透明な人間


透明人間

それは男ならば誰しもあこがれる理想


痴漢、強姦の前科がある鈴木はそんなことを考えていた。


「はぁ…透明人間にでもなれたら。もっと楽しいのによ」


 朝から缶ビール片手にふらつき、横を通る女子高生の太ももをジッと見るその姿 はどうしようもない人間の成れの果てそのものである。満面の笑みでフラフラと歩いていると


ドンッ!


前を見ていなかった鈴木は誰かとぶつかり、尻から地面に崩れた。


「イってぇぇな!」


 威勢よく顔をあげるとスーツ姿のかわいらしい女が立っていた。その容姿と身体に鈴木は鼻の下を伸ばしながらゆっくりと立ち上がった。


「いやー、ごめん。ごめん。つうかどっかで会った事あるか? 気のせいか…

こんなきれいな女ならぶつかってよかったわ。ハハハ」


「鈴木はじめさんですね」


「なんで俺の名前を? まさか、ストーカーか」


「違います。そんなことより、あなたの欲望を叶えますよ」


「欲望? あんたと一発やりたいとかか」


「透明人間になりたいということです」


「おお。それか。なりたいねぇ。なれるなら」


「この薬を飲めばなれますよ」


女は鈴木に一粒の薬を手渡した。鈴木はそれを受け取るとすぐに飲んでしまった。


「ん? 何も変わらないぞ」

「じきにわかります。では…」


そう言い残し女は消えた



 次の日

 女の言った通り鈴木は透明人間になっていた。人に触れることはできないが、女子トイレに入っても誰も気がつかない。

「これで触れたらなぁ…ま、これでも天国だけどさ」


 そんな日々が数日続いたある日

 女子トイレに入ろうとすると女が鈴木を見て叫んだ。

どうやら効果が無くなったらしい


 鈴木は急いで逃げると最初に女にあった場所に来た。そこにはわかっていたとばかりに女が立っていた。


「おい! 効果が切れた。もっとよこせ!」


「いいですよ」


 そう言うとポケットから大量に粒が入った瓶を取り出した。その瓶を勢いよく奪うと鈴木は全部一気に口の中に入れてかみ砕いて飲み込んだ。


「おお! 周りのやつらが消えていく……え…な、なんで! おい!」


「おまえが…おまえがお姉ちゃんを!!」


「なんのことだよ。」


「あんたにとってはそうだろうね。おまえに襲われたんだよ」


「そうか…あの時の女の妹か。どうも綺麗なわけだ。んなことより、どうにかしろよ!」


周りを通る人達はチラチラと見ながら通り過ぎていく。



「消えろ。一人の世界で生きな」



「ふざけんな!!!!!くそーー」


男の叫び声は誰もいない空気に消えた。

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