恋の天使は愛犬でした

第14話 両片思い

「おーい、太陽〜」

駅に行くと既に灯火と灯火の妹さんらしき人が改札の前で待っていた。

「悪い、待ったか？」

「いや、今来たところだよ」

「それなら良かった。この子が灯火の妹さん？」

「うん！」

「はじめまして、水生雫（みぶしずく）と申しますです！　今日はお世話になりますです！」

そう言うと雫さんはお辞儀をした。少し話し方に驚いたがすぐに慣れそうだったので

気にしないことにした。

雫さんは灯火の妹なだけあって人形のように整った顔立ちをしており道行く人々がみんな一度は雫さんを見ていた。

「こちらこそよろしく、 えーと灯火たち必要なものは持ってきたか？」

「うん、持ってきたよ！」

「じゃあ足りないものはなさそうだな、じゃ行きますか」

「おーー！」

「あ、そういえば今日の夕飯星宮が作ってくれるって」

「え！　本当に！？　楽しみだなぁ」

「味は俺が保証するよ」

「星宮って誰なのです？」

「星宮さんはね太陽の隣に住んでる女の子で毎日二人でいろんなことしてるんだよ！」

「いろんなことってなんです？」

「二人でぬいぐるみで遊んだり、ワンちゃんの写真とか動画を見たり、後はハグとかしたりだよ〜」

「おい、灯火？ なんか言い方に悪意ないか？」

「そんなことないと思うけどなぁ？　それに全部事実でしょ？」

「ま、まぁそうだけど……」

灯火の言っていることは全て真実なので何も言い返せず口ごもっていると雫さんが首を傾げながらこう聞いてきた。

「それじゃあ太陽兄ちゃんと星宮って人は付き合ってるんです？」

「……んーとなんでそうなるのかな？」

「だって前灯火が言ってたです、ハグとかキスは好きな相手か付き合ってる人としかしないって」

「まあ、確かに……」

今度は雫さんに何も言い返せないことを言われ口ごもると雫さんはポンと手を叩いて

「わかったです、太陽兄ちゃんは星宮って人のことが好きなんですね！」

「ええええ、なんでそうなるのかな？」

「だってハグするのは付き合ってる人か好きな人です、それで付き合ってないなら好きな人以外あり得ないです。」

そういうと雫さんは推理を終えた探偵のような表情でこちらを見上げてきた。

「おい灯火、何雫さんに変なこと教えてん……」

誤解されるタネを生んだ灯火に文句を言おうと灯火の方を向くと、灯火は今まで一度も見せたことのない『嫉妬』という負の感情を含んだ視線を俺に送ってきていた。

「と、灯火……？　どうしたんだ？」

「なんで……なんで僕は呼び捨てで太陽は『兄ちゃん』って付けてもらってんだよーー！」

「そ、そんなことか……すごい顔してたからびっくりしたぞ」

「そんなことだって！？　僕はもう何年もお兄ちゃんって呼ばれ……ごふっ」

急に灯火が話すのをやめたので何が起きたのかと思い下を見ると灯火の腹に肘鉄をきめている雫さんの姿があった。

「灯火、私が太陽兄ちゃんと話してるんです、割り込まないで欲しいです」

「で、でも……」

「今度兄ちゃん付けて呼んであげますです」

「あい、灯火黙りまーす！」

（灯火ってこんなキャラだっけか……？　妹の前だとキャラ崩壊すごいな……）

「それで太陽兄ちゃんは星宮って人のこと好きなのです？」

「あ、あれまだその話続いてたの……？」

「もちろんです」

「んー、俺今まで人を好きになった事が無いから人を好きになるっていうのがわからないんだよね」

「出たです、典型的な主人公やヒロインにありがちな誰かを好きになったことがない設定」

「し、雫さん？」

「じゃあ質問を変えるです。 星宮って人が他の男の人と太陽さんがしているようなことをしてたらどう思うです？」

「それはちょっと嫌かな……」

「なんでです？」

