第33話 夏祭り 後編

「おおおー、結構大きいんだな」


お寺につくと既にお祭りは始まっていて本殿を取り囲むように沢山の屋台が設けられており楽しそうな声があちこちから聞こえてきた。


「折角屋台がいっぱいあるから四人で勝負するです」


と雫さんが目をキラキラさせながら提案してきた。


「勝負?」

「はいです、三つ屋台を選んで一番成績が良かった人から抜けていって最後まで勝てなかった人が他の三人にそれぞれの食べたいものを奢るです」

「なるほど……俺は楽しそうだからいいけど二人はどう?」

「僕は雫が楽しいならそれでいいからやるよ~」

「私もやります」

「了解、じゃあ雫さん屋台を決めちゃってくれ」

「はいです、そうしたら射的と金魚すくいと型抜きにしましょです!」

「了解、あそこにちょうど射的屋が見えるから射的からやるか」

「はいです!」

「いらっしゃい、四人ともやるかい?」

「はい、よろしくお願いします」


俺らはそれぞれ一回分の料金を払いオモチャの銃と玉5発を受け取り、銃を構えた。

明里はこういう遊びには慣れていないのかぎこちない持ち方をしており、気になったので一度自分の銃を置いて構え方を教えることにした。


「明里、もうちょっと銃の先を上げて脇を締めると当たりやすくなると思うぞ」

「こう、ですか?」

「いや、もうちょいこうだな」


言葉で自分のイメージを伝えるのはとても難しいことだと気付き明里の後ろに回って

手を添えて構え方を直した。


「ありがとうございます、これでやってみますね」

「おう、頑張れ」

「はい、太陽さんも頑張ってくださいね」

「ありがとう」

「太陽、もしかして外でナチュラルにイチャついてるの無意識?」

「え、今のどこがイチャつきだったんだ? 普通に話してただけじゃないか?」

「え、マジで言ってる?」

「う、うん」

「重症だ……」


灯火の言っていることがいまいちよくわからなかったが気にせずに射的の続きをした。

昔一回射的でゲームのソフトを落としたことがあるので少し腕に自信があったのだが、結果は風船ガム一個だった。


「みんなどうだったー?」

「私は小さいですけど犬のストラップが取れました!」

「パンダのマーチ取れたです」

「俺は風船ガム一個……灯火は?」

「僕は飴三個〜、って事は星宮さんの勝ちかな?」

「そうっぽいな」

「本当ですか! やりました! 太陽さんが教えてくれたおかげです、ありがとうございます!」

「いえいえ、明里の役に立てて良かったよ」

「お礼にこれあげます!」


そういうと明里は俺の手をとって掌に先ほど取った犬のストラップを置いた。


「え、いいのか? せっかく自分で取ったのに」

「いいんです、元から太陽さんにあげたいなと思って狙ったので」

「そうか、ありがとう。大切にするよ」

「あのー、お二人さん、お熱いところ申し訳ないけど次行こう?  周りの視線が辛い……」

「ここまでバカップルになるとは思ってなかったです」


周りを見ると主に独り身と思われる人たちの嫉妬の視線を物凄く感じ、俺らは逃げるように灯火と雫さんの後を追った。


「次は型抜きか、型は好きなのを選んで成功者が複数出たらその型の難易度が高い方が勝ちって事でいいか?」

「いいです、次は負けないです」

「うん、僕も頑張ろっと」

「みなさん頑張ってください!」


ここで負けたら後がないため、俺は一番簡単なハートの型抜きにし他の二人のミス待ちという作戦をとった。

しかし思ったよりも繊細な指の動きを要求され、後半分くらいのところで俺のハートは砕け散ってしまった。


「失敗したぁ……」

「僕も失敗しちゃった……」

「私は成功したです!」


雫さんはそういうと誇らしげに自分の型抜きを見せてきた。

雫さんが成功させたのはおそらくこの屋台の中で一番難しいであろうカニの型抜きで

店主もかなり驚いていた。


「さすが雫!  可愛いだけじゃなくて器用だなんてもう非の打ち所がないね!」

「褒めても何もでないです、でもありがとうです」

「いいえ〜、じゃあ金魚すくい行こっか」

「そうだな」


「いらっしゃい、全員やるかい?」

