第37話 初めてのヤキモチ

「えーと皆一回聞いて貰ってもいいかな?」


灯火が声をかけると今まで騒がしかった教室が一瞬で静かになる。


「ありがと〜、えっと文化祭が二週間後に迫っているので今からクラスの出し物を決めたいと思います! 今から10分間各自何がいいか考えてください!」


灯火がそう言うと各々近くの人と話し合いを始める。

俺も明里の方を向いて案を出し合うことにした。


「出し物って言っても結構種類あるけど、どういうのが一番人来るんだろうな?」

「やっぱり展示とかよりは飲食店とかの方がいいんじゃないですか?」

「確かに見るだけより食べたり飲んだりする方がいいかもな」

「はい、それに飲食店なら私も力になれると思いますし!」

「そうだな、ただ明里の料理を他の人に食べられるの少し嫌だけど……」

「太陽さんにはもっと美味しいもの沢山作ってあげますよっ」


「あの二人また自分達の世界に入り込んでるね……」

「あれで無意識だからやめろとも言いずらいしね……」

「うん、しかも星宮さんも太陽もちゃんと出し物について考えてくれてるから何も言えないんだよね」

「そうなのよね、まあ友達が幸せならそれでいいんだけどねぇ、ってそろそろ10分経つんじゃない?」

「ほんとだ! 皆10分経ったから今から案を聞いていきます、なにか思いついた人ー!」


灯火がそう言うとクラスの半分くらいの手が挙がる。

それを灯火が一人ずつ聞いて行き、天野川さんが黒板に書き写す。

被りなどもあり最終的にはお化け屋敷、タピオカ屋、映画作成、縁日、執事&メイドカフェの五つが候補に挙がった。


「他に案がなければこの中から選んじゃうけどもういないですかー? ………いなさそうなので多数決をとります! 一人一回自分がやりたい出し物に手を挙げてください」


灯火がそう言うと天野川さんが一つずつ案の名前を言っていく。

どの案も楽しそうなので票が割れると思ったがほとんどの票が1箇所に集まった。


「えーと結果はタピオカ3票、お化け屋敷5票、映画製作1票、縁日1票、執事&メイドカフェ20票でカフェに決定しました、何も無ければこれで最終決定ですけど何かある人はいますかー?」

「ではいないようなので早速詳しい内容を決めていきたいと思います、まずはどういう商品を売るかですけど……」


灯火と天野川さんの息の合った進行でどんどんと内容が決まっていき、あっという間に最後の項目になった。


「最後に各自の役割を決めていきたいと思います。大まかな役割は接客係と調理係と宣伝係でそれぞれ十人ずつの割り振りにしたいんですけど、何か意見はありますか?」

「メイドと執事なのでできるだけ接客係はかっこいい人と可愛い人がいいと思います」

「なるほど、じゃあ執事五人、メイド五人を他薦で決めようと思うんだけどいいですか?」

「はーい。」

「他に意見はありますか?」

「調理係の各シフトには必ず一人は料理ができる人が必要だと思います」

「確かにそうだね、じゃあ調理係には四人くらい料理ができる人に入ってもらいます、他に何か意見はありますか? ………なさそうなのでまずは接客係を決めたいと思います、誰がいいと思いますか?」


灯火がそう聞くとまずは皆口を揃えて明里、灯火、天野川さん、爽やか君の名前を口にした。

ここまでは予想通りでここからちらほらと名前が挙がっていき、執事をあと一人決めれば終わりというところまできた。


「誰かこの人いいんじゃないかって人いませんか?」

「月嶹くんはー?」

「……へ?」


絶対に自分は呼ばれないと思っていたので間抜けな声が出てしまった。


「お、俺ですか!? 俺よりもっとかっこいい人いると思いますよ……?」

「いやー、月嶹君髪切ってからすごくカッコよくなったし、星宮さんとも付き合ってるんだしもっと自分に自信持ってもいいと思うよ?」

「そ、そうですかね……?」

「うん!」


明里の方を見ると明里は優しく微笑んで頷いていたのでやることに決めた。


「やってみます」

「おっけい! じゃあこの後は調理係と宣伝係の人を決めて早速準備を始めたいと思います!」


この後は特に滞りなくすべてが決定し、早速内装から準備をすることになった。


「月嶹君、このメモに書いてある道具を買い出しに行ってきて欲しいんだけど」

「ああ、いいよ」

「ありがとう! 少し量が多いから明里と一緒に行っておいで〜」


天野川さんはにやにやしながらこう言った。

先程の役割り決めの後から明里がどこか上の空なので正直ありがたい申し出だった。


「明里、天野川さんから買い出しを頼まれたんだけど一緒に行かないか?」

「はい、いいですよ」

「このメモの内容だったら駅前で全部揃うと思うから駅前行こっか」

「はい」


俺らはいつも通り正門から外へ出て駅前に向かった。


「明里、大丈夫か?」

「えっ、急にどうしたんですか……?」

「いや、元気無さそうだからさ」

「全然大丈夫ですよ! ただ一つ気になることがあって……」

「気になること?」

「はい、太陽さん、さっきかっこいいって言われた時どう思いました?」

「え、どうってありがたいなって思ったけど……」

「嬉しくはなかったんですか?」

「嬉しいか嬉しくないかだったら嬉しかったけどどうしたんだ急に……?」

「その、絶対無いと思ってるんですけど、どうしても太陽さんを他の女の子に取られちゃうんじゃないかって考えちゃって……学校始まってから太陽さんに話しかける女の子が増えたし、皆が言ってる通り太陽さん凄くかっこよくなったから……」


そう言うと明里は下を向いてしまった。

もしかすると明里はヤキモチを焼くということが初めてなのかもしれない。

それで不安な気持ちが膨れ上がってしまっている可能性がある。


「明里、安心して欲しい、俺は絶対に明里以外の人を好きにならないし、これからもずっと明里と一緒にいるつもりだ。それに誰にかっこいいって言われるよりも明里にかっこいい言われるのが1番嬉しい。だからさっきかっこいいって言ってくれた時凄い嬉しかったよ」


そう言うと、明里はゆっくり顔を上げて

嬉しさと安堵の入り交じった表情で笑った。

その顔は先程までの無理な笑顔とは違い、いつもの可愛らしい笑顔だった。


「太陽さん、ありがとうございます、凄く安心しました。これからは心配よりももっと太陽さんに好きになって貰えるように頑張りますねっ!」

「元気になったならよかったよ、俺はもう十二分に明里のこと大好きだけどな……?」

「だったら二十分に好きになって貰えるように頑張ります!」

「それは文字通り片時も明里から離れなくなりそうだ……」

「ふふっ、どんとこいです!」


そう言った明里の顔はこのまま買い出しのことを忘れて家に帰って二人で過ごしたいと心から思えるほど魅力的で美しかった。

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