第28話 全力ぐーたらデー
「星宮、準備はいいか……?」
「は、はい。こういうの初めてですけど全力で楽しみます!」
「よし、始まったら緊急時とトイレ以外は立つことは禁止だ。わかったな?」
「はい……!」
「じゃあ始めるぞ『全力ぐーたらデー』を……!」
そう言うと俺らはソファーに座り、俺はもみじを膝に乗せテレビをつけてNET◯LIX を起動した。
全力ぐーたらデーとは月嶹家に伝わる由緒正しき(?)行事で長期休暇の際に1日だけ自分へのご褒美として一日中怠惰と娯楽の限りを尽くす日を設けるというものだ。
俺らは早苗さんたちに星宮のことがバレた日にする予定だった映画鑑賞をしようということになりそれならと全力ぐーたらデーを提案し、今に至る。
「ほい、星宮、最初好きな映画選んでいいぞ。」
「ありがとうございます、でも私映画とか全然見たことなくてよく分からないんですけど大丈夫ですか?」
「全然大丈夫、直感で面白そうと思ったやつを選べばいいよ」
「わかりました、どれにしようかな……」
星宮は目をキラキラさせながら映画の一覧表を開き見たいものを探し始めた。
その様子を見ているだけで日頃の疲れが吹き飛んだ。
「あ! このキャラ可愛い。これが見たいです!」
「ん、どれ選んだんだ……いっ!?」
星宮が選んだ映画はソーセージ◯ーテ◯ーという映画だった。
この映画は以前見たことがあり、とても面白かった。面白かったのだが内容が少し下品というか出てくるジョークがブラックジョークを極めており星宮と一緒に見ると気まずくなる自信があった。
「どうしました?」
「これはちょっとやめといた方がいいかも……」
「え、どうしてですか? すごく可愛いじゃないですか」
このソーセージを可愛いと思う星宮の独特の感性に驚きながら俺はなんと説明しようか悩んだ。ただ単に下ネタが多いと言ってもダイレクトすぎるし、かと言ってオブラートに包みすぎると押し切られて再生されてしまう。
「うーんと、この映画あまり評判が良くないんだ、だから他のにした方がいいと思う」
「そうなんですか? こんなに可愛いのに残念です……じゃあこれにしましょう!」
そう言って星宮が選んだのは先ほどのソーセージとは打って変わって女子が好きそうな青春映画だった。
俺は今まで恋愛ものには全く興味がなく見る気が起きなかったが星宮のことを好きになってから少し興味が湧いていたので嬉しい選択だった。
「お、俺もこれは見たことないな、じゃあ一本目はこれにするか!」
「はい!」
再生ボタンを押し、予め買っておいたポップコーンをお皿に入れ俺と星宮の間に置く。
「ポップコーンここに置いとくから好きに食べていいからな」
「はい、ありがとうございます。なんか映画を見るだけなのに特別なことをしている気がしてドキドキします」
「それ凄いわかる、普段こんなことする機会そうそうないからな、ワクワクするよな」
「はい!」
映画の内容はマンションのお隣さんとひょんなことから知り合いお互いに段々惹かれ合って行くという内容だった。なぜか凄く親近感が湧いた。
映画が終盤に差し掛かり主人公がヒロインに自分の思いを伝え、ヒロインはキスで返事をするというシーンになり、じっと見ているのが恥ずかしくなり俺はポップコーンの皿に手を伸ばした。
するとなにか柔らかい感触を感じ、皿の方を見ると星宮もちょうど皿に手を伸ばしており軽く手が当たってしまった。
「わ、悪い、先とっていいぞ」
「こちらこそごめんなさい、ありがとうございます……」
普段なら特に気にしないのだろうが映画のシーンがシーンだったので一気に顔が熱くなり星宮の方を見れなくなってしまった。
その後映画が終わり顔の熱も引いたので星宮に次何を見たいか聞いた。
「面白かったな、次は何が見たい?」
「はい! とっても素敵なお話でしたね。次は月嶹さんが決めていいですよ」
「そうか? そうしたら一つ見たいのがあるんだけど星宮ホラーって大丈夫か?」
「ホラーですか……あまり触れたことがないのでわからないですけど挑戦してみます!」
「わかった、無理そうだったら言ってな」
そういうと俺はホラーの項目を選択し◯Tを選択した。
◯Tは公開された時からずっと見たかったのだが年齢制限で見れず、見れる機会を心待ちにしていたところ先日配信され、ずっと見たくてうずうずしていた。
念のために言っておくと出てくるのは茶色い宇宙人ではなく風船を持ったピエロである。
「よし、スタート」
冒頭は特に何もなく平和なシーンが流れ、星宮も見る前の緊張は少しほぐれていたようだが1回目のホラーシーンが流れると同時に小さく「ひっ!」と声を出して俺の方に近づいて俺の後ろにぴったりとくっついて隠れた。
背中越しに星宮の胸の感触とすごい速さで動いている心臓の鼓動を感じ、自分の心臓も肋骨を突き破りそうなくらい跳ね始めた。
その後星宮は落ち着いたのか元の位置に戻ったが、空になっていたポップコーンお皿をどかし、俺の真横に座り服の裾をキュッと握ってきた。
映画もどんどん本性を現して怖さが増していき、ホラーシーンのたびに星宮が画面から目を背け俺の肩に顔を埋めてくるので俺の鼓動の早さも増していき、終盤はもう映画どころではなかった。
「こ、怖かったです……私ホラー苦手です……」
「確かに星宮の心臓の音聞こえるもんな」
「月嶹さんは怖くないんですか?」
「うん、俺は結構好きでホラー映画見たりするからな」
「本当ですか?」
星宮はそういうと耳を俺の胸に当ててきた。
それと同時に星宮のあまい香りが鼻腔をくすぐり、収まりかけていた鼓動が再び速くなる。
星宮は胸に耳を当てたまま、
「月嶹さんの心臓凄いドキドキしてますよ?」
と言ってきた。
今すぐ星宮のせいだぞと叫びたかったが叫ぶこともできず、
「そ、それは映画のせいじゃなくて……」
「じゃあ何のせいなんですか?」
「い、いやそれは……」
「怖かったわけじゃないんですよね?」
「うん、映画は面白かった」
「じゃあ何にドキドキしてたんです?」
「それは内緒だ、さあ、次の映画見ようぜ」
俺はこのままでは押し切られると思い無理やり話を変えた。
「話変えないでくださいよー」
「まあいつか教えるよ」
「絶対ですからね?」
「わかったよ、約束する」
そいうと星宮は渋々納得してくれた。
この日を境に星宮はどっぷり映画にはまってしまったらしい。
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