第24話 星に願いを
「今日のご飯もうまかったなぁ」
「お口にあったのなら良かったです」
「本当に星宮には頭が上がらないな……星宮と出会わなかったら添加物の取りすぎとかで寿命が十年くらい短くなってた気がするよ」
「お役に立てて良かったです、その十年私にくれてもいいんですよ?」
そういうと星宮は俺の心臓のあたりをトンッと人差し指で軽く叩いてきた。
体育祭後からこのようなちょっとしたスキンシップが増えた気がする。
ちょっとしたと言っても効果は絶大なのでいつ俺の理性が限界を迎えるか不安なのだが
どうしても嬉しさの方が勝るので素直に受け入れている。
俺はなるべく鼓動が早くなっているのを悟られないように、
「い、いいぞ、どっからの十年が欲しい?」
と聞いた。すると星宮は
「うーん、じゃあ今からの十年間くださいっ」
と言って最近よく見せる小悪魔のような笑みを浮かべた。
その表情の妖艶さにさらに心臓の鼓動が早くなった。
「い、今からか!?」
「ふふっ、冗談ですよ、流石に本当にもらおうなんて思ってないです」
「そ、そうだよな……安心した」
「あっ、もうこんな時間なんですね、そろそろ帰りますね。おやすみなさい!」
時計を見ると既に十時を回っていた。
「おう、おやすみ。また明日な」
「はい、また明日」
「ふぅー、星宮のおかげで十年寿命が延びても毎日あんなことされたら二十年くらい寿命が縮む気がするな……」
ピロン♪
早くなった鼓動が落ち着くのを待っていると携帯がメッセージを受信したので見てみると天野川さんからだったのだが、内容を見て凍りついた。
『明里の誕生日明後日だけどちゃんとプレゼント用意した?』
「嘘だろ……? ちゃんと誕生日聞いておけば良かった……」
俺は少しパニックになりながら天野川さんに返信をした。
『星宮の誕生日知らなかったのでまだ買ってないです……』
『そんな気がしたよ、明日放課後暇? 暇だったら選ぶの手伝ってあげるよ』
『本当ですか!? 是非お願いします!』
『じゃあ明日学校終わったら駅前集合ね』
『わかりました!』
「はぁー、良かった……天野川さんがいなかったら大変なことになってたな……ってか明後日って七月七日じゃん、星宮七夕生まれだったのか」
頭の中で織姫様のイメージが星宮になった。
------------------------------------
「星宮、俺今日ちょっと寄りたいところあるから先帰っててもらってもいいか?」
「わかりました」
「おう、悪いな」
そういうと月嶹さんは教室を出て行った。
私も荷物をしまって帰ろうとすると、
「星宮さん、ちょっとプリントを職員室に運ぶの手伝ってくれる?☆」
と三角先生が言ってきた。断る理由もないので手伝ってから帰ることにした。
「星宮さんありがとね〜☆」
「いえいえ、さようなら」
「はーい、さようなら〜☆」
帰る途中愛用している多色ボールペンのインクが軒並み切れてしまったことを思い出し駅前のショッピングモールに買いに行くことにした。
「えっと、文房具屋さんは……えっ、あれって……」
文房具屋を探してると二人で歩いている月嶹さんと梢ちゃんを見つけた。
「どうして二人が一緒に買い物してるんだろ……? しかも月嶹さん凄い楽しそうに話してるし……」
心臓のあたりが物凄い不快感で覆われて嫌な想像ばかりが浮かんでくる。
その度に胸の奥が鈍器で殴られているような鈍い痛みに襲われた。
「私と帰るよりも梢ちゃんとの買い物を優先するってことはきっとそういうことだよね……」
私は一番認めたくない結論に至り文房具のことも忘れて家に帰った。
この日は月嶹さんを見たら泣いてしまう自信があったのでご飯を作って冷蔵庫に入れて『ごめんなさい、今日は一緒に食べれません。ご飯は冷蔵庫に入れてあります。』とメモを書いてすぐに寝た。
------------------------------------
「はぁぁぁぁぁぁ……」
「どうしたの太陽、ため息ばっかついてると幸せ逃げてっちゃうよ?」
「もう逃げてっちゃったかもしれん……」
「どうしたのさ?」
「昨日家に帰ったらメモが置いてあってさ、俺なんかしちゃったのかな……」
俺は灯火に昨日のメモのことを話した。
「それはなかなか重いね……」
「そうなんだよ……せっかく昨日プレゼント買ったのにこれじゃあ渡せない……」
「星宮さん今日誕生日なの?」
「うん」
