第26話 買い物とハプニング
「太陽ー、朝よ、起きなさーい」
「んー、あと五分だけ……」
「何言ってるの、今日は皆でお出かけする日でしょ」
「そうですけどまだ朝の6時ですよ? ってかなんで俺の家にいるんですか?」
俺は寝ぼけた目をこすって渋々体を起こしながら尋ねた。
「それはね、太陽のイメチェンをしに来たのよ!」
「……え? イメチェンですか?」
「ええ、太陽顔は悪く無いのにそのめんどくさがって切らない髪の毛のせいで凄く根暗なオーラが出てるのよ、だから今から髪の毛を切っちゃおうと思って。それに明里ちゃんと出かけるなら少しでもカッコいい方がいいでしょ?」
「それはそうですけど俺はこの髪型気に入ってるって言うか落ち着くっていうか……」
「つべこべ言わないで早くお風呂場に来なさい、もうセッティングしてあるわよ」
そう言うと早苗さんはお風呂場に行ってしまったので俺も後について行った。
早苗さんは昔、美容師をしていたので腕に心配はないのだが小さい時一度切ってもらった際に「失敗したから剃っちゃった」とスポーツ刈りにされたトラウマがあるので足がとても重かった。
「少し失敗したからって剃らないでくださいね?」
「懐かしいわね、大丈夫よ、あれは少しやりすぎたって反省してるわ」
「本当ですか……? 早苗さん凄く楽しそうに見えますけど……」
「別にそれもありだなんて思ってないわよ、ただ懐かしさに浸ってるだけよ。じゃ、ぱぱっと済ませちゃうわね」
「それ思ってるやつですよね? 絶対思ってるやつですよね!?」
俺の全力の抵抗も虚しく散髪が始まった。
俺は諦めて目を閉じて終わるのを待った。
「はい、終わったわよ」
俺はその声が聞こえた瞬間に自分の頭に手を伸ばし自分の髪の毛の生存確認を行った。
「よかったぁ、髪の毛がある……」
「確認するところそこじゃないでしょ、ほら見てみなさい」
そう言うと早苗さんは手鏡を渡してきた。
鏡を受け取り恐る恐る覗き込むとそこには毎日鏡で見ていた根暗な自分ではなく少しだけかっこよく見える自分がいた。
「おおー、良い感じかもしれないですね」
「でしょ? 後は軽くワックスで整えたら完成よ、明里ちゃんの反応が楽しみね」
この後早苗さんは俺の髪型だけでなく服も選んでくれてなんだが子供の時に戻ったみたいだった。
「じゃあ下で待ってるから明里ちゃんと一緒に下に来てね」
「わかりました」
早苗さんに言われた通り星宮を迎えに行こうとしたが今の自分を見て引かれないかと心配になった。
しかしもうどうすることもできないので意を決して星宮の家のインターホンを鳴らした。
「星宮、おはよう。下で早苗さん達が待ってるから一緒に行こう」
「おはようございます、わかりました、今出ますね」
星宮が出てくるまでの少しの間で髪型と服装の最終確認をした。
もうこれで3回目だがどうしても不安が少し残ってしまう。
「月嶹さん、お待たせしま……」
星宮は話すのを途中でやめると驚いた顔でこちらを見てきた。
「朝早苗さんに色々イメチェンさせられたんだけどやっぱり変、だったかな……?」
「い、いえ、凄く……かっこいいと思います……」
と星宮は顔を赤くしながら言った。
「ありがとう……」
一番言って欲しかった言葉なのに実際に言われると嬉しさと恥ずかしさがごちゃ混ぜになった感情になる。
俺は少し落ち着くのを待って星宮を見たのだが見た瞬間言葉を失った。
なぜならそこには天使か何かと見紛うほどに美しい女性が立っていたからだ。
星宮は白色のオフショルダーにデニムのワイドパンツという服装だったのだが、オフショルダーの肩を大胆に出すセクシーさとそれをカバーするワイドパンツの清楚さが星宮の魅力を最大限に引き出していた。
「星宮も凄く可愛いぞ、その服すごい似合ってる」
「ありがとうございます……月嶹さんもその髪型凄く似合ってますよ」
「ありがとう、じゃあ行くか」
「はい! ところでもみじちゃんはもう下に行ってるんですか?」
「いや、そのまま抱えて出ると管理人さんに見つかっちゃうからこの中にいるよ」
そう言うと俺は自分の背負っているリュックを指差した。
