第13話 二人での買い物

家に帰ると四時を過ぎたあたりだったので各自着替えをした後一緒にスーパーへ向かった。


「こうやって友達と出かけるの初めてなのでワクワクします!」

「そうか? ただスーパーに買い物に行くだけだぞ?」

「それだけでもいいんです。こういうの凄く憧れだったんです!」


そういうと星宮は目をキラキラと輝かせながらスキップをし始めた。

本当に心から楽しんでいるのだろう。いつになく星宮のテンションが高い。


「星宮、一緒にいるこっちが恥ずかしくなるんだが......」

「え、そうですか? 私は恥ずかしく無いですよ? さ、早く行きましょ!」


と言うと星宮はスピードを上げた。


「おいおい、あんまり急ぐと転ぶぞ」

「大丈夫ですって、きゃっ!?」


案の定、星宮が転びそうになったので腕を掴んで星宮の体勢を立て直す。

よく、かもしれない運転という言葉を聞くが、確かに『かもしれない』と思っておくのは

大切だった。そのおかげで星宮が転ばなくて済んだのだから。


「大丈夫か?」

「は、はい、ありがとうございます。少しはしゃぎ過ぎてしまいました……」


星宮はそう言うと表情を反省する時にするような口を真横にキッと結んだものに変え、目を伏せた。

俺はあまり星宮に悲しい顔や落ち込んだ顔をして欲しくなかった。


「大丈夫なら良かった。そのなんだ、全然楽しんでくれて良いからな。俺も星宮と出かけるのなんやかんやで楽しいし」

「ほ、本当ですか……?」

「本当だよ、ここで嘘ついてもしょうがないだろ?」

「確かにそうですけど月嶹さん優しいからもしかしたら私を元気づけるために言ってるんじゃないかと思って」

「いやいや、買い被りすぎ、本心だ」

「じゃあ一つで良いので楽しい要素をあげてください!」


そう言うと星宮はこちらの答えを心待ちにしているような期待に満ちた表情でこちらを見てきた。

答えはすぐに浮かんだのだが改めて言うと少し恥ずかしいものだったので躊躇した。


「え、えーとそのだな……」

「やっぱり気遣ってくれているだけなんですか……?」

「いや、答えはあるにはあるんだがいざ言うとなると少し恥ずかしいなって。」

「大丈夫です、月嶹さんならできます!」

「じゃ、じゃあ言うぞ?」

「はい!」

「そ、その、星宮は普段あんまり感情を表に出さないから、星宮の楽しそうな表情とか見れるのが凄い嬉しいし特別な感じがするんだよな」


言い終わると急に恥ずかしさがこみ上げてきて顔から火が出そうだった。

星宮を見ると星宮は星宮で顔を真っ赤にして俯いていた。


「なんか悪い、変な空気になっちゃったな」

「いえ、聞いたの私ですし嬉しかったので平気です……」

「そ、そうか、なら良かった」


恥ずかしさとぎこちなさが最大に達したところでスーパーに着いたので話題を夕飯のことに切り替えることができ、安心した。

この後30分ほど二人で食材を探しレジに並んだのだが食材を探しているときにニヤニヤしながらこちらを見ているおばさま方の視線をかなり感じた。


「会計は俺が出すよ」

「いやいや悪いですよ、私が払います」

「いやいや、星宮はこの後料理するんだから払う必要全くないだろ。それに男として

女性に払わせるのは非常識だし」

「で、でも……」


星宮がなかなか引かないのでなるべく言いたくはなかった事を言うことにした。


「それに俺ら周りからはただの友達には見えてないんだ、だからここは俺のためだと思って払わせてくれ」

「それってどういう……」


星宮は言葉の途中で意味に気がついたのか黙って下を向き俺の服の裾を軽く引っ張って

小さい声で


「よろしくお願いします……」


と呟いた。

顔は見えなかったが耳の赤さと声の小ささで照れていることがわかり、脳内にトラウマ治療初日の終わり際に見せたあの笑顔が浮かんできて一人で悶えそうになった。

その後会計を済ませレジを抜けたが星宮がついてきていない事に気付き後ろを見ると

レジのおばさんに何かを言われていた。


「すいません、お待たせしました」

「いや、全然大丈夫だけど何て言われてたんだ?」


そう聞くと星宮は治まりかけていた顔の紅潮を再び取り戻し、恥ずかしそうに


「……彼氏大事にするんだよって言われました、月嶹さんは正しかったです……」

「そ、そうか。なんかごめんな、俺とそんな勘違いされさせちゃって。」


俺はそう言うと星宮の返事を聞かずに黙々と荷物を詰め始めた。

星宮の返事次第で何か気づいてはいけないことに気づいてしまう気がしたからだ。


「……私は凄く嬉しかったですよ」


後ろで星宮が何か言ったのが聞こえたがビニール袋の擦れる音で掻き消された。

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