夏休み編

第25話 突然の訪問

ブー、ブー、ブー


頭の近くに振動を感じる。


ブー、ブー、ブー


寝ぼけた頭で携帯が震えていることのみ理解した。


ブー、ブー……


どうやら止まったらしい。覚醒しかけた意識を再び夢の中に沈めようとすると、


ピコン♪ピコン♪ピコン、ピコン、ピコン、ピコピコピコピコピコピコ……


今度はチャットアプリの受信音がアラーム並みに鳴り響いた。


「あぁぁぁぁもううるさいな! 誰だよ、こんな嫌がらせをしてくるやつは!?」


携帯を見ると時刻は朝の3時だった。

目線を下に下げると大量のスタンプと一件の不在着信の通知が来ていた。

誰からかイライラしながら確認すると早苗さんからだった。

こんな時間に電話をかけてくるということは何かあったのかもしれない。

俺は急いで早苗さんに電話をかけた。


「もしもし、早苗さん? 何かあったんですか!?」

「ハロー、太陽、別に何もないわよ?」

「よかったぁ……じゃなくてじゃあなんでこんな時間に電話かけてきたんですか?」

「あ、そうだったわね、今そっちは朝の三時だったわね」

「そっちは……?」

「あら、言ってなかったかしら? 私今源治さんのところにいるのよ」


源治さんとは俺の叔父にあたる人で早苗さんの夫だ。

源治さんは単身赴任でニューヨークで仕事をしている。つまり今早苗さんはニューヨークにいると言うことになる。


「全く聞いてませんよ! もみじのことでメールした時も急用ができたとしか言ってませんでしたし……」

「そうだったかしら? まあそんなことは置いといて、久しぶりに源治さんが休みを取れたって言うから二人でそっちに行くわ」

「本当ですか!? わかりました! いつこっちに着くんですか?」

「明後日の朝9時に着く予定よ」

「了解です。源治さんに久しぶりに会うの楽しみですって伝えといてください」

「わかったわ、じゃあおやすみなさい」


早苗さんがニューヨークにいるのには驚いたが久しぶりに三人で話ができると思うととてもワクワクした。


「今日が7月27日だから二人は29日にくるのか、正直星宮のことは知られたくないからこの日は前もって星宮に事情を説明してご飯などは無しにしてもらおう」


俺は今後の作戦を立てながら再び眠りについた。

後々もっとよく考えるべきだったと後悔することになるとは知らずに……

------------------------------------

「月嶹さん、おはようございます!」

「おお、おはよう」


俺は朝の挨拶をすると星宮を家へ入れた。

先週から夏休みが始まったのでこうして朝から星宮と二人で過ごすことができる。

控えめに言って夏休み最高である。


「今日はもみじと三人で遊びに行く場所を決めるんだよな?」

「はい、そのつもりです」

「了解、終わったら映画でも見るか?」

「映画ですか?」

「うん、実家からお気に入りの映画をいろいろ持ってきてあるんだ。苦手なジャンルとかあるか?」

「うーん、そもそも映画を見ないのでわからないです」

「じゃあいろんなやつ見るか」

「そうですね!」


この後俺らは二時間ほどドッグランを調べて、昔俺がまだ小さかった時にもみじと一緒に行ったドッグランに行くことにした。


「場所も決まったんで一回お昼ご飯作りますね」

「いつもありがと、お茶とコップと敷物だすな」

「はい、お願いします」


俺はもう当たり前となった自分の数少ない仕事をこなした。

この仕事が当たり前のものになったということはそれだけ星宮と一緒に食卓を囲んだということだと気づき恥ずかしさとそれと同じくらいの嬉しさを感じた。


「できましたよ、今日は暑いので冷やし茶漬けにしてみました!」

「おおおー! 美味そう!」


冷やし茶漬けという名前は初めて聞いたが見るからに暑い夏にはぴったりな料理だった。

ご飯の上にほぐした塩鮭と梅干しと刻み海苔とわさびとネギが乗っており、その上から冷たいほうじ茶がかかっていた。

言葉で言うと素朴な感じに聞こえるかもしれないが実際に見るとありえないくらい食欲をそそられる。


「「いただきます!」」


一口食べて美味すぎて箸を落としそうになった。


「なんだこれ……今まで食べたお茶漬けの中でダントツに美味い……って言うかこれ本当にお茶漬けか? お茶漬けという枠に収めていてはもったいないくらいの美味さなんだが……」

