第9話 助け助けられ
ここ最近1日の内容が濃すぎるためもっと経っているかと思ったが今日で入学してから三日が経ったらしく授業が始まった。
といっても初回の授業なので殆どの教科がガイダンスで終わった。
そんな中唯一体育だけは特にガイダンスすることもないということで初回から授業だった。
うちの高校は男女混合で体育を行うらしくクラスの殆どの男子が星宮のことを、女子は灯火のことを見ようと必死だった。
「二人共知り合いだからなんか複雑な気分だな……」
勝手に除け者にされている気分になっている俺以外は皆二人を穴があきそうなほど
見ていた。そんな中体育の先生らしき人がこちらに向かってきた。
「皆さんこんにちは! 体育の授業を担当する
まばらに拍手が起こるがみんな微妙な顔をしていた。
確かにあだ名が冥王だなんて言われたら誰だってそうなるだろう。
現に俺も他の人たちと同じ顔をしている自信がある。
しかし星宮だけはいつもの美しすぎる真顔を保っていた。
「今日は初回授業だし、皆入学したてなのでクラスの仲を深める意味も込めて全員でリレーをします! なので4チームに分かれてください! 分け方は自由ですが3分以内に決めてください!」
そう冥王先生が言うとすぐに、クラスメイトが我先にと二人を勧誘しだしたのでよく見えなかったが、星宮がリレーと聞いた瞬間凄く嫌な顔をしたように見えた。
俺はその星宮の様子を気にしながらぼーっと「これじゃ一向に二つにしか別れないなぁ」と他人行儀に考えていると2つのグループから一人ずつ人が俺の方に走ってくるのが見えた。
「太陽〜、助けてーー」
「月嶹さんなんとかしてくださいーー」
それは灯火と星宮だった。
「待て待てなんでこっち来るんだ、目立っちゃうだろ!」
「そんなこと言ってもまだ友達太陽だけだし……」
「私も関わりがあるの月嶹さんだけです……」
二人はそう言いながら助けを求める子犬のような目でこちらを見てきた。
他のクラスメイト達は恨みや嫉妬などの負の感情のみが込められた目でこちらを見てきた。
俺はその2種類の視線に耐えられなくなりどうにか自分から関心をそらそうと
ある提案をした。
「え、えっとほとんどの人が灯火と星宮さんと同じグループになりたいと思うので背の順に一列に並んで前から4の番号をかけていってその番号で組み分けしませんか? 恨みっこなしで」
そう提案すると皆は割とすんなり了承してくれた。
俺はクラスメイトの意識を自分からそらせて心底ホッとしながら前から順番に1、2、3、4、と番号が唱えられていくのを待っていた。
「3」
透き通るような綺麗な声で星宮が言った。
星宮は3班か。3班の男子は幸せだな。
「3!」
今度は灯火が元気よく言った。
灯火も3班か。3班になった人はとんでもなく幸運だな。
「2……」
俺の隣の人が残念そうに言った。となると俺は3か。
……ん? 3って灯火と星宮が両方いる班だよな……? ってことはせっかく俺から
意識をそらしたのにまた注目されるんじゃ……
「3」
俺は絶望を込めて言った。
組み分けが終わり各組みずつに並んだのはいいのだが、なぜか縦に並んでいるのに
左右からのナイフで刺されているような鋭い視線を大量に感じた。
「じゃあ早速始めていきましょう! 走順は列の前から後ろでいきましょう。あと負けたチームには罰ゲームがあるので頑張ってくださいね!」
「「「えーーー」」」
クラスの全員が同じ反応をした。
3班の走順を確認すると前から灯火、俺、クラスメイト×7、そして星宮という順番だった。
順番の確認をするために後ろを向いた時、明らかに星宮が不安そうな顔をしているのが目に入った。それが気になった俺は列から抜けて星宮のところに行った。
「星宮さん、大丈夫ですか? 顔色悪いですけど……」
