雨女


「あぁ…また雨。ほんっと最悪」


 この国は今 梅雨という時期の中にいる

 今日も雨が降り、傘をさす人々の足取りも連日の雨で重たい。その人々の中に人一倍雨に気を付ける清楚な美人がいた。


名をアメコ

彼女は誰よりも雨が嫌いでいる。だが、雨女なのである。


「アメコさん。なんか嫌なことでもありました?」


 眉間にしわを寄せて地面に落ちる雨を見るアメコの表情に気がついた若い男

アメコの会社の同僚でアメコの恋人である。


「いや、別に。それよりさ。仕事以外はアメコでいいって言ったじゃん」

「そ、そうでしたね。すい…ごめん」

「これから行くお店。ずっと行きたかったんだよね。雨だから嫌だったんだけど」

「今日しか予約が取れなくて…」


雨は次第に強まる


 水たまりすら忍びのように避けるアメコに不思議な表情を作る男だが、アメコの整った顔を見るとそれすら愛おしいと思う男


 会社を出てしばらく雨の中を歩くと左手に高級そうなレストランがあった。二人は清潔感のある店員に案内されると店の中央の席に案内された。

 何度かデートをしているがこういう店は初めて席に座りメニュー表を見て悩んでいるとコップを二つおぼんに乗せて若い店員が二人に迫る。


「あっ!」


 その声と同時にコップは地面から飛び立つ鳥のように宙を飛び、アメコの体にかかった。


「あああああああぁぁぁぁぁ」


 コップが飛んだことよりもアメコのその声に驚いている男をよそにアメコはおもむろに席を立ち消えるようにその場を去った。



 梅雨にもかかわらず雨が登場しない次の日の夜

 周りが帰る中、二人だけで残業をする男とアメコ。その空気は重い

耐えきれなくなったのかアメコはカバンを持って足早に会社を出た。

雨の降らない空の下


「アメコさん!」


後ろから聞きなれた声がした。

振り返ると男がいた。

「アメコさん。昨日のこと」

「ごめんなさい。私勝手に…」

「大丈夫です。またどっか行きましょ」


 その言葉にアメコは泣きそうになるが必死に止めると忘れ物に気がついたアメコは照れ隠しの笑顔で傘を取りに行こうと戻ろうとする


「待って!」


 男は通り過ぎようとしたアメコの腕を強く握った。

その瞬間

空から雨が降る。


アメコは慌てて屋内に行こうとするが男の握る力が強い


徐々に雨がアメコをむしばみ、頭のほうから消えていく。


 慌てるアメコに気がつかない男はドキドキしながらプロポーズの言葉を口にしているがアメコには聞こえていない。

 雨は強くなる。


「アメコ…俺と結婚して……え…」


男の目の前にいたはずのアメコは雨と一緒に消えた。

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