第29話 ドッグラン前編
「月嶹さん、早くいきましょうっ」
星宮は玄関を開けてこう言った。
今日は以前計画を立てたもみじと三人でドッグランに行く日だ。
楽しみにしていてくれたのか朝からとても星宮のテンションが高い。
「待ってくれって、乗る電車には全然間に合うぞ」
「そういうことじゃないんですよ、私は1秒でも長くお出かけを楽しみたいんですっ! さあ行きましょうっ」
星宮はそう言うと俺の手を引っ張って玄関を出た。
「今日行くところ月嶹さんは行ったことあるんですよね?」
「うん、早苗さんの家に来たばかりの時に何回か言ったことあるな」
「そうなんですね、どういうところなんですか?」
「うーんとドッグランっていうと大きい広場みたいな所をイメージすると思うんだが、今から行くところはそんなに広くないから初めての人も遊べるし、接客もすごい丁寧で居心地がいいところだよ」
「なるほど……! ますます楽しみになってきました!」
話しているうちに駅に着いた。
家から駅は徒歩15分ほどだが星宮と一緒だと5分程度に感じた。
「私たちが乗る電車までまだ時間ありますね、どうします?」
「うーん、早く着くに越したことはないしもう乗っちゃうか」
「わかりました」
改札を通るためにポケットからパスケースを出すと星宮が目をキラキラさせてとても嬉しそうな顔でこちらを見てきた。
「ど、どうした?」
「私があげたパスケース使ってくれてるんですね、凄く嬉しいです」
「ああ、そりゃ星宮がくれた物は使うさ。それにこれすごい便利だしな」
「良かったです、あげた甲斐がありました!」
星宮はより一層嬉しそうな顔をして笑った。
俺はその顔を見ていかに自分が幸せかを実感しつつ改札をくぐった。
その後俺らは電車に30分ほど揺られ最寄駅についた。
「よし、ここまでくればもう着くぞ」
「本当ですか、ワクワクしてきました」
「俺も久しぶりだから楽しみだな、ほらもう見えてくるぞ」
目的地は駅から徒歩30秒ほどの場所にあり、少し大きめのコテージが目印だ。
「あそこですか! 凄く優しい雰囲気ですね」
「だよなぁ。 ここがなかったらもうすこし立ち直るの遅かったかもな」
「じゃあここは月嶹さんの恩人ならぬ恩建物なんですね」
「そ、そうだな」
星宮の恩建物という独特のネーミングセンスに動揺しつつドアを開けた。
「いらっしゃいませー、って太陽? 久しぶり!」
「あ、天さんお久しぶりです」
「太陽大きくなったね、そちらの可愛い子は太陽の彼女?」
「違います、友達です」
「星宮明里です」
「明里ちゃんって言うんだね! 私は
「はい、よろしくお願いします」
「今日弓子さんはいらっしゃらないんですか?」
「お母さんいま出かけてるんだよね、多分12時くらいには帰ってくると思うよ」
「あ、そうなんですね。もうやってますか?」
「うん、やってるけどもみじちゃんは?」
「あ、ここにいますよ」
俺はリュックのファスナーを開けてもみじを出した。すると
「いやーん、もみじは相変わらず可愛いでちゅねぇ、元気にしてまちたかぁ?」
もみじを見た瞬間天さんが壊れた。
天さんは無類の動物好きで今は獣医を目指して勉強中らしい。
「天さん……?」
「あ、ああごめんごめん、久しぶりのもみじでつい興奮しちゃった。三人で1500円になります」
お金を払い広場へ行く。
扉を開けるともうすでに三匹ほど先客がおり、みんな楽しそうに走り回っている。
「よし、じゃあ早速遊ぶか」
「はい!」
そう言ってもみじを下におろしリードを外す。
自由になったことを知ったもみじは尻尾をブンブン振ってピョンピョン跳ね始めた。
可愛い。
「最初は何しよっか?」
「月嶹さんに任せますよ」
「じゃあお気に入りのおもちゃ持ってきたからそれで遊ぶか」
俺はリュックからいつも家で遊んでいるボールを取り出し星宮に渡した。
「ほい、投げてあげてくれ。ただ投げる時極力他の犬のいない方向に投げてな」
「わかりました、えいっ!」
星宮が思いっきりボールを投げるともみじは短い足を高速で回転させながらボールを追いかけていき、ノーバウンドでボールをキャッチした。
「もみじちゃん凄いですね! 今の取っちゃうなんて」
「そうだな、昔はボールに追いつくので精一杯だったのにいつのまにこんなに上手くなったんだろう? よっ!」
今度はボールを投げるふりをしてフェイントをいれつつボールを投げた。
流石にスタートが出遅れてキャッチは無理かと思ったが見事にキャッチした。
こんな感じで俺らは交互にもみじにボールを投げ続けた。
しばらくして時計を見ると12時を回っておりもみじも俺たちも流石に疲れたので一度休憩することにした。
フィールドは飲食禁止だがコテージの中は犬と一緒にご飯を食べられるスペースがあるので俺らはそこで昼食を取ることにした。
ちなみに今日のお昼は星宮が作ってくれた弁当だ。控えめにいって最高である。
「ほいもみじ、ゆっくり食べるんだぞ」
「はい月嶹さん、ゆっくり食べてくださいね」
「俺は犬じゃないぞ……」
「ふふ、そうでした。でも月嶹さん性格は犬みたいですよね」
「そうか? 初めて言われたな……」
「そうですよ? 月嶹さんは一度懐いたらとことん懐くタイプだと思います」
「あー、それはあるかもしれない。でもその点だったら星宮もだいぶ犬っぽいと思うけどな?」
「そうですかね?」
「うん、喜んでる時とか揺れてる尻尾が見える時あるもん」
「それは喜んでいいやつでしょうか……?」
と話していると入り口から久しぶりに聞く声がした。
「たっだいまー! 天お留守番ありがとね」
「いいえ、そういえば太陽が来てるよ」
「えっ、太陽くんきてるの!」
「うん、あっちで彼女とご飯食べてるよ」
どうやら天さんのお母さんの弓子さんが帰ってきたらしい。
「太陽くんもみじちゃん久しぶり〜、二人とも大きくなったね」
「弓子さんお久しぶりです」
「あら、こちらの子は太陽くんの彼女……」
弓子さんは急にそこで話すのをやめた。
弓子さんの顔を見るととても驚いた表情をしており驚いたが次に弓子さんが発した言葉にもっと驚いた。
「明里ちゃん?」
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