第40話 後夜祭は甘酸っぱい思い出と共に
「皆さん、昨日、一昨日と文化祭お疲れ様でした! 今日は後夜祭なので思いっきり楽しみましょう!」
「「おーーー!」」
無事に二日間の文化祭が終わり、今日は後夜祭である。
うちの高校の後夜祭は一部のクラスが生徒だけに向けて出し物をしたり、各部活が出し物をしたりするらしい。
幸いうちのクラスは出し物を行う予定はないので明里と一緒に後夜祭を満喫できそうだった。
「明里、後夜祭も一緒に回らないか?」
「勿論です! どこから行きますか?」
「うーん、そうだな……灯火がさっきこの後校庭でやる出し物に呼ばれたとか言ってたからそれ見に行ってみるか」
「わかりました! 水生さんはなんの出し物に呼ばれたかは言ってなかったんですか?」
「うん、灯火もとりあえず校庭に来てとしか言われなかったらしい」
「そうなんですね、とりあえず行ってみましょうか」
「そうだな」
校庭に行くと文化祭中にはなかった特設ステージのようなものが設けられており、そのステージを取り囲むように人だかりができていた。
しかし幸いまだイベント自体は始まっていなかったので俺らは早足でステージへ向かった。
「凄い人だかりですけど何が始まるんでしょうか?」
「わからないけどこれだけの人が興味を持ってるってことは凄いイベントなんだろうな」
二人で出し物について予想しているとステージの端から司会役の生徒が出てきた。
ちょうど今から始まるらしい。
「レディース&ジェントルメーーン、大変長らくお待たせいたしました、只今より皆さんお待ちかね、『あなたに届けこの想い! 今日だから言える私の気持ち』を開催いたします! このイベントでは普段は言えない様々な気持ちを相手の方にぶつけてもらおうという企画でございます!」
「なるほど、それで灯火は呼ばれたのか」
「どういうことですか?」
「多分だけど普段言えない気持ちって告白とかだと思うんだよな、それでせっかく決意を固めて好きな人に告白しても相手がいなきゃダメだろ? だから灯火は必須なんだと思う」
「なるほど、そういうことですか、太陽さんが呼ばれていなくて安心しました……」
「それは俺のセリフだと思うぞ……? それに仮に呼ばれてたとしても俺は絶対明里以外を選ぶ気ないよ」
「ありがとうございます……私も同じ気持ちです……」
「あのー、お熱いところ申し訳ございません、進めてもいいですか……?」
司会が誰に質問しているのか気になり周りを見渡すと俺と明里の周りだけ人がいなくなっている。
どうやらまたやってしまったらしい。俺は急に恥ずかしさを感じつつ肯定の返事を返した。
「えー、それでは気を取り直してはじめていきましょう、まず一人目はこの方です!」
司会がそう言うと俺らと同じクラスの女子が一人が出てきた。
「こんにちは、お名前をどうぞ!」
「えっと青木澪です」
「澪さん、ズバリ思いを伝えたい方は誰ですか?」
「同じクラスの水生灯火君です」
「なるほど、水生君ですか! では早速水生君に登場していただきたいと思いますけれど心の準備はいいですか?」
「はい……!」
「それでは水生君出てきてください!」
司会がそう言うと先ほど青山さんが出てきたところと逆のところから灯火が出てきた。
「多分告白だと思うけど灯火どうやって断るんだろうな……?」
「流石にこんな大勢の前でシスコン宣言はしないと思いますしね……」
二人で話しをていると青山さんが心を決めたのか一歩灯火に近づいて、
「み、水生くん、入学した時からずっと好きでした、わ、私と付き合ってもらえませんか!!」
と言って勢いよくお辞儀をして手を前に差し出した。
灯火のほうをを見ると特に戸惑っている様子もなく、灯火はすぐに口を開いた。
「青山さんありがとう。凄く嬉しい! でもまだ僕ら知り合って半年くらいだし僕あまり青山さんのこと知らないからまずは友達からでいいかな?」
灯火がこう返事をすると青山さんは顔を上げて笑って「はい、お願いします」と返事をした。
「灯火凄いな……あそこまで相手を尊重して断れるのか」
「そうですね、私もありがたいことに今まで沢山声をかけてもらいましたけどここまで相手のことを尊重して返事ができた記憶はないです……」
「そうなのか? 明里は明里で凄く丁寧に断りそうだけど……」
「いえ、私初対面の方が凄く苦手ですしそもそもそこまで他人と深く付き合うことがなかったので多分返事はそっけなかったと思います……」
「なるほどな、それならなおさら明里と同じマンションで良かったよ」
「私もあの部屋に引っ越して良かったです!」
この後もイベントは続いていき最終的に全参加者のうちの半分が灯火への告白という驚きの結果になった。