「え、この中にいるんですか!? 入れちゃっても大丈夫なんですか?」
「うん、このリュック犬用としても普通のリュックとしても使えるやつなんだ」
「凄いですね!」
「だろ? 買っといてよかったよ」
エレベーターを降りると早苗さんが待っていた。
「あらー、明里ちゃんすっごく可愛いじゃない、太陽に褒めてもらった?」
「ありがとうございます、はい……可愛いって言ってくれました……」
そう言うと星宮は再び顔を赤くして俯いた。
「あらあら、朝からお熱いわね」
「俺は思ったことを言っただけです、だから別にそういうんじゃ……」
「はいはい、わかったわ。さ、行きましょ」
早苗さんに本当に伝わっているのか心配だったがおとなしく二人で後についていった。
「源治さん、おはようございます」
「おう太陽おはよう、少し見ないうちにかっこよくなったじゃねぇか」
「今日朝早苗さんが色々やってくれました」
「なるほどな、明里ちゃん正直この太陽どう思う?」
星宮はいきなり自分に話を振られたことに驚きながら恥ずかしそうに
「凄く、かっこいいと思います……」
と言った。
俺は本日二度目のそのセリフにやられリュックからもみじを出してもみじに顔を埋めた。
「良かったな太陽」
「はい……」
「太陽もちゃんと明里ちゃんに可愛いって言ったらしいわよ」
「熱いねぇ、早苗やっぱりこれって……」
「ええ……」
ここで二人は一呼吸置いて、
「できてるな」
「できてるわね」
と言った。
この夫婦は毎日最低一回これをやらないと死んでしまう体質なのだろうか?
「だからそう言う関係じゃないですって!」
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「よし、着いたぞ」
「おおー、ここですか!」
俺らはショッピングモールにやってきたのだが、ここはただのショッピングモールではなく犬と一緒に買い物ができるショッピングモールである。
中には色々なお店があり一階にあるお店はリードをつけて一緒に歩きながら買い物もできるらしい。
「よし、もみじ行くぞ」
そう言ってもみじを下ろすと久しぶりの外だからか尻尾をブンブン振って大はしゃぎでジャンプしたりしていた。
凄く可愛い。
「あらあらもみじったらそんなにはしゃいで。可愛いわねぇ」
「そうだなぁ、さすが我が家の愛犬だな」
ふと星宮の方を見ると俺の手元を凄く見ていた。
「星宮リード持ってみるか?」
「え、いいんですか!」
「もちろん、もみじも星宮なら安心できると思うしな」
「ありがとうございます!」
星宮はそう言うと目をキラキラさせながら俺からリードを受け取った。
「うふふ、明里ちゃんともみじすごいお似合いよ」
「そうですか!? 良かったです」
確かにもみじと星宮の組み合わせは絵になる。
可愛い×可愛いは最強だ。
「最初はどこに行くんだ?」
と源治さんが質問すると
「そんなの決まってるじゃない、服を見に行くわよ」
早苗さんはこう言ってスキップをしてショッピングモールに入っていった。
星宮も服と聞いて目を光らせてもみじと一緒に早苗さんの後についていった。
「女って何でこんなに服が好きなんだろうな……」
「人類の一生の謎ですね……」
ノリノリの二人とは対照的に俺と源治さんは断れない不甲斐なさと自分が如何に尻に敷かれているのかを実感しながら後に続いた。
「うわぁー、色んな服がありますね!」
「そうだな、しかもあっちには犬の服のコーナーもあるぞ」
「本当ですね、後でもみじちゃんの服も選びましょう!」
「私と明里ちゃんはこのお店で色々見るから源治さんは好きなところ行ってていいわよ」
「え、俺は……?」
「太陽はこのお店で待ってなさい、準備ができたら呼ぶから」
「準備って何の準備ですか?」
「それはまだ内緒よ」
「源治さん、準備って何だと思います?」
と言って源治さんの方を向いたのだがもうすでに源治さんの姿はなかった。
一人だけいなくていいと言われて悲しむかと思ったがそんなことはなかったらしい。
何か女性と服を買いに来ることにトラウマでもあるんだろうか。
「じゃあ出来たら呼ぶから近くにいるのよ」
「わかりました」