「そう言ってもらえるとすっごく嬉しいです! 私もこれ大好きで良く作ってもらってたんですよ」

「そうなのか! 俺もこれハマりそうだ、また今度作ってもらってもいいか?」

「はい! もちろんです!」

「あ、そういえば明日早苗さんと俺の叔父の源治さんが家に来るから明日は一緒にご飯とか食べたりできない、ごめんな」

「いえいえ、気にしないでください! 久しぶりの一家団欒楽しんでくださいね」

「ありがとう」


冷やし茶漬けの二杯目を食べているとインターホンが鳴った。


「ん? 誰だろ? 宅配便とか頼んだ記憶はないけど……ちょっとみてくるな」

「はい」


玄関に向かい、ドアスコープから外を見た。見た瞬間に全身の血液が凝固したかのように体が固まった。なぜなら外に早苗さんと源治さんが立っていたからだ。

俺は急いインターホンで「ちょっと待ってください!」と言うと星宮に


「星宮、時間がないから端的に言うぞ、なぜか今早苗さんと源治さんが玄関の前にいる。バレたら星宮が何されるかわからないから一回ここに隠れててくれ。」


と言って自分の部屋に星宮を隠した。

そのあと急いで星宮の靴を靴箱にしまい、星宮の分の食器を台所に運んで二人を迎え入れた。


「おまたせしました、二人とお久しぶりです」

「おう! 太陽元気にしてたか?」

「はい、おかげさまで! 早苗さんもお久しぶりです」

「久しぶり、ちゃんとご飯食べてる? 友達はできた? 彼女は?」

「えっと、質問には後々答えるのでとりあえず上がります?」

「そうだな、そうさせてもらうよ」


リビングへの扉を開けると二人の声が聞こえていたのだろう、もみじが全速力で走ってきた。


「おおーー、もみじひさしぶりだな、元気にしてたか?」


もみじは嬉しそうに源治さんの顔を舐めて返事をした。


「あら太陽、もうご飯食べちゃってたの? せっかく今日は私が作ろうと思ったのに」

「早苗さんたちが着くの明後日って話だったんでてっきり明日かと思ってたんです、どうしてこんなに早く着けたんですか?」

「え? 私たちは予定通りの飛行機できたわよ?」

「ん? でも電話したの27日で今日28日ですよ?」

「あー、そう言うことね、太陽に電話した時ニューヨークは26日だったのよ、それでそのまま伝えちゃったんだと思うわ」

「あー、時差ですか……」


俺は電話の時に時差のことを考えなかったことを猛烈に後悔した。


「お、これめちゃくちゃ美味いな、これ太陽が作ったのか?」


源治さんの方を見ると勝手に冷やし茶漬けを食べていた。


「ま、まあ一応……」

「私も食べたいわ、あら本当ね、凄く美味しいわ。これ本当に太陽が作ったの?」

「は、はい」


全身から冷や汗が吹き出たがバレないように全力で平静を装う。


「この動揺っぷりは……」

「彼女ね」

「女だな」


一瞬でバレた。しかしここで認めるわけにはいかない。


「いやいや、違いますよ! 1人暮らし4ヶ月近くしていればこれくらいできるようになりますって」

「そうかしら?」

「そうですよ!」


必死に主張すると渋々二人は納得してくれた。なんとか窮地は脱したと思って胸を撫で下ろしたのも束の間、源治さんがソファの下やクッションの下などを確認し始めた。


「源治さん何してるんですか……?」

「そんなん決まってるだろ、エッチな本隠してないかチェックだ!」


そういうと源治さんはいろんな物の中を確認していく。


「そんなん持ってませんって!!」

「持ってるやつは皆そう言うんだぞ!」


そう言うと源治さんはエロ本探しを続行した。

こうなると源治さんは止められない。しかもエロ本探しと言うことは必然的に……


「流石にリビングにはないか、となると自分の部屋だな」