「うーん、多分自分にしか見せてくれないような表情を他の人に見られたくないとかかな、ってなんか俺キモいな……」

「キモくないです、その気持ち相手の事が好きなら当たり前のものです、よって太陽兄ちゃんは星宮って人の事が好きなのです」

そういうと雫さんは再び事件を解決した後の探偵のような顔とポーズをとった。

「お、俺星宮のこと好きだったのか……」

そう思うと急に星宮に会うのが恥ずかしくなってきた。

今まで通り接することができるかもわからない。

「僕は結構前からわかってたけどね」

「まじで？」

「うん、だって太陽星宮さんの話をするときだけ笑って話すからね」

「俺そんなにわかりやすい人間だったのか……」

この後一旦俺の部屋に二人を招き、星宮が呼びにくるのを待った。

もみじは知らない人が二人も現れたので最初は警戒していたが俺と二人が仲良くしているのを見てすぐに二人への警戒を解いた様子だった。

この日の夕飯の献立は麻婆豆腐と油淋鶏と春雨とキュウリの和え物で、灯火と雫さんは中華料理が大好物らしく大絶賛だった。

「「「「ご馳走様でした」」」」

「星宮さん凄く美味しかった！　本当にありがとう！」

「凄く美味しかったです、明里姉ちゃん最高です」

「いえいえ。お口に合ったのなら良かったです」

「この後なんだが星宮の家で雫さん、俺の家で灯火が寝るっていう話になってるんだけど二人とも大丈夫か？」

「大丈夫です」

「えーー！ やだ、僕も星宮さんの家で寝るーー」

「あ、あのな灯火、普通に考えてそれが一番ありえないぞ……？」

「それはわかってるけど…… ちぇー、久し振りに雫と一緒に寝れると思ったのにー」

「悪いな、星宮が女の子を初対面の男の人の家に寝かせるのは可哀想だって気遣って

くれたんだ。」

「そっか！　ならしょうがないね」

もう少し灯火が駄々をこねるかと思ったが意外にもすんなり納得してくれたので

安心した。

この後みんなでトランプやらウノなどのゲームで遊んで解散になった。

「また明日ねー」

「また明日な」

「はい、また明日」

「太陽兄ちゃん灯火をよろしくです」

「了解だ」

ガチャン

「はぁー、楽しかったなぁ」

「雫も楽しかったです」

「なら良かった、私洗い物だけ済ませちゃうから寝れる準備だけしておいてもらってもいいかな？」

「はいです」

「おまたせ、じゃあ寝よっか」

「はいなのです、でも寝る前に一つだけ質問しても良いです？」

「うん、良いよ」

「明里姉ちゃんは太陽兄ちゃんのこと好きなのです？」

「……えっ、えっどうしたの急に！？」

「明里姉ちゃん今日のご飯の時も遊んでる時もずっと太陽兄ちゃんのこと見てたです、それに太陽兄ちゃんと話している時が一番笑ってたです、それで好きなのかなって思ったです」

「え、本当に……？　でもそれは多分月嶹さんが初めてできた友達だからだと思うよ？」

「本当です？ じゃあ太陽兄ちゃんが他の女の人と付き合ってたらどう思うです？」

「そ、それはなんか嫌な感じがする……」

「じゃあ太陽兄ちゃんに褒められたり可愛いって言われたりしたらどう思うです？」

「凄く嬉しくてドキドキして胸の奥がキュッてなるかな」

「それを恋っていうんです」

「わ、私月嶹さんのこと好きだったの……？　今まで人を好きになったことがなかったから全然実感わかない……」

「明里姉ちゃんも典型的なタイプですか」

「典型的なタイプ？」

「なんでもないです、太陽兄ちゃんと付き合えるように頑張ってです」

「つ、付き合うなんて無理だよ……月嶹さん恋愛とか興味なさそうだし……」

「明里姉ちゃんはもっと自分に自信を持って良いと思うです、明里姉ちゃんが

アプローチすれば太陽兄ちゃんなんてイチコロです」

「そう、かな……？　私頑張ってみるね。」

「はいです」

「じゃあおやすみなさい」

「おやすみなさいです」