASSYは別に何かの用事があったのか、エリアスの誘いを断った。
「DASSYもまた来いよ。今度はロールケーキを――」
エリアスがそう言ったとき、すでにDASSYの姿はなかった。が、エリアスは特にそれを気にすることもなく。
「ま、いっか。アトゥたちはどうする?」
「フォンダンショコラもいいですけど、私はエリアスさんの傷の治りが遅いのが気になるんですよね」
と、ペイル・ムーン。
エリアスは彼女に言われたことを気にして左腕を見た。昨日、焼いてしまったという話だが、確かに普通の吸血鬼にしては治り――再生が遅い。
「コレか? うん、まあ詳しくは
エリアスに聞いてはいけないことだったのかもしれない。
「だそうだ、ペイル・ムーン。俺はフォンダンショコラを頂くつもりだが、あんたはどうするんだ?」
と、アトゥ。
「うーん、エリアスさんの傷が早く治らない理由を聞けるならいいかな」
ペイル・ムーンも納得したようで、アトゥたちはエリアスに案内されるままに第1階層の奥の方へ進む。なりゆきで進んでいったためか、ペイル・ムーンのギターケースは階段の近くに放置されたままだが。
チョコレートの生地の匂いが強くなる。エリアスは「待ってて」と言って、厨房に入っていった。
「毒を盛られてたらどうします?」
ふと、ペイル・ムーンは言った。
「そういえば……」
アトゥは食べ物に毒や睡眠薬を混ぜる輩のことを思い出した。
確かにエリアスの作ったフォンダンショコラに毒が混じっていれば洒落にならないだろう。
考えた瞬間、エリアスは少しであるが寒気がした。
――いくら吸血鬼が友好的でも、ここは『炭の首』を奪った張本人が住んでいる城。それが罠である可能性だってあるというのに。
「お待たせ」
目的のものを持って厨房から出てきたエリアス。フォンダンショコラとティーポットとティーカップが彼の持つトレーに載せられている。
「そうそう、毒は入ってないから。なんなら血液も入ってない」
アトゥが聞きたかったことを見抜いていたかのようにエリアスは言った。
「本当なんですね。とりあえず、私が食べてみます。半分吸血鬼だから毒は効かないし」
と、ペイル・ムーン。
2人の前にフォンダンショコラと紅茶が置かれた。
テーブルに置くものを置いた後、エリアスも席についた。
「でさあ、俺の腕がこうなった理由。簡単に言えば甘いものしか食ってねえせいだ。俺は血が嫌いだからなあ」
と、エリアス。
左腕の火傷がなかなか治らないのは案外簡単な理由だったらしい。それでも、エリアスの左腕は少しだけ再生していたようにも見える。骨が見えていた範囲が狭くなっていた。
「吸血鬼の再生力って血液から来ているんだもんな。そりゃ、血を飲まなかったら傷の治りも遅いだろうな」
アトゥは言う。
「そうそう。だから迂闊に怪我とかできないんだよな! よくプイスと殺人オセロをやるけど喉ぶち抜かれて治るのに1週間もかかったんだよ! 俺のことも考えてほしいよ!」
エリアスは言う。だが、彼の顔は笑っていた。治りの遅い怪我をしてでも、付き合いたい相手なのだろう。
エリアスの話を聞きながら、ペイル・ムーンはフォンダンショコラを口にした。
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