第15話 これからの関係
「二人とも本当にありがとね〜!」
「ありがとうございましたです」
「おう、また明後日な。雫さんはまた今度遊ぼうな」
「はーい」
「もちろんです」
灯火達は翌日の夕方に帰って行った。
昨日雫さんに星宮のことが好きと気付かされてからどうしても星宮に対する接し方が
ぎこちないものになってしまっている気がして今二人きりになるのは少しまずかった。
「ふ、二人帰ったな」
「そ、そうですね」
「……星宮この後時間あるか?」
「え、この後ですか? 平気ですけど……」
「じゃあ家来るか?」
「えっ、家って月嶹さん家ってことですか……?」
「そうだけど……」
「そ、それってどういう意味でですか……?」
「どういう意味って昨日トラウマ治療できなかったから時間があるならやろうかなって思ってさ」
「ああ、そうですよね! 治療ですよね、もちろんお邪魔させていただきます! (びしっ)」
星宮は途中から顔を赤くして緊張したり恥ずかしがった時にたまに見せる敬礼をした。
「そしたらちょっともみじがいきなり暴れないようにだけ準備してくるな」
「わかりました」
ガチャン
「はぁー、わたし何想像してるんだろう……普通に考えてトラウマ治療なはずなのに、月嶹さんがわたしに気があるんじゃないかなんて考えちゃって……」
ガチャ
「おまたせ、入って大丈夫だぞ」
「は、はい。 お邪魔します」
「奥にもみじがいるけど最初は警戒して近づいてこないと思うから最初は見るところから始めようか」
「わかりました」
リビングへの扉を開けると動かないと思っていたもみじが全速力でこちらに走ってきた。
「ひっ、月嶹さんっ!」
星宮はそのもみじの様子に驚き俺の後ろに回ってぴったり体をくっつけて肩から顔を出しながらもみじの様子を伺っていた。
咄嗟の反応なので他意はないと思うがこんだけ密着されると物凄く心臓に悪い。
「ほ、星宮ちょっともみじを抱っこするから離れてもらって良いか?」
「あ、す、すみませんっ、私びっくりして……」
そういうと星宮はパッと一歩下がり顔を赤くして俯いた。
「まさかもみじが走ってくるとは思わなかったな、昨日灯火と雫さんが来た時はしばらく警戒して近づいてこなかったのに」
「そうなんですね、なんでなんでしょうか?」
「んー、もしかしたら俺についてる星宮の匂いで星宮のことを知ってたのかもしれないけどそうだとしてもあんなに嬉しそうに走ってこないと思うしな……」
「なるほど……」
「まあ最初から懐いてるならすんなり治療に入れそうだからよかったっちゃ良かったかな」
「最初はどうするんですか?」
「見た感じ抱っこしてれば星宮大丈夫そうだからこの状態で撫でるところから始めようと思うんだけど大丈夫そうか?」
「はい、大丈夫です!」
「そうしたらいきなり頭から撫でるんじゃなくて肩くらいから毛並みに沿ってゆっくり頭に向かって撫でてみてくれ」
そういうと星宮は緊張した表情で言われた通りに撫で始めた。
三回目くらいから段々慣れてきたのか徐々に星宮の口角が上がっていった。
俺はその様子がとても愛おしく星宮から目が離せなかった。
「凄くフワフワしてて気持ちいいです」
「そうか、良かった。もみじも嫉妬するくらい気持ちよさそうだし」
「嫉妬、ですか……?」
「ああ羨ましいなって」
そういうと星宮は徐に俺の頭に手を伸ばし俺の頭を撫でてきた。
あまりにも急なことなのでどう反応していいかわからなかった。
「ほ、星宮?」
「ど、どうですか?」
「ど、どうって気持ちいいけど急にどうしたんだ……?」
「え、だって月嶹さんが羨ましいっていったので……」
「あ、あれはもみじが俺が撫でる時より気持ちよさそうにしてるから羨ましいなって思ったって事だったんだ……」
「え、あっ、えっ、そういうことだったんですか……私凄く恥ずかしい解釈を……」
「いや俺の言い方も誤解を招くような言い方だったし、撫でられて悪い気分じゃ無かったから気にしなくて平気だからな?」
「は、はい……」
