第23話 すれ違い
「あ、太陽おはよー」
「おお、灯火、おはよう……」
「朝っぱらからそんなげっそりしてどうしたのさ?」
「いや、最近学校行くのが憂鬱で……」
「あーー、もう三日連続だもんね」
「ああ、本当にどうしたらやめてくれるんだ……」
俺は体育祭を終えてからある悩みを抱えていた。
それは……
「おい! 来たぞ!」
「今日こそ本当のこと吐かせてやるからな!」
星宮の親衛隊員が授業の時間以外入れ代わり立ち代わりで星宮との関係に着いて質問してくることだ。
「じゃ、太陽頑張ってね〜」
そう言うと灯火はそそくさと自分の席に行ってしまった。
「お、おい、1人にしないでくれよ」
と灯火に懇願するも灯火は行ってしまい、目線を灯火から自分の席に移すと既に二、三人ほど席の周りに立っていた。
自分の席なので行かないわけには行かず、重い足を無理やり引きずりながら席に着くとすぐさま質問が飛んできた。
その質問を皮切りに俺の席の周りに星宮の親衛隊員たちが続々と集まってきて質問を投げかけてきた。
俺は静かに質問が終わるのを待とうと覚悟を決めたのだがすぐに質問が止んだので何事かと思い、周りを見渡すと自分を取り囲んでいる円に一箇所だけぽっかりと穴が空いておりその先には星宮が立っていた。
星宮は真顔のまま俺の元へ来ると俺の腕を掴んで
「月嶹さん、ちょっと来てください」
と言って俺を教室の外へ引っ張っていった。
幸い親衛隊たちは呆気にとられたのか付いては来なかった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、助かったよ……」
「なかなか収まりませんね……」
「そうだな……何かいい方法ないかな……」
「いっそ彼らが納得するような答えを言うというのはどうでしょう? 例えば全てではなくても同じマンションに住んでるとか限定的なことを言うとか」
「うーん、それだと星宮にも迷惑がかからないか?」
「私のことは気にしなくて大丈夫ですよ、牽制にもなりますし」
「牽制?」
「あっ、なんでもないです、こっちの話です。」
「そ、そうか。じゃあ観念した風に同じマンションに住んでるってことを言ってみるよ」
「了解です!」
二人で教室に戻るとまだ俺の机の周りには沢山の親衛隊員たちが残っていた。
席に戻ると当然質問の嵐が再び巻き起こった。
「わかりました、話します、実は俺と星宮さんは同じマンションに住んでいるんです。それを偶然知って話すようになって今に至ります」
と言った。
すると親衛隊員だけでなくこっそり耳を傾けていたクラスメイトたちも一緒に「ええええええええええ!」と叫び声をあげた。
そしてひと段落つくと親衛隊員たちは、
「一緒のマンションとか反則だろ……」「これは勝てねえわ……」など各々諦めの姿勢を見せ、俺の席から離れていった。
とりあえず危機が去り一安心していると今度は星宮の席の周りに人だかりができているようだった。
「明里ちゃん今の本当なの!?」
「はい、本当ですよ」
「じゃあ毎日一緒に帰ってるっていう噂は本当なの?」
「はい、家が一緒なので」
「どういう流れで同じマンションだってわかったの?」
「引っ越した日が一緒だったんでそこでわかりました」
「じゃ、じゃあ月嶹さんとはどう言う関係なの?」
「……友達です」
「じゃあ月嶹君とは付き合ってたりしないの?」
「……はい」
星宮は声色一つ変えずに淡々と質問に答えていった。
友達と言われた時は少し胸がズキッとしたが本当のことなので仕方ない。
このまま質問が終わるかと思ったが、最後の質問を聞いた時俺は凍りついた。
「じゃあ星宮さんは月嶹君に対して恋愛感情とかはないの?」
俺はこの質問の答えを聞きたくなかった。
聞いてしまったら星宮との関係が壊れてしまうような気がしたから。
しかし俺の席は窓際なため今から教室を出ようとしても間に合わない距離だった。
そして星宮が口を開いた。
「私は……」
「ストーーーップ!! そんなに明里を質問責めしちゃかわいそうだよ! それにそろそろチャイムなるし皆一回解散!」
急に星宮の声と別の声が聞こえたので振り返ると天野川さんが星宮の前に立って周りの人たちを追い払っていた。
「梢ちゃんありがとうございます、助かりました」
「いえいえ、それに今の質問は危なかったしね」
「そうですね……本当に助かりました」
何が危なかったのかわからないがとりあえず星宮の答えを聞かずに済んで安心した。
天野川さんのこの行動あってかこの後星宮に再び質問する人はいなかった。
「月嶹さん、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。今日はごめんな、俺のせいで星宮まで質問責めにあっちゃって」
「気にしなくて大丈夫ですよ、月嶹さんが困ってる方が嫌ですから」
「そうか、ありがとな。星宮もなんかあったら言ってな、俺にできることならなんでもするから」
「ありがとうございますっ」
その後しばらく無言で歩いていると星宮が、
「あ、あの月嶹さん、梢ちゃんが遮ってくれた質問の答え月嶹さんは聞きたかったですか?」
と聞いてきた。
それを聞いた瞬間心臓が肋骨を突き破りそうな勢いで跳ねた。
この場合どう答えるのが正解なのだろうか? こう聞いてくると言うことはやはり聞いて欲しいのか、それとも一つの話題として振ってきただけなのか、聞きたくないと答えたら、聞きたいと答えたら、どう思われるのだろうかなど頭の中で様々な葛藤が生まれた。
俺が答えに詰まっていると星宮は
「本心で答えて欲しいです」
と言ってきてその言葉に背中を押され俺は素直に答えることにした。
「俺は正直聞きたくなかったかな、聞いたらこの関係が壊れてしまうかもしれないと思ったから」
「そうですか、なら良かったです、私も正直まだ聞いて欲しくはなかったので」
「まだ?」
「はい、心の準備ができてないので……」
そう言うと星宮は肩が触れ合うくらいまで近くに寄ってきた。
そして
「私の心の準備ができたら聞いてもらってもいいですか?」
と上目遣いでこちらの表情を伺いながら言ってきた。
先程自分にできることならなんでもすると言ってしまったし、不安と期待の入り混じった星宮の表情を見て断るという選択肢は浮かばなかった。
「わかった。その時までに俺も心の準備をしておくよ。」
おそらくその時が人生で初の失恋になるだろうと思い、俺は早く心の準備をせねばと思った。
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