「いや、二人分で大丈夫です」

「あいよ、どうぞ」


俺と灯火は道具を受け取るとお互いに距離をとり、相手の妨害を受けないポジションについた。


「多く金魚を取った方の勝ちです、よーいスタートです!」


雫さんの合図と同時に俺と灯火は同時に金魚をすくい始める。

視界の端でしか灯火を確認できないためどれほど捕まえているかわからないが俺よりも先にポイが破れたので余裕を持ってすくうことができ勝ちを確信した。


「灯火何匹取れた?」

「うーんとちょっと待ってね、一、二、三……八匹! 太陽は?」

「えーと、一、二、三……七匹だ……負けたぁぁぁぁ」

「まじで! やったね、太陽ご馳走さん!」

「太陽兄ちゃんご馳走さまです」

「私の分は払わなくても大丈夫ですよ?」

「いや、そういう勝負だから払わせてくれ」

「わかりました、じゃあご馳走になりますね」


この後明里にはわたあめ、雫さんにはりんご飴、灯火には焼きそばを奢った。


「ふぅー、ご馳走様〜、僕と雫は門限があるからもう帰るけど2人はどうする?」

「俺らはもう少しだけいると思う」

「そっか! じゃあまた4人でどっか行こうね!」

「太陽兄ちゃんと明里姉ちゃんばいばいです」

「おう、またな」

「気をつけて帰ってくださいね」


2人が帰ったあと適当にふたりで屋台を回っているとこの後高台に登ると花火がベストポジションで見れるという内容のアナウンスが聞こえてきたので二人で花火を見て帰ることにした。


「花火を見るなんて久しぶりです!」

「俺も遠目から見るのはあってもこうやって誰かと直接見るのは久しぶりだな」

「太陽さんもなんですね! あ! 始まるっぽいですよ」


開始を知らせる小さい花火がひとつ上がりそこからひとつ、またひとつと綺麗な花が夜空に咲いていく。


「すっごい綺麗だな」

「そうですね……こんな綺麗な花火を好きな人と見れるなんて私凄く幸せものです」

「俺もだよ。明里以外の人と見てたらこんなに花火を見るのが楽しくはなかったと思う」


花火は終盤に差し掛かり、前半とは比べ物にならないくらいの数の花火が打ち上がった。

花火のあまりの綺麗さに魅入っていると何か頬に柔らかい感触を感じた。

横を見ると明里が頬を桃色に染めながら、


「ほ、本当は朝の続きができたら良かったんですけど、ほっぺまでしか勇気が出ませんでした……」


と言い、目を少し潤ませ、上目遣いでこちらの様子を伺ってきた。

ほっぺへのキスの不意打ちと明里の愛おしすぎる表情に数秒間固まってしまい、反応ができず、餌を求める鯉のように口をパクパクさせることしかできなかった。


「い、いや十分すぎるし、普通にされるよりも効果抜群だぞ……」

「そうですか? それなら勇気出した甲斐がありました!」

「不意打ちほどドキッとすることはないからなぁ」

「じゃあ今度から太陽さんになんかするときは全部不意打ちでしますねっ」

「それは俺の心臓がもたないから勘弁してくれ……」

「ふふっ、考えておきますねっ」


明里は久しく見ていなかった小悪魔のような可愛らしく、妖艶な笑みを浮かべてそう言った。

その顔は夜空に打ち上げられたどの花びらよりも綺麗で美しかった。

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ここまで読んでいただきありがとうございます!

一つお知らせなのですが今回のお話から投稿時間を午前11時から午後17時に変更いたします。

理由は私の夏休みという黄金期間が終わってしまい、現実の世界に引きずり込まれるからです。

もう3周くらい夏休みが欲しい……

予約投稿すればいいのでは? と思われる方がいると思うのですが、個人的なルーティンとして投稿時間の30分程前に投稿するお話の最終確認をするというめんどくさい習慣がついてしまっているためこの時間にさせていただきました。

事前にお知らせができなくて申し訳ありません。

これからも『恋の天使は愛犬でした』をよろしくお願いします!


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