「灯火今日でめちゃくちゃ友達増えただろうな……」
「そうですね、殆どの方とお友達から始めてましたもんね……」
「モテすぎるっていうのも辛いのかもなぁ……」
「そうかもしれないですね……」
と二人で話していると
『校庭での全ての出し物が終了しました。この後19時30分から花火が上がる予定なので各自見やすい位置に移動してください。なお本日のみ臨時で屋上が解放されていますのでそちらもご利用ください』
という放送流れた。
「太陽さん、花火ですって! 一緒に見ましょ!」
「もちろん! 花火見るのは夏祭り以来だな」
「そうですね……!」
と灯火たちと行った夏祭りで見た花火のことを思い出し、その時明里に頰にキスされたことを思い出し、急激に顔が熱くなった。
明里の方を見ると明里も思い出したらしく耳を真っ赤にして下を向いていた。
「ど、どこで見る?」
「そ、そうですね、屋上は人が沢山集まると思うのでこのまま校庭でいいんじゃないでしょうか?」
「そうだな、そうするか」
「はい!」
お互い相手が夏祭りの花火を思い出していることに気づいているため余計に恥ずかしさがこみ上げてきて会話ができない。
何か適当な話題はないかと考えていると後ろからいつも以上に陽気な三角先生の声が聞こえてきた。
「月嶹君に星宮さんじゃーん☆なになに二人付き合ってるのぉ?」
「えっと、はい」
「若いっていいなー、先生なんて最近まったく出会いがなくてさぁ……」
「せ、先生お酒飲んでます……?」
「飲んでない飲んでない、ちょっと消毒できそうな水を飲んだだけだよ☆」
「それお酒って言うんですよ先生……」
「まあ小さいことは気にしなーい☆それより二人はここで花火見るのー?」
「はい、そのつもりです」
「屋上には行かないの?」
「はい、多分人でいっぱいで花火どころではないと思うので……」
「なるほどねぇ、でも校庭じゃ人の目が多すぎてあんまりイチャイチャできないんじゃない?」
「い、いえ、別にそういう目的で後夜祭に参加してるんじゃ……」
「またまたぁ、本当は良くないんだけど特別にこれ貸してあげる☆」
「これは?」
「教室の鍵だよ、私たちの教室からでも綺麗に花火は見えるから二人で行っといで☆」
そう言うと三角先生は他の生徒のところに絡みに行ってしまった。
「ど、どうする?」
「折角貸してもらいましたし教室で見ましょう」
「そうだな」
俺らは屋上に行くふりをしてこっそり教室へ向かった。
「なんかこうしてると体育祭を思い出しますね、太陽さん覚えてますか?」
「もちろん覚えてるよ、あの時明里が目を閉じて腕を広げるからキスをして欲しいのかハグをして欲しいのかですごく迷ったんだよな」
「そうだったんですね、キスでも良かったんですよ……?」
「そ、そうだったのか?」
「はい、あの時すでに私太陽さんのこと好きでしたから……」
「明里……」
懐かしさと明里への愛おしさで胸がいっぱいになっていると外から大きな音が聞こえてきた。
「始まったっぽいですね」
「そうだな」
俺らは窓を開けて空を見上げた。
そこには夏祭りと比べても遜色のない綺麗な花が沢山咲いていた。
「綺麗ですね……」
「そうだな…………でも明里の方が綺麗だよ。」
「太陽さん……………!?」
俺は明里がこっちを見て返事をした後に自分の唇を明里の唇に重ねた。
明里は最初目を見開いて驚いていたが、最終的に目を閉じて俺に全てを委ねてくれた。
どれくらいの間キスをしていたか定かではないがおそらく10秒程度だろう。
この10秒は今までの人生で一番幸せな10秒だった。
「いきなりしてごめんな、嫌じゃなかったか……?」
「嫌なわけないです! むしろ胸の中が幸せでいっぱいです」
「良かった、俺も幸せすぎて胸が爆発しそうだよ……」
「…………じゃ、じゃあ、爆発させましょ……?」
明里はそう言うと、とろんとした目をして妖艶で可愛らしい顔で微笑んでキスをしてきた。
それと同時に窓の外でも花火がクライマックスを迎え、花火の光が俺らを照らしていた……
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
皆さんお久しぶりです。約1ヶ月なにも連絡せず、更新をストップしてしまい申し訳ありませんでした。
詳しい理由や経緯は近況のノートの方で書かせていただいているのでそちらを読んでいただけると幸いです。
また今後も以前のようなスパンでの投稿は難しくなってしまいますが亀の歩みながらも投稿は続けていきますのでぜひ読んでいただけると嬉しいです!
ではまた次のお話でお会いしましょう!
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