こうなる。


「いやだからそんな本ないですって!!」

「ないなら見せてくれたっていいだろ?」

「それはそうですけど今日だけは見られたくないと言うか、見せちゃダメというか……」


俺がそういうと二人は再び顔を見合わせて


「彼女ね」

「女だな」


と言った。

なんなんだこの夫婦……


「だから違いますって!」

「太陽、この部屋の家賃を払ってるのは誰だ?」

「うっ、源治さんです……」


それを言われると何も言い返せず渋々ドアの前をどいた。

源治さんがドアを開けると星宮は俺のベッドにちょこんと座って、開いた扉に驚きながらこちらを見ていた。


「きゃあああ、何この可愛い子、太陽の彼女!?」


星宮を見るなり早苗さんが発狂した。

その後、


「太陽、お前こんな可愛い彼女作って……大きくなったな……」


と源治さんが涙声でそう言った。

俺は二人に星宮の事を彼女ではないと伝えた後に星宮と知り合った顛末を話した。

すると


「そうだったのねぇ。改めて太陽の叔母の月嶹早苗です、太陽がいつもお世話になっています」

「叔父の月嶹源治です。太陽が大変お世話になっております」

「い、いえいえ、月嶹さんにはいつも助けてもらってばかりで……あ、月嶹さんの隣に住んでる星宮明里です」


なぜか三人で自己紹介が始まった。

星宮は初対面の相手は誰でも苦手なようで早苗さんと会話している途中少しづつ俺の方に寄ってきて最終的にぴったり俺にくっついてきた。

そのことに本人は気づいてないらしいがこちらはありえないくらいドキドキして顔が熱くなるのを感じた。


「あらあらあら、なるほどねぇ、源治さんこれってそうよね?」

「ああ、どう見てもそうだなぁ、いいなぁ若いって」

「ん? どういうことですか?」

「なんでもないわ。太陽、ちゃんと明里ちゃんを大事にするのよ?」

「もちろんそのつもりです。星宮にはいつも色々なことしてもらってるので全力で大事にします」


俺がそう言うと星宮はこちらを顔を赤くして上目遣いで見ながら、


「ありがとうございます……私も月嶹さんのこと大事にしますね」


と言ってきた。

言葉と表情の破壊力が凄すぎて理性が飛び星宮を抱きしめそうになったが二人の前ということもありなんとか耐えた。二人きりなら確実に抱きしめていた自信がある。


「あらまぁ、これは私たちお邪魔かしらね、源治さんまた日を改めることにしましょ」

「そうだな、息子の恋路を邪魔する親にはなりたくないからな」

「いや、だからそういうんじゃ……」

「はいはい、とりあえず今日のところは帰るわね、また連絡するからその時は5人でどこかお出かけしましょ」

「え、私も良いんですか……?」

「もちろんよ、明里ちゃんが良ければだけどね」

「是非行きたいです!」

「わかったわ! じゃあ尚更早く予定決めなくちゃね。じゃあまた今度ね太陽」

「また今度な太陽」

「はい、また今度」


そういうと二人は帰っていった。


「ふぅーー、一時はどうなることかと思ったけど二人とも星宮の事気に入ってくれたみたいで良かったよ」

「そうですね、私も扉が開いた時はどうなるかと思うましたけど、お二人ともとてもいい方で安心しました」

「また予定増えちゃったけど大丈夫そうか?」

「はい! 月嶹さんと出かける予定なら毎日だって平気ですっ」


そう言うと星宮はとても綺麗に、可愛らしくに笑った。

その顔を見て、胸の中に溢れた星宮への好意をどうすることもできなくなり自分の部屋の扉が開いていたので俺は思いっきりベッドにダイブしてめちゃくちゃ星宮に心配された。


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