幕間 少年と少女


「うわー! ワンちゃんいっぱいいるねー」

「そうだな、パパとママは店員さんからワンちゃんの飼い方についてのお話を聞いてくるから好きな子選んでおいてな」

「はーい! どの子にしようかなー…… あ! この子かわいい! でもあっちの子も可愛いなぁ」


1人の少年が家族でペットショップに犬を飼いに来ていた。

少年は昔から犬を飼うことが夢だったので夢中で犬達を見て回っていた。

すると少年は他のケージと比べて大きさが一回り大きめのケージを見つけて、見に行くとそのケージには双子の犬がとても仲良さそうに寝ていた。


「「可愛いなぁ」」


少年がそう感想を漏らすと自分の声が二重になったように聞こえたので驚いて周りを見渡すと自分のすぐ横に自分と同い年くらいの少女がいるのに気がついた。

お互い犬に夢中で気づかなかったのだろう。その少女も驚いた顔で少年の方を見ていた。


「君もワンちゃん飼いに来たの?」

「は、はい」

「そうなんだね! じゃあせっかくだから一緒に見て回ろうよ」


少女は少年の申し出に恥ずかしそうにコクっと首を小さく縦に振った。


「名前なんていうのー?」

「〇〇〇〇です」

「そっかー、〇〇って言うんだ!俺は△△△△って言うんだー! じゃあさ〇〇俺と友達になろうよ!」

「友達……! はい、よろしくお願いします!」


少年が『友達になろう』と言うと少女の表情が無機質で無色なものから美しく色鮮やかなものへと瞬く間に変化した。

その表情を見た少年は一瞬でその少女の虜になった。

いわゆる一目惚れというものをしてしまったらしい。


「ねえ、〇〇、欲しいワンちゃん決まった?」

「い、いや、まだです」

「そっかー、俺さっきの双子のワンちゃんの男の子の方にしようと思うんだけど

〇〇、良かったら女の子の方にしない?」

「いいかもしれないです」

「本当に!? やった!」

「で、でもどうして私を誘うんですか……?」

「だって、双子のワンちゃんを離れ離れにしちゃ可哀想でしょ? だから友達の家にいればたまにでも会わせてあげられるし……」

「あげられるし?」

「お、俺らも会えるから良いかなって……」


そう言うと少年は恥ずかしそうに頬を掻いた。

今度は少女の方がその様子に惹かれた。

その後、二人は休みの日ごとに愛犬を連れてあるときは公園、あるときはドッグランなど様々な場所遊んだ。

そして二人は次会う日程と場所を決めていた。


「次いつ会えるかな?」

「今週の土曜日、私のお父さんとお母さんが両方帰ってこれるんです! だから私の家族と羊子ようこさんと△△さんの家族でドッグカフェに行きませんか?」

「いいかも! 〇〇のパパとママと初めて会うから楽しみ! そしたら来週の日曜日に行っていいか聞いてくる!」

「え、いつも通り土曜日じゃないんですか?」

「折角〇〇が久しぶりにパパとママに会えるんだから土曜日は一日中家族でいた方が

良いかなって思って」

「ありがとうございます……!」

「うん! じゃあ聞いてくるね」


そういうと少年は遠くで少女のお手伝いさんと談笑している両親のところへ向かった。

その様子を少女は熱のこもった目で見ていた。


「来週、△△さんに想いを伝えよう」


少女は小さい胸に小さな手を当ててこう決心した。


「ねえ、パパ、来週〇〇のパパとママ両方帰ってくるんだって! それで〇〇が

ドッグカフェに行こうって言うんだけど行ってもいい?」

「ああ、もちろんいいぞ」

「やった! それでね僕来週〇〇に好きって言おうと思うんだ」


少年は恥ずかしそうにしかし覚悟を決めた顔をしてこう言った。


「おお! △△も男になったなぁ」

「えへへ。帰ったらアドバイス頂戴ね」

「おう!  任せとけ!」

「△△、パパのアドバイスは参考程度に聞いておくのよ?」

「ママ、酷く無いか……?」

「はーい!」

「△△まで……」


その後少年は少女の元に戻り日が暮れるまで遊んだ。


そして約束の日曜日。待ち合わせ場所には現れなかった。

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