第一階層 甘党骨チラ焼身男子

城1 チョコレートと書いて骨チラと読む

 DASSYが向かうのは城の階段。続くのは上ではなく、地下。石造りのしっかりとした建物があるにもかかわらず、吸血鬼は地下に住んでいるという。


「地下?」


 アトゥはぼそりと呟いた。


 一方のDASSYは間違いに気づかないのか、ひたすら階段を降りる。

 石造りの階段を降りた先にあったものは――

 食器。日記帳。赤と黒を貴重とした空間に甘い匂いが漂っている。廃城にこんなところがあったのか。にわかに廃城であるとは信じがたい。

 例えるならば、重厚な雰囲気のある洋菓子店。漂う匂いも洋菓子店のそれだった。


「ここにはお菓子を作る吸血鬼が住んでいるYO!」


 DASSYは階段を降りると言った。


「吸血鬼。やっぱり吸血鬼なんですね」


 ペイル・ムーンは背負っていたギターケースを地面に下ろし、蓋を開けた。入っていたのは鉈。彼女はこの鉈で吸血鬼の首を落とすのだ。

 ペイル・ムーンは鉈を手に取り、第一階層に住んでいる吸血鬼を狙っていた。

 首を落とすという意味で。


「ステイ! ステイ! エリアスは悪い吸血鬼じゃないYO!」


 DASSYは必死に止める。

 同時に、騒ぎを聞き付けたのか現れる、金髪の美青年。


「静かにしろよ、DASSY! フォンダンショコラ作ってたってのによ!」


 怒号。だが、彼の声に気づいたペイル・ムーンは鉈を持って青年――エリアスに襲いかかる。

 ペイル・ムーンが鉈を振るう。エリアスはそれを紙一重でかわした。


「なんだよこの女! 俺、別に血とか吸わねーよ! スイーツの方が美味しいだろ!」


 首を落とされそうになっていたエリアスは言う。どうやら彼は甘党らしい。吸血鬼の生存に必要だといわれている血よりもスイーツが好きだと言うあたり、特に。


「そうだYO!とりあえず鉈を!」


「始末書書かされるぞ!」


 エリアスとDASSY、そしてアトゥが止めることでやっとペイル・ムーンはその手を止めた。始末書、というワードが効いていたようだ。


「ご、ごめんなさい。吸血鬼を見ると条件反射で首を落とそうとしてしまって……」


「いや、俺も声を荒げて悪かった。別に甘くない血液は好きじゃないから襲いはしないよ」


 エリアスは言った。

 アトゥがよく見れば、エリアスはチョコレート色の生地がついたヘラを持っていた。甘い匂いの正体はこの生地――エリアスが作っていたお菓子。


「でさ、DASSY。こいつらは?」


「客みたいだYO」


 エリアスはアトゥとペイル・ムーンをまじまじと見た。

 アトゥもエリアスの方を見たが――


 顔がいい。片目が隠れているが、顔そのものは整っている。左腕は焼け焦げてところどころ肉や骨が見てえいるが。


「俺、エリアス・アーリンゲ」


 名乗るエリアス。


「俺はアトゥ。彼女はペイル・ムーン」


 と、アトゥ。


「さっきはすみませんでした。見境なしに吸血鬼の首を落とすのは控えますね。それで、腕はどうされたんですか?」


 ペイル・ムーンもエリアスの腕が気になったのか、彼に尋ねた。


「昨日さあ、とある魚バハムートイビルシャークドラグーン焼いてたら燃えたんだよ。そのうち再生するから問題ないけど」


 絵面が大問題だ、とアトゥは考えていた。が、彼の隣にいるペイル・ムーンはどこか嬉しそうだった。

 ――彼女は首が落ちるのも好きだが、腕や胴体から骨が見えているのも好きだった。

 エリアスの傷の再生はアトゥの知るどの吸血鬼よりも遅い。なぜだろう、とアトゥは気にしていた。

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