近くにいるのはいいのだがこのお店は女性用の服しか取り扱っておらずもみじと一緒でも男が一人でいるとかなり浮いており凄く視線を感じた。
しばらく視線に耐えつつ『あの服星宮に似合いそうだな』など気持ちの悪い妄想をしながら待っていると早苗さんが呼びにきたのでついて行くと試着室の前に着いた。
「試着室、ですか?」
「ええ、今から三着明里ちゃんが着るからその中でどれが一番似合ってたか教えてちょうだい」
「え、俺が選ぶんですか!?」
「そうよ、明里ちゃんの希望だからちゃんと選んであげるのよ?」
「が、頑張ります……」
星宮の希望なら受けるしかないので可愛さに殺されないように心構えをした。
「1着目はこれよ!」
試着室のカーテンが開けられ着替えた星宮が現れる。
1着目は白色のノースリーブにベージュのロングスカートを合わせたものだった。
ノースリーブが夏らしい活発な印象を与えるとともにロングスカートが大人っぽい雰囲気を醸し出して今までとは違う星宮の魅力を引き出している。
「どう、ですか……?」
「すっっごい似合ってて可愛い!」
「本当ですか……! 嬉しいですっ」
「あらあら二人ともお熱いわねぇ、明里ちゃん二着目もこの調子で太陽悩殺しちゃいなさい」
「はい、頑張ります!」
何か物騒な言葉が聞こえた気がしたが気にしないで次を待つ。
すると再びカーテンが開いた。
今度は先程とは打って変わって少し大きめの黒色で無地のトップスにデニムのショートパンツを合わせた足の露出が多めの服装だった。
普段学校では制服だし家でもかなりぴっちりした服を着ているのでこういうカジュアルな服はとても新鮮で心臓を撃ち抜かれた錯覚に陥った。
「これはどうですか……?」
「さいっっこうに可愛い!」
「良かったです、ありがとうございますっ」
「次でラストだけど太陽耐えられそう?」
「はい、意地でも見届けますッ!」
三着目を待っていると源治さんが「腹減った」と言いながら帰ってきたので今の状況を説明しているとカーテンが開いた。
最後は白と黒のギンガムチェック柄のワンピースだった。
いたってシンプルなコーディネートなのだがそれ故にとても落ち着いた印象を与え、星宮自身の魅力を塗りつぶさずに引き立てており、星宮のモデル並みのスタイルが強調されて高校生とは思えないほどの大人っぽさだった。
「どう、ですか……?」
「めちゃくちゃ可愛い!」
「はうぅぅぅ……」
「あら、明里ちゃん可愛いって言われすぎてショートしちゃったわね……で太陽どれが一番良かった?」
「うーん……全部凄く可愛かったし似合ってて選べないです……」
「まあそうよねぇ、よし、わかったわ。ちょっと待っててね。」
そういうと早苗さんはおもむろに服を三着持つとレジの方へ行き10分ほどで帰ってきた。
「明里ちゃん、もうショートしてない?」
「はい、何とか……」
「なら良かったわ。はいこれさっきの三着私からのプレゼントよ」
「え!? 悪いです、もらえません!」
「いいからいいから、もう買っちゃったんだし、ね?」
「でも流石にこんなにたくさんもらうわけには……」
星宮が遠慮していると早苗さんは星宮の耳元で何か囁いた。
「じゃあ代金は息子を幸せにするってことでどうかしら?」
囁かれた星宮は顔を赤くして小さな声で、
「頑張ります……」
と答えた。
何と言って説得したのか気になったが教えてくれなかった。
この後一度昼食を挟み、早苗さんが「久しぶりに源治さんともみじと三人でゆっくりしたいから二人で好きなところ回って来ていいわよ」と言ってくれたので二人でショッピングモールを回ることにした。
「星宮何か見たいものとかあるか?」
「いえ、私はさっき付き合ってもらったので月嶹さんの行きたいところでいいですよ」
「そうか? じゃあペットショップ行ってみてもいいか?」
「はい! もちろんです」
夏休みでそこそこ人が多かったので俺らははぐれないようにぴったりとくっついて歩いていると後ろから、
「星宮さん?」
という声が聞こえたので振り返るとクラスメイトの女子が三人立っていた。
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