二学期

第36話 バカップル

「太陽さん、そろそろ起きないと遅刻しますよ」

「ん? ああそうか、今日から学校だっけか……」

「そうですよ、朝ごはんできてるので一緒に食べましょ!」

「わかった、いつもありがとな」

「いえいえ!」


始まった時は永遠に続くと思っていた夏休みも昨日で終わり、今日からまた毎日学校に行く日々が始まる。

去年までの俺だったら本気でサボる口実を考えているところだが今年は寧ろ学校に行きたかった。

なぜなら学校に行かなければ明里と一緒にいられる時間が減ってしまうからだ。


「太陽さん、相談なんですけどわたし達が付き合ってること学校では秘密にしますか?」

「うーん、俺らからは何も言わないで聞かれたら素直に答える感じでいいんじゃないか? 明里が隠したかったらそれでもいいけど」

「いや! 私は寧ろ知っていただきたいです」

「そうなのか?」

「はい、じゃないと太陽さんを狙う人が現れそうなので……」

「え? そんな人いないと思うけどな……」

「いえ、早苗さんに髪の毛を切ってもらってから外で太陽さんのことを見る女性が増えた気がします」

「そ、そうか? じゃあ聞かれたら教える感じでいこうか」

「はい!」


俺らは手早く朝食を済ませ、家を出た。

信号を待っていると後ろから夏祭りぶりに聞く声がした。


「太陽と星宮さんおはよ〜」

「おお、灯火おはよう」

「水生さん、おはようございます」

「朝から手繋いで登校なんてお熱いねぇ」

「うるせぇ、悪いかよ」

「全然悪くないと思うよ〜、見せつけていくスタイルってことは付き合ってること隠さないんだね?」

「ああ、付き合ってるか聞かれたら素直に答えることにしたよ」

「そっか、じゃあ今日の学校は身動き取れなさそうだね」

「その時は助けてくれよ?」

「うーん、多分ね〜」


通学路も後半に差し掛かり同じ制服を着た生徒達が続々と現れた。

みんな一度はこちらの手元を見てから様々な感情を顔に浮かべて去っていく。

様々な感情といっても9割方俺への嫉妬と殺意なのだが。


「す、凄い見られてますね……」

「そ、そうだな、ここまでとは予想してなかった……」

「それでも手を離さない辺り本当にラブラブだね〜」


いつもなら殴りたくなる灯火のニヤニヤ面で周りの視線から意識を逸らしながらなんとか教室にたどり着く。

教室のドアを開けると一斉にクラスメイトが押し寄せてきて質問してきた。


「明里ちゃん月嶹君と付き合ってるの?」

「星宮さん、この前従兄弟って言ってた人月嶹さんだったの!?」

「月嶹君のどこが好きなの?」

「おい、月嶹お前星宮さんと付き合ってるのか!?」

「なんでお前が星宮さんと付き合えて俺には彼女ができないんだ……」

「前世でどんだけ良いことしたら星宮さんと手繋いで登校できるんだ!?」

「月嶹、1発殴らせろぉぉぉ」


最後の一つは質問ですらなかったがそんなこと気にしてられない程の量の質問が一気に投げかけられ、何も言えずにいると明里が、


「わたし達は付き合ってます、従兄弟というのは嘘です、ごめんなさい、太陽さんの全部が好きです、あなたの恋愛と太陽さんの恋愛は関係ないと思います、前世はきっと神様だったのでしょう、太陽さんを殴ったら許しません」


と全ての質問に一気に答えた。

一個冗談っぽい答えがあったが答える態度が久しぶりに見る絶対零度状態だったのでツッこむことができず、クラスメイトも圧倒されたのか静かになり、道を開けてくれた。

そのまま教室に入ろうとすると後ろから声がした。


「最後に一つ質問いいか? これは月嶹に答えてもらいたい」

「あなたは確か親衛隊の隊長さん……何ですか?」

「これからも親衛隊を続けてもいいだろうか? 俺らは少しでも可能性があるのならこれからも可愛い星宮さんを追いかけていきたい」

「明里が可愛いというのはとても同感できますし、別にやめろとも言いません。ただ行き過ぎた行動を一人でもしたら絶対に許しませんからね」

「太陽さん、今の凄くかっこ良かったです、ありがとうございますっ」


そう言うと明里は全員が見ている前で抱きついてきた。

それをみていた親衛隊長は安堵の表情を一瞬で絶望に塗り替えながら、


「やっぱり親衛隊は解散する……」


と言って去って行った。

少し可哀想なことをしてしまったかもしれない……

____________________________________

「明里、お弁当めちゃくちゃ美味しい」

「それは良かったです、明日からも作りますねっ」

「ありがとう、明里のお弁当を食べれるなら土日も学校行きたいくらいだよ」

「土日は家で作ってあげますっ」


あの後直ぐに三角先生が来たため場は収まり、午前中は全て始業式だったため今は昼休みになっており、俺は明里と灯火と天野川さんと四人で昼食を食べていた。

三人とも美男美女だからか物凄く視線を感じる。


「ねえ二人とも、それ無意識でやってる?」

「それってなんですか?」

「えっ、明里本気で言ってる?」

「な、何のことですか……?」

「天野川さん、何を言っても無駄だよ、この二人夏祭りでも無自覚でいちゃいちゃしてたし」

「そうなの!? まさかここまでバカップルになるとは……」

「なんかそれ凄い既視感を感じるするセリフだなぁ……」

「え、どういうことですか??」

「はぁ、明里達のラブラブ度合いが想像以上だったってことよ」

「私達そんなにいちゃついてますか?」

「いや、そんなことないと思うけどな?」

「今のでいちゃついてないってじゃあどっからがいちゃつきなのよ!?」

「うーん、そう言われると確かにいちゃつくってどっからなんだろう?」

「私はいつも通りにしてるだけのつもりなのでわからないです……」

「俺もよくわからないな……」

「もうやだこのバカップル……」


昼食後は一時間だけクラスの時間があり、そこで二学期に行われる文化祭の委員決めと席替えが行われた。

文化祭の委員はかなり面倒くさいと評判で誰もやろうとせず、全員でじゃんけんをして決めることになった。

その結果灯火と天野川さんに決定した。この二人もなかなか縁がありそうだ。

席替えはくじで行われ、なるべく明里の近くがいいと願いながらくじを引くと明里の隣の席のくじを引けた。

最近幸運続きなので帰り車に引かれないかだけが心配である。


「明日からは通常授業ですので少しでも早く夏休みボケを治してくださいね☆」

「「「はーーい」」」

「じゃあ皆さんさようなら☆」


終礼が終わり、いつもなら各々帰っていくのだが今日は何故かみんな帰ろうとしない。

しかもこっちをチラチラみているような気がしたが気のせいだろうか。

そんなことを考えていると明里が話しかけてきた。


「太陽さん、今日の夕飯何がいいですか?」

「うーん、久しぶりに魚が食べたい」

「わかりました、じゃあ帰りにスーパー寄って行きましょう!」

「ああ、そうだな」


俺は未だに誰も教室から出ていないことを不思議に思いながらも明里と一緒に教室を出た。

少しして教室の中から息のあった「夫婦かよっ!」と言うツッコミが聞こえた気がしたが気の所為だろう。

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