第39話 チャラ男と相性

「ついに文化祭当日です、皆楽しく元気に頑張りましょー!」

「「おーー!」」


二週間あった準備期間はあっという間に過ぎ去り文化祭当日を迎えた。

俺らのクラスは他の出し物と比べて名前が「執事&メイドカフェ」と目を引くため、ありがたいことに始まってすぐに沢山のお客さんが来てくれた。


「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」


接客係は各自でかなり練習したので出迎えは完璧だ。

それを見たお客さんは、


「うおお、クオリティ高いな!」

「あの子めっちゃ可愛くね?」

「あの人めっちゃタイプなんだけど!」

「やべえ、いっぱい注文しよ」


と良い反応をしてくれて出だしは完璧だった。

中でも一緒に写真を撮りたいというお客さんが沢山いて


「すいませーん、一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」

「勿論いいよ、お嬢様!」

「きゃーー、お嬢様だって!!」


「あの、僕と写真撮ってもらってもいいですか?」

「勿論ですよ、ご主人様」

「ご、ご主人様……」


「あの、俺らと写真撮ってくれませんか?」

「は、はい、私でよろしければ……」

「やった!!」


「あの、私と写真撮ってくれませんか……?」

「俺でよければ喜んで撮りますよ」

「ありがとうございます……!」


という感じで注文を受けるより一緒に写真を撮ってくださいというオーダーの方が多かった。

最初は皆ぎこちなかったが、だんだんと慣れていき臨機応変に対応していた。

その後一度お客さんの波が止み、一休みをしていると他校の男子生徒が一人入ってきて席に着いた。


「コーヒー一つおねがいしまーす」

「かしこまりました」


その男は注文すると何か品定めをするような感じで店内を見渡した。

内装の出来などを見ているのだろうか。


「お待たせいたしました、ご注文のコーヒーです」


天野川さんがコーヒーを渡すと男は無言で受け取り、一瞬で飲み干した。


「会計はどこですればいいんすか?」

「あちらでお願いします」

「はーい」


男は出口で会計を済ませると、そのまま回れ右をして教室の端にいた明里の方へ歩いて行った。

嫌な予感がする。


「ねえねえメイドちゃん、この後遊ばない?」

「申し訳ございませんご主人様、まだ仕事もありますし、先約もいるのでお断りいたします」

「いいじゃん、いいじゃんそんなこと言わないでさ、遊ぼうよ、その先約より俺の方が楽しいことしてあげられるよ?」


そう言うと男は明里の腕を掴んで強引に連れて行こうとする。

一瞬男が何をしているのかわからず唖然としていたがすぐに我に返り、助けなければと思った。

しかし力では到底かないそうもなく何かないかと男のいた席を見ると、あるものが置いてあるのを見つけた。


「ご主人様、いや佐山高校の山岸健様、その汚い手をお離しください」

「あ!? 誰の手が汚いって?」

「貴方の手がです、健様」

「てっめえ! ってかなんで俺の名前知ってんだ?」

「これ、落ちてましたよ」


そういうと俺は先程見つけた男の生徒手帳を見せて


「ご主人様、最近のネットは怖いらしいですよ? 実名や在籍高校だけでその人の家族構成から友人関係、住所まで調べ出していろんなイタズラをしてくるらしいです。しかも貴方だけじゃなくてあなたの家族や友人にまでイタズラが及んで手のつけようがなくなるらしいですよ 」


