第27話 アクシデントと幸せ

「星宮さん?」


後ろから急に声がしたため俺らは驚いて振り返った。

そこにはクラスメイトの女子三人がおり、俺は慌てて俯いたのだが、がっつり顔を見られてしまった。

(やばい、バレた……)


「やっぱりそうだ〜、なになに星宮さん彼氏とデート中?」

「い、いやそういうわけじゃ……」


(あれ? バレてないぞ?)

バレなくて安心したがクラスメイトがいかに自分に興味がないかが分かり少し悲しかった。


「ええ〜、本当に違うの〜? そんなにくっついて歩いてるのに?」


指摘されると急に恥ずかしさがこみ上げてきてお互い同時に一歩距離をとった。


「ほ、本当に違うんです、彼は私の……」

「私の……?」

「従兄弟なんです!」

「!?」


いきなりだったとはいえもう少し上手な嘘はなかったのだろうか……

俺と星宮は全然似てないしいきなり従兄弟と言われても信じてくれるわけ……


「そうなんだ〜、それは仲良くて当然だね」

「!?」


めちゃくちゃすんなり信じてくれた。


「は、はい」

「従兄弟さんはいつも星宮さんのことなんて呼んでるんですか〜?」

「えっ!? えっとえっと、普通に明里って呼んでます!」

「っ……!?」


急に自分に会話を振られ動揺して『従兄弟=親族=苗字が一緒』という思い込みをしてしまい、下の名前で呼んでいることにしてしまった。

明里と言った瞬間星宮が息を飲んだ気がしたが不快な思いをさせてしまっただろうか。


「仲良いんですね〜」

「は、はい。従兄弟なんで」


そういうと彼女は一瞬考えて


「やっぱり星宮さんの従兄弟なだけあって従兄弟さんかっこいいですね」


と言った。


「あ、ありがとうございます」

「…………」


星宮以外の人からかっこいいと言われたのは初めてだったので不覚にもドキッとしてしまった。


「じゃあ星宮さんまた学校でね〜」

「はい、また今度」


俺らは三人が見えなくなると再び歩き出した。


「ふぅー、まさか知り合いがいるとは思わなかったよ……」

「そうですね……」

「まあバレなくて良かったよ、早苗さんには感謝だな」

「そうですね……」

「ただ学校始まってから大変そうだけどな……」

「そうですね……」

「星宮さっきからそうですねしか言ってないけど大丈夫か……?」

「えっ、あっ大丈夫です……すいませんぼーっとしてました……」

「そかそか、大丈夫なら良かったよ」

「ありがとうございます……」


ペットショップは一階ではなく二階にあるため俺らはエスカレーターを目指して歩いていたのだが途中から急に人の数が増えたので辺りを見渡すと、どうやらこれから男性アイドルのイベントが始まるようだった。

