第17話 早とちり

「おおお〜、太陽やるじゃん!」

「思ったより順位高かったな」


俺らは廊下に張り出されている中間テストの順位表を見ていた。

俺らの学年は約200人おり順位表には上位75人までが貼り出されていて俺は32位、灯火は53位だった。ちなみに星宮は1位である。


「太陽今回どうやって勉強したの?」

「ああ、今回実は星宮に勉強教えてもらったんだ」

「なるほどねぇ、二重の意味で幸せな時間だったでしょ?」


と言いながら灯火はニヤニヤしながらこちらを見てきた。無性にその顔がイラッと来たので軽く灯火の尻を蹴りながら


「うるせぇ、悪いかよ」


とだけ言っといた。

そこで廊下の窓から人の声が聞こえたので灯火と窓に行って下を覗いてみると爽やか君が星宮に告白しているところだった。


「やべ、これ見たらダメなやつじゃん、灯火戻るぞ」


俺はこう言うと灯火を無理やり引っ張って教室に戻った。


「良かったの? 星宮さんの返事を聞かなくて」

「そりゃ聞きたかったけどああいうのは聞いちゃだめだろ」

「太陽ってそういうちょっとした所ちゃんとしてるよね」

「昔叔母さんに嫌ってほど教育されたからな。それに爽やか君なら星宮ともお似合いだと思うし星宮も十中八九OKすると思うし」

「僕はそんなことないと思うけどね、太陽はそれでいいの?」

「星宮が幸せなら俺はそれでいいかな」

「その割に太陽今凄い悲しそうな顔してるよ?」

「え、まじ?」

「うん、星宮さんも星宮さんだけど太陽も太陽でほんとすぐ顔にでるよね」

「こればっかりは治しようがないな……でもさっきのは本心だ」

「そっか。ならいいんだけどね」


灯火にはこう言ったが本当は気が気でなくこの後の授業はずっと上の空だった。

そしてその日の帰り道……


「月嶹さん、お疲れ様です」

「お、おう、お疲れ様」

「この後今日の夕飯の材料が少し足りないのでスーパーに寄ってもいいですか?」

「あ、ああ、いいよ」


いつもならもっと普通に会話できるのだがどうしても今日の告白が気になってぎこちなくなってしまった。


「月嶹さん大丈夫ですか? 疲れてます?」

「い、いやそんなことないぞ」

「そうですか、なら良かったです!」


なんとか空元気で誤魔化すことはできたが自分から会話を振る気力はなかった。

暫く無言のまま歩いていたため無意識に頭が回転していた。そしてやはり星宮は爽やか君と付き合っているという結論に至り毎日夕飯を作ってもらったりするのは浮気になるのではと思いせめてそこだけは断っておこうと思った。


「星宮」

「どうしました?」

「これからは毎日無理して夕飯作らなくていいからな」

「え……」


そう言うと星宮はいまにも泣き出しそうな顔をして歩くのを止めた。

俺はてっきり星宮が安堵した表情を見せると思っていたので動揺した。


「ほ、星宮? どうした?」

「な、なんで急にそんなこと言うんですか……? 私は無理して月嶹さんにご飯を作ってなんかいません、寧ろ喜んで作ってます、なのになんで……」


そこまで言って星宮は俯いてしまった。

地面には2、3個水滴の跡が付いていた。


「星宮、ごめん、泣かせるつもりはなかったんだ。実は今日星宮が爽やか君に告白されてるのを見ちゃって俺に夕飯作るのって浮気じゃないかなって思ったんだ」

「……月嶹さん最後まで見てないんですか?」


そういうと星宮は少し目を赤くして顔を上げた。


「うん、ああいうのって偶然でも覗いちゃいけないって早苗さんに教育されてきたからさ」

「そういうことですか……今回は早苗さんの素晴らしい教育が裏目に出たってことですね。私あの告白断りましたよ」

「……え? 本当に?」

「はい」

「じゃあ完全に俺の早とちりってこと?」

「そうですね、私は月嶹さんの早とちりに泣かされました」

「ほんっとうにすみません! 許してください!」


俺はそう言ってその場で土下座をした。


「じゃあ今日いっぱい私のこと撫でてください。そうしたら許してあげます」


星宮はそう言うとまだ少し赤みの引かない目尻をめいっぱい下げて笑った。

目の赤みと星宮の可愛さに断るという選択肢は微塵も浮かばなかった。


「それで許して貰えるのならいくらでも撫でる!」

「よろしくお願いしますね。それにですね、月嶹さん」

「な、なんだ?」

「私は……が…なんですよ」

「え、今なんて言ったんだ? 小さすぎて聞こえなかった」

「ふふっ、一回しか言いませんよーだっ」


そう言って笑った星宮の顔は悪戯に成功した子供のように無邪気で、夜の一番星よりも美しかった。

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