と言った。


「なっ、でも俺の名前と高校あげただけじゃ大して面白がられ無いと思うぞ?」

「だったらそれと一緒に貴方が文化祭で女子の腕を掴んで無理やり連れて行こうとしたって書けばいいだけの話です」

「はっ、そんなの証拠がなきゃ何にもならないだろ?」

「そうですかね? じゃあ一回やって見ますか?」


そう言うと俺はポケットからスマホを取り出し生徒手帳に向けてシャッターを切り、彼にSNSアプリを起動した画面を向けた。


「っ!?」

「さあ早くその汚い手を離してください、ご主人様?」

「くそっ、覚えてろよっ!」


そういうと男は逃げるように出て行こうとしたので「忘れ物ですよ、ご主人様」と言って生徒手帳を投げておいた。


「明里、大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます……」

「本当か? 無理しなくてもいいからな?」

「いえ、太陽さんがいてくれれば大丈夫です……」

「太陽やるね、まさかあんなえげつない脅し方ができるとは思わなかったよ」

「ああ、ちょっと脅し方は鍛えられたからな……」

「そうなの? まあ何事もなくて良かったよ、でもあの人が個人情報がどうとか言ってまた突っかかってきたらどうするの?」

「ああ、それなら大丈夫、俺生徒手帳の写真撮ってないから」

「え、どういうこと?」

「ほら」


俺は灯火に先程撮った写真を見せた。

その写真には生徒手帳ではなく教室の天井が写っていた。


「なるほどね、内カメで撮ってたんだ、太陽夏休み挟んでだいぶえげつなくなったね……」

「そうか? まあそのおかげで助けられたし結果オーライかな」

「そうだね」


この後は特に困ったお客さんが来ることはなく気持ちを切り替えて接客を楽しんだ。


「今日のシフトはこれで終わり、三人ともおつかれ! この後は各自自由時間で!」

「おう、お疲れ、明里一緒に文化祭回らないか?」

「勿論です!」

「早速お熱いね、あんた達」

「えへへ、梢ちゃんはどうするんですか?」

「私は彼氏いないし家族と合流して適当に回るよ」

「そうですか、水生さんはどうするんですか?」

「僕は勿論雫と合流して一緒に回るかな、雫可愛いから僕がついてないと変な虫がいっぱいついちゃうし」

「雫さんって灯火君の彼女さん?」

「あ、そっか、天野川さん知らないのか、雫さんは灯火の妹で灯火はシスコンってわけ」

「そうなの!? 意外……じゃあ灯火君彼女とかいらないの……?」

「うん、いらないかなー」

「そうなんだ……何人の女の子が泣くんだろう……」


天野川さんはどこかで見たリアクションをしながら家族の元へ向かっていった。


「明里、どこか行きたいところあるか?」

「じゃあこれに行きたいです!」


そう言って明里は文化祭のパンフレットに書いてある「パートナー相性診断」という出し物を指差した。


「相性診断か、行ってみるか」

「はい!」


中に入ると向かい合わせに設置された椅子に座らされた。


「では今から相性診断を始めます、診断は片方の方に質問をしますので、もう片方の方は相手の回答を予想して当てていただくというものになっております」

「なるほど……」

「どちらの方が予想いたしますか?」

「じゃあ私が予想します!」


明里は自信満々なのか即答で答えた。

明里は一度俺の答えがわからないように耳栓と目隠しをされた。


「では一つ目の質問。一番好きな動物は?」


これは余裕だろう。

俺は即答で犬と答えた。

明里も耳栓と目隠しを外され、質問を聞いた瞬間に犬と答えた。


「では次の質問に行きます。一番好きな食べ物は?」


この問題も超余裕だろう。俺は少し拍子抜けしつつ唐揚げと答えた。

明里も先程同様即答で唐揚げと答えた。


「では次の質問です、嫌いな食べ物はなんですか?」


これはかなり厳しいかもしれない。

明里の作ってくれる料理はどれも美味しいため残さず食べるし、今まで一度も俺の嫌いな食べ物について話したことはない。

しかし嘘をつくわけにもいかないので素直にグリンピースと答えた。

明里の耳栓と目隠しが外されて質問が読み上げられる。

流石に無理かと思ったが明里は即答でグリンピースと答えた。


「俺明里に嫌いなもの言ったことあったっけ?」

「いえ、でも太陽さんのこと見てれば分かりますよっ」

「そうか? なんか嬉しいな」

「それは良かったです」

「あのー、次の質問行ってもいいですか……?」

「あ、ああ、すいません、いいですよ」

「では最後の質問です、貴方の一番大事なものは何ですか?」


大事なものか……確かにこの質問は答えの幅が広くて難しいかもしれない。

しかし俺にとってこの質問ほど答えるのに詰まらない質問はなかった。

俺は出題者の目をしっかりとみて『星宮明里』と答えた。


「では星宮さん最後の質問は「貴方の一番大事なものは?」です。貴方の彼氏さんは何と答えたでしょう?」

「えっと、それは……」


明里は回答に詰まってしまった。

一瞬答えがわからないのかと思ったが明里の顔が赤くなっているのを見てそうではないと分かり安心した。


「それは?」

「わ、私ですか……?」

「大正解です! おめでとうございます、相性100%です!」

「合ってて良かったです、これで間違えたら私恥ずかしさで死んじゃうところでした……」

「俺が明里以外って答えるわけないだろ」

「太陽さん……」

「あのー、お楽しみのところすいません、相性100%だったペアは記念撮影ができるんですけどしていきますか?」

「あ、すいません、お願いします」


この後もお化け屋敷や縁日など色々な出し物を二人で楽しみ、文化祭1日目を終えた。

入学した時は文化祭なんて大して楽しめないと思っていたが、実際やってみると物凄く楽しくてこの時間がずっと続けばいいと心から思えた。

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