星宮は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
なんと声をかけて良いか分からずそのままの状態が数十秒続き、これ以上続くと何も
話せなくなると思ったので少し早いがある提案をした。
「ほ、星宮無理はしなくて良いからもみじとおもちゃで遊んでみるか?」
そういうと星宮はゆっくり顔を上げてまだ少し潤んでいる瑠璃色の目で上目遣いをしながらこちらを見あげてきた。
「おもちゃ、ですか?」
「うん、犬用のボールとかだったら部屋の中で投げても十分遊べるからさ」
「やってみます!」
「わかった、じゃあこれを投げてみて」
星宮はボールを受け取るとドアの方に向かって投げた。
もみじはボールが投げられると同時にボールの方に走っていった。
その様子を見た星宮は、
「ふふっ、可愛いですね」
と言ってこちらを見てきた。
その顔からは先程の羞恥心などは一切感じられず、心からもみじを可愛いと思っているのが感じられた。
「星宮、もうトラウマは克服できたっぽいな」
「はい、月嶹さんのおかげで」
そう言いながら星宮はもみじが咥えてきたボールを投げた。
「最初はどうなるかと思ったけど役に立てたのなら良かったよ」
「本当にありがとうございます。月嶹さんと知り合えなかったらおそらくずっと犬へのトラウマを抱えたままだったと思います」
「そういう点ではもみじが引越しの時トラックに乗り込んでくれて良かったのかもな」
「そうですね、もみじちゃんにも感謝しなきゃですね」
「そうだな」
星宮がトラウマを克服できたのはとても喜ばしいことだがトラウマ治療を終えてしまうと星宮と毎日会うことができなくなってしまうのでどうにか少しでも会える口実がないかと模索していると星宮がある提案をしてきた。
「あ、あの月嶹さん、もし月嶹さんが良ければトラウマ治療のお礼も兼ねてこれから毎日夕飯を作らせてもらえないでしょうか?」
最高の提案だった。正直1人暮らしを始めてから自炊をするように心がけていたとはいえコンビニに頼る日もあり栄養バランスが偏っていたし、何よりこれでこれからも星宮と毎日会う事ができる。
「いいのか!? 凄くありがたいし嬉しい。ただ負担じゃないか?」
「もちろんです! 私がやりたくてやるので気にしないで大丈夫です、そのかわり今後もこうやってもみじちゃんと遊ばせてください」
「もちろん、だけどそれだけじゃ悪いからなにか一つお願い聞くよ」
「本当ですか!?」
「うん、まあ俺ができる範囲でだけどな」
「少し考えさせてください」
そういうと星宮は器用にボールを投げながら考え始めた。
星宮はお願いが一つ思いつくたびに様々な感情の表情をしており見ていてとても楽しかった。
「決まりました」
「お、なんだ?」
「わ、私の頭も撫でてください!」
「え、そんな事で良いのか? 」
「そんな事がいいんです! それに月嶹さんだけ撫でられて私は撫でられないのは不公平ですから!」
「そういう問題なのか……?」
「そういう問題です、さあ!」
そういうと星宮は膝がくっつくくらいの距離で俺の前に正座をして頭をこちらに差し出してきた。
「じゃ、じゃあ失礼して」
星宮の頭をもみじを撫でる時と同じくらい優しく撫でると星宮の髪質の良さに驚いた。
星宮の髪の毛は上質な絹のように艶やかで触り心地も良く触っているこっちがご褒美を
もらっているような感覚になった。
「ど、どうだ?」
「月嶹さんの手は大きくて頼もしいのにとても優しくて、なんだかお父さんみたいです。
私誰かに頭を撫でられるのすっごく久しぶりなので今とても幸せです」
「それなら良かったよ。これくらいならお願いじゃなくてもいつでもしてやるから遠慮なく言ってな」
「はいっ! じゃあお言葉に甘えて明日から毎日お願いしますねっ」
そう言って星宮はたまに見せる可愛らしい子悪魔のような顔で悪戯っぽく笑った。
その顔はいつもの笑顔とはまた別の魅力を含んでいてより一層星宮のことが好きになった。
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