もしかしたらさっきの三人もこれ目当てで来たのかもしれない。


「星宮はこういうアイドルとか興味あるのか?」


そう星宮に尋ねて横をみると星宮の姿がなかった。


「星宮!?」


かなりの人混みなのではぐれてしまったのかもしれない。

俺は急いで星宮に電話をかけた。


「もしもし星宮今どこだ? 大丈夫か?」

「あ、月嶹さん、大丈夫です。月嶹さんは大丈夫ですか? 今エスカレーターの前にいます」

「うん、大丈夫。わかった、急いでそっち行くよ」

「わかりました、待ってますね」


俺は星宮を一人にしたくなかったので必死に人混みを掻き分けながらエスカレーターに向かった。


「星宮、ごめん、はぐれちゃって」

「いえ、私が考え事をしてぼーっとしちゃったのが悪いので月嶹さんは気にしなくて平気ですよ」

「そうか? ありがとう」

「いえいえ」


エスカレーターの上を見ると下のステージに収まりきらなかったファンたちが大勢いて、俺はまた星宮とはぐれてしまうのがとても怖くなり少し考えてから星宮の手を握った。

すると星宮は驚いた顔でこちらを見てきた。


「!?」

「びっくりさせてごめん、またはぐれると嫌だからさ。星宮が嫌ならやめるけど……」

「い、いえ私もはぐれたくないですしその、嫌じゃないのでこのままでいいです……」


そういうと星宮はぎゅっと俺の手を握り直した。

それによって一層星宮の手の暖かさと柔らかさを感じてクラクラしたがなんとか耐えて、俺も手を握り返した。

すると星宮はこちらを見上げて頰を真っ赤に染めながら幸せそうに笑って、


「手を繋ぐってとても幸せな気持ちになりますね」


と言った。

その笑顔は相変わらず眩しくて、可愛くて、美しくて、ずっと見ていたいと心から思った。


「そうだな」

「あ、ペットショップ見えてきましたよ」

「本当だ、この距離にしては結構時間かかったな」

「そうですね」


中に入ると一面子犬たちで埋め尽くされており、まるで天国だった。

星宮も目をキラキラさせて辺りを見回していた。

星宮はクラスメイトに会ってからどこか浮かない顔をしていたので楽しそうで安心した。


「月嶹さん、凄いです! こんなに沢山の子犬見たことないです!」


そう言うと星宮は俺の手を引っ張って色々なケージを見て回った。

その中で双子の子犬が入ったケージがあったのだがそのケージを見た瞬間物凄い既視感に襲われた。


「この子達双子なんですね! 凄く可愛いです」

「そうだな……」

「月嶹さんどうかしました?」

「い、いやなんかこの状況前にもあった気がしてさ。星宮とペットショップに来るの初めてのはずなのに凄いなんか懐かしさを感じるんだよな……」

「既視感ってやつでしょうか?」

「うん、でもまあ夢とかとごっちゃになってるだけだと思うからあんまり気にしないでおくよ」

「そうですね、っていうか月嶹さん私とペットショップに行く夢見てくれてるんですね」

「あ、いや今のは言葉の綾で……」

「ふふっ、珍しくボロが出ましたね」

「だから言葉の綾だって……」

「まあそういうことにしといてあげます」


そういうと星宮は次のケージへ俺を引っ張っていった。

それと同時に既視感は消えたのだが、ふとあのケージが目に入ると何かを思い出しそうな感覚に襲われた。

一通り子犬を見終わった俺らは一度早苗さん達のところに戻ることにした。


「あらあら手なんて繋いじゃって、若いわねぇ」

「あ、こ、これは人混みで一回はぐれちゃったんではぐれないように繋いでただけです」


かなり長い間手を繋いでいたので脳がこの状態が普通と捉えてしまい手を繋いでいたことを忘れていた。


「そうなの明里ちゃん?」

「は、はい、そうです」

「そうなのね、残念だわ」


何が残念なのか気になったが聞かない方が良さそうなので聞かないでおいた。


「この後はどうするんですか?」

「この後はもみじの服を皆で選んで帰ろうかなと思ってるけど他にやりたいこととかある?」

「俺はないです」

「私もないです」

「わかったわ、そしたらさっきのお店に戻ってもみじの服選びましょ」


俺らは最初のお店に戻ると一人一着ずつもみじに似合いそうな服を選んだ。

源治さんは早苗さんにセンスがないから審査員をしてと言われてしょげながらも了承していた。センスがない人に審査員をさせるのもどうかと思ったが気にしたら負けな気がしたので流れに任せた。

そして本日二度目のファッションショーが始まった。


一着目は俺の選んだ青と白のシマシマ模様が特徴的な水兵をイメージした服だ。

夏限定のデザインにはなってしまうがその分夏に着るなら一番似合うものを選んだ。

源治さんの反応は、


「うん、可愛い! 80点!」


というものだったので上々だろう。

二着目は早苗さんの選んだもので白色の生地に黒でニコちゃんマークが描かれた可愛らしいデザインのものだった。本人曰く黒の生地に白の顔の方が好みだったらしいが黒は熱を吸収してしまうから却下したらしい。

早苗さんは飼い主の鏡だ。

気になる源治さんの反応は、


「普通。50点」


とかなりの辛口だった。おそらくセンスがないと言われたことを根に持ったのだろう。

そしてラスト三着目は星宮の選んだ服で淡い赤色の上に綺麗な紅葉の葉がヒラヒラと舞い落ちているイラストが描かれている服だった。

シンプルなデザインだがもみじという名前にもぴったりだし、何よりもみじに着せた時に一番喜んでいるように見えた。

源治さんも、


「素晴らしい、文句なしの100点!」


と大好評だったので全会一致で星宮の選んだ服になった。

帰りの車の中で早速もみじに着せてあげると大喜びで車内を暴れまわり危うく事故になるところだった。

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