第20話 体育祭 前編

「はい、じゃあ皆席についてください☆」


三角先生がそう号令をすると皆は素直に自分の席に戻って行く。


「みんな座ったかなー? それじゃあ今から皆さんお待ちかねの体育祭の色決めをします☆」


先生がそう言うとクラスメイト達は、意気込み目を輝かせる者たちと意気消沈し目の光を失う者たちに二極化した。

もちろん俺は後者だし星宮も見た感じ後者のようだった。


「決め方はくじ引きで行います☆みんなが引き終わったら体育祭実行委員が集計しますので失くさないように持っててくださいね☆ じゃあ番号順に引きに来てください☆」


そう先生が言うと一番の女子からくじ引きが始まった。

色は赤、青、緑、黄色の四色だ。

星宮はくじを引きに行く際に俺の横を「同じ色引けるといいですね」と小声で言って通って行った。その言葉があまりにも嬉しかったので一人でにやけていると横から灯火の声が聞こえてきた。


「太陽ニヤニヤして気持ち悪いよ? なんかいいことでもあった?」

「うるせぇ、なんでもねぇよ」

「またまたぁー、さては星宮さんに『同じ組になれるといいですね』的なこと言われたんでしょ?」

「お前もしかしてエスパーか?」

「あ、ばれた?」


灯火とそんな他愛もない話をしていると後ろから星宮と天野川さんの会話が聞こえてきた。


「明里何色だった?」

「私は青色でした。梢ちゃんは何色でしたか?」

「私緑だった……明里と一緒じゃないなんて……私もう無理、死ぬ……」

「梢ちゃん!? そんなに落ち込まないでください、梢ちゃん!?」


「太陽今の聞こえた?」

「うん、天野川さん死ぬってな」

「いや、そっちじゃないでしょ、星宮さんの色だよ」

「冗談冗談、聞こえたよ、青だってな。青引けるかな」

「引けるかなじゃない、引くんだよ!」


急に灯火が松岡〇造みたいなことを言い出したので驚いたがその通りだと思った。


「そ、そうだな、頑張るよ。灯火は希望の色とかあるのか?」

「うーん、僕正直体育祭は雫の手作り弁当を食べる行事だと思ってるから特にないかな」

「お前は本当にブレないな……」


そして俺の番が回ってきた。

深呼吸をし箱の中に手を突っ込む。

中にはまだ沢山のくじが残っていてどれを引こうか迷ったが迷っても仕方がないので意を決して一枚選び引き抜いた。

おそるおそる手を開くと紙は青かったので心の中で思いっきりガッツポーズをしながら席に戻った。


「どうだった? 青引けた?」

「ああ、なんとか引けたよ」

「おおお!! さっすがー! これも愛の力だね」

「お前さらっと恥ずかしいこと言うな……他の人に聞こえたらどうするんだよ……」

「ごめんごめん、まあ皆くじに夢中だから大丈夫でしょ! あ、そろそろ僕の番っぽいから言ってくるね」

「おう、行ってこい」


くじ引きとクラスメイト全員の色の集計が終わった後は各色男女に分かれて種目決めを行った。

ちなみに灯火の色は緑で緑の女子は大喜びだった。


その日の帰り道……


「月嶹さんと同じ色になれて嬉しいですっ」

「俺も嬉しいぞ、あそこで青色引けて本当に良かった」

「えへへ、そう言ってもらえると余計に嬉しいです! そういえば月嶹さん種目は何にしたんですか?」

「玉入れと二人三脚リレーと学年競技の騎馬戦かな」

「玉入れは月嶹さんっぽいんですけど二人三脚リレーは意外です」

「月嶹さんっぽいって所にはあえてつっこまないでおくよ……二人三脚リレーは最後の一人がなかなか決まらなくてじゃんけんしたんだよ、それで負けた……」

「なるほど、それは災難ですね……」

「多分くじで運を使い果たしたんだと思う……星宮は競技何に出るんだ?」

「私は月嶹さんと同じ玉入れと綱引きと学年競技のダンスですね」

「ははっ、星宮も星宮で星宮っぽい競技だな」


星宮の断固として走らないという意志を感じる種目の選択につい笑ってしまった。

星宮は俺の様子を見てご飯を頬に溜め込んでいるリスのように頬をプクーっと膨らませてこちらを見てきた。


「笑わないでくださいよー! 私なりに考え抜いた結果なんですから」

「ごめんごめん、許してって」

「許しません!」


そういうと星宮はプイッとそっぽを向いてしまった。

本当に怒ってはいないと思うが少し星宮へのアプローチも込めて


「さっきのほっぺを膨らませた顔可愛かったぞ」


と言うと星宮はピクッと体を震わせて可愛い顔を赤くしてこちらを向いて


「か、可愛いなんて言われたらなにも怒れないじゃないですか……」


と言った。

その顔はいつもの照れた時に見せる顔よりも多く喜びを含んでおり、笑いながら照れている顔の新鮮さと星宮の可愛さが相まって攻めたこっちがやられそうになった。


(ほんとうまくいかないなぁ……)


「つ、月嶹さん可愛いっていえばなんでも許されると思ってません?」

「いやいや、それは全くないぞ、ただ単純に思った事を言ってるだけだ」

「そ、そうですか、ならいいんですけど本当に思った時だけにしてくださいね? 私の心臓がもたないので……」

「わかったよ、ちなみに今も可愛いぞ」

「もーーー! 人の話聞いてましたか!?」

「うん、思った時に言えっていうから言っただけだぞ?」


星宮のことは常時可愛いと思っているので言われた通りのことをしているだけで俺は全く悪くない。ただ少し、ほんの少しだけ星宮の反応が楽しみなところはある。


「そっ、それはそうですけどなんか月嶹さん楽しんでませんか!?」

「ま、まあ星宮の反応がからつい見たくなっちゃうってのはあるな」

「はうぅぅー……今日の月嶹さんなんだか意地悪です……」

「ごめんごめん、もうやめるよ。本当に心から思った時だけにする」

「本当ですか……?」

「ああ、約束する」

「ならいいです」


これ以上やり続けると共倒れしそうなのでやめておいた。

しかし星宮の反応にはどうやら中毒性があるらしく夕飯の時に一度可愛いと言ったら三分間ほどずっと二の腕をぽかぽか殴られ続けたのでどうにかして禁欲しようと思った。

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