「そっか、じゃあとりあえず話すだけ話してみたら? せっかくプレゼントも買ったんだし」
「そうだな、頑張ってみるよ」
「うん!」
灯火に言われた通り星宮と話そうと試みたのだがこちらが近づくとものすごい勢いで逃げて行くので話すらできなかった。
1回も話せないまま授業が終わってしまい、終礼が終わったら星宮に話しかけに行こうと思ったが終礼が終わると星宮はすぐ帰ってしまった。
俺は急いで荷物をまとめて星宮を追いかけてた。
「星宮!」
「月嶹……さん?」
「やっと話せた……俺星宮に何かしちゃったか? してたらごめん、全く自覚がないから教えて欲しい」
「い、いえ、月嶹さんは何もしてないです、私が避けてただけです」
「そうなのか……? なんで避けるんだ?」
「だって……私がいたら月嶹さんと梢ちゃんの邪魔かなって思って……」
「えっと、なんでそうなるんだ……?」
「私昨日見ちゃったんです、駅前のショッピングモールで月嶹さんと梢ちゃんが二人で買い物してるところを」
それを聞いた瞬間全身の力が抜けた。
「なんだ、そういうことかー……良かったぁ」
「な、何が良かったんですか?」
「別に俺と天野川さんは星宮の思ってるような関係じゃないよ。今日星宮誕生日だろ? だから昨日天野川さんにプレゼント選ぶの手伝ってもらってたんだ」
「私の誕生日知ってたんですか!? で、でも月嶹さん凄く楽しそうだったじゃないですか」
「それは多分星宮のことを話してたからだと思う。自分じゃ自覚ないんだけど俺星宮の話をするときだけ凄く笑ってるらしい」
「そ、そうなんですか、なんか嬉しいです」
そう言うと星宮は嬉しそうにふにゃっと笑った。
「ごめんなさい、心配させちゃって」
「ううん大丈夫、俺も前似たようなことしちゃったし」
「ありがとうございます。今回は私が早とちりしちゃいましたね」
そういうと星宮はバツが悪そうに笑った。
「そうだな、これでおあいこだな」
「そうですね。昨日ボールペンのインク買いそびれちゃったので文房具屋さん寄ってもいいですか?」
「ああ、もちろん。あ、その前に忘れないうちに渡しとくよ。誕生日おめでとう」
俺はカバンの中から昨日買った星宮への誕生日プレゼントを取り出して渡した。
中身は薄い水色をした肌触りのいいハンカチと犬のキーホルダーだ。
このふたつが唯一天野川さんの許可が出たやつで他に選んだやつは全て論外だと一蹴された。
「ありがとうございますっ! 開けてもいいですか?」
「ああ、 気に入らなかったらごめんな」
「月嶹さんからもらって嬉しくないものなんてありませんよ!」
そう言うと星宮は丁寧な手つきでプレゼントの包みを開けた。
「どうだ……?」
「すっっごく嬉しいですっ!! 一生このハンカチとキーホルダー大切にしますねっ」
「一生は大袈裟な気もするけど喜んでもらえて良かったよ」
「大袈裟じゃないです! 一生大事にします!」
そう言うと星宮はハンカチとキーホルダーを大事そうに抱きしめた。
その様子が可愛すぎてショッピングモールに行く道中ずっと心の中で悶え続けた。
ショッピングモールに着くと一階の中央にとても大きな笹の葉があり色とりどりの色紙が吊るされていた。
「そういえば今日七夕だったな」
「大きな笹ですね、せっかくですから書いていきましょっ!」
そう言うと星宮は俺の手を握って笹の方へ引っ張っていった。
初めて握った星宮の手はとても柔らかくて小さくて暖かくて愛おしかった。
「これでよし! 星宮書けたか?」
「はい! バッチリです!」
「なんて書いたんだ?」
「秘密ですっ」
そう言うと星宮は自分の書いた短冊を裏にして胸の前で抱いた。
その様子は何かとても大事な思いを短冊に込めたように見えてこれ以上追求する気にはなれなかった。
「月嶹さんはなんて書いたんですか?」
「内緒だ」
「むぅー、月嶹さんのケチ」
「星宮だって教えてくれなかっただろ……」
「私は今日誕生日だからいいんです」
「なんだそのルール……」
俺らはこんな他愛ない話をしながら短冊をお互いの反対側に吊るした。
「願い事叶うといいな」
「そうですね」
俺は胸の中でもう一度願い事を唱えた。
『星宮とずっと一緒にいられますように。』と。
私は胸の中でもう一度願い事を唱えた。
『これからもずっと月嶹さんの隣にいられますように。』と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます