第10話 進展…?

体育の一件のあと俺を責めてきたクラスメイトが謝罪をしてくれた。

あの一件で星宮がクラスメイトから少なからず避けられるのではないかと心配していたが実際はその逆で余計に人気が出たようだった。

時折こちらにSOSの視線を送ってくるが俺には何もできることがないので苦笑を返すしかなかった。

その日の帰り道……


「体育の時は助けてくれたのにどうしてこっちを見て笑ってるだけなんですか」


と星宮はムーっと頰を膨らませ、少し拗ねた様子でそう言ってきた。

だいぶ見慣れてきた星宮の感情的モードだが今まで恥じらいと怒りしか見たことがなかったので新しい表情に見惚れそうになった。


「そう言われてもあんなに囲まれてちゃ助けようがないですよ……それに俺本当は学校で目立ちたくないですし……」

「確かに月嶹さん目立ちたくないオーラすごい出てますけど」

「それ前に灯火にも言われたんですけどそんなに露骨に出てますかね?」

「はい、だいぶ出てると思いますよ。最初の自己紹介とか本当に無難に済ませようっていう思いがすごく伝わってきましたもん。まあ月嶹さんらしいって言えば月嶹さんらしいですけど」


そういうと彼女は悪戯っぽく微笑んだ。


(今日はこれまで以上に心臓がもたないかもしれない……)

と心の中で心臓の心配をしていると星宮が急に歩くのを止めた。


「どうかしましたか?」

「月嶹さん、一つお願いがあるんですけどいいですか?」

「いいですけどなんでしょうか?」

「あ、あの私に対しても水生さんと話すようにタメ口で話してもらえませんか……?」


意外な内容のお願いだった。てっきりトラウマの治療に関してだと思った。


「良いですけどどうしたんですか、急に?」

「私こういう性格ですからタメ口で話してくれるが今までできたことがなくて凄く憧れてたんです。それで今日月嶹さんと水生さんが話してるのを見て、お願いしてみようって思った次第です(びしっ)」


星宮が友達と言った時に胸のあたりがほんの少しチクッとしたのはさっきの拗ね顔を

見たときの動悸による弊害だろうか。


「わかったよ、最初は敬語が混ざっちゃうかもしれないけどなるべくタメ口で話すようにするよ」

「ありがとうございます!」

「星宮さ、、星宮は敬語のままなのか?」

「は、はい。生まれてからずっと敬語だったので敬語が体に染み込んじゃって

取れないんです」

「そうなんですか。それはそれで大変そうですね」

「月嶹さんも敬語出てますよ?」

「あ、ほんとだ……」


俺らは顔をを見合わせて笑った。

そのときの星宮の顔は後ろの夕陽と相まってとても幻想的で、本来なら逆光でよく見えないはずの表情は夕陽に負けないくらい輝いて見えて釘付けになった。


「綺麗だ……」

「え、何がですか…?」

「……ん?  今俺なんか言ったか?」

「は、はい。『綺麗だ』って……あ!もしかして夕陽ですか? 確かに凄く綺麗ですね。」

「あ、ああそうそう夕陽! 俺夕陽すっごい好きなんだよな、あはは」


言うつもりのない心の声が無意識に漏れてしまっていたらしい。

ここで『星宮がだよ』と言えれば満点だったのだろうが俺からそんなこと言われたところで嬉しくないだろうし、この後もまだ一緒にいるので変に意識したりされたりすることは避けたかった。

しかしそんな俺の気を知る由もなく、


「月嶹さん夕陽が好きなんですね。覚えておきますっ」

と星宮は今度は夕陽以上に眩しくて綺麗な笑顔でそう言った。


(ちきしょう……それは反則だろ……)

俺はマンションまでの数百メートルを悶えそうになるのを必死に堪えながら歩いた。

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