声をかけると星宮は俺の耳元で他の人には聞こえないくらいの音量でこう囁いてきた。
「実は私、信じられないくらい運動音痴なんです……しかも特に走ることが苦手なんです……」
最初は冗談かと思ったが星宮の手が震えていたので本当のことだと確信した。
俺は少し考えてある提案をした。
「わかりました、俺がアンカーを代わりますので星宮さんは目立たないことだけを意識して走ってください。」
「え、いいんですか……?」
「はい、困ったときはお互い様です」
「ありがとうございます……!」
星宮の顔がぱっと明るくなるのを見て安心した。
そして気がつくとリレーが始まっていた。
第一走目は灯火の独壇場で、入学式の朝よりも格段に速いスピードでコースを駆け抜けていき、それを追うようにクラスの女子の黄色い歓声も校庭に響き渡った。
(入学式の朝は俺のペースに合わせてくれてたのか)
そしてその後の二、三走者も灯火に負けじと続いていき、気づいたら俺らのグループは二位と半周差をつけていた。そして星宮の番が回ってきた。
星宮はいつもの涼しげな顔をしていたがその表情は余裕からくるものではなく、明らかに緊張からくるもののように見えた。
星宮がバトンをもらうと同時に俺はスタート地点に着き星宮の走りを見たが、自分でも言うだけあるくらいかなり遅かった。
星宮はみるみるうちに後ろとの距離を詰められていき俺にバトンが回って来る頃には
三位になっていた。
スタート前にふと四位のチームのアンカーを見たが、いかにも足の速そうな爽やか系イケメンだったので本格的にやばさを感じた。
とりあえず星宮からバトンを受け取り全速力でダッシュするもやはり後ろの爽やか君は足が速く、みるみるうちに差が縮まっていった。
(このままだと抜かされて俺らのチームが罰ゲームになるな……しかもこのまま
抜かされると星宮が責められるかもしれない……)
そう危惧した俺はあることをすることに決めた。
(よし、なるべく自然に、靴紐を踏んだ感じで……)
ズザァァーー…
そう、俺はわざと転ぶという作戦に出たのだ。
あのまま走っていても負けていたのでせめて矛先を星宮ではなく自分に向けようという考えだった。
「皆さんごめんなさい、最後俺が転んだせいで罰ゲームになってしまって」
「ほんとだよ、お前がこけなきゃ3位でセーフだったんだぞ」
「そうよそうよ、せっかく水生君がたくさんリードしてくれたのに台無しじゃない!」
「星宮さんだって必死に抜かれないように頑張ってくれたのにそれも水の泡にしやがって!」
チームメイトはここぞとばかりに俺を責め立ててきた。
おそらく殆ど怒ってはいないが灯火や星宮の事を労う言葉を口にして二人に
気に入られようとしているのだと思う。
要するに俺は二人に取り入るための橋渡し役ということだ。
それがわかっていても今は何を言っても収まらないと思うのでおとなしく頭を下げていると、
「どうしてそんな事言うんですか! あなた達は私や水生君が転んでも同じことを言えるんですか!?」
星宮が俺の前に立ち、俺を責めていたクラスメイト達に言い放っていた。
クラスメイト達は突然の星宮の感情的モードにたじろいで何も言い返せないでいた。
「月嶹さんは私がアンカーになって不安そうにしているのに気がついて変わってくれたんです」
「星宮さん、それ言っちゃダメなやつですよ、せっかく矛先を俺に向けたのに星宮さんが責められちゃいます」
と俺は星宮にだけに聞こえる声で言った。
しかし星宮は止まらなかった。
「あなた達は人を見た目で判断しすぎです。月嶹さんは確かに見た目は根暗で人と関わるのが嫌いそうに見えますけけど中身はものすごく良い人なんです。それだけは知っておいてください!」
そういうと星宮は顔をいつもの凍てつくような真顔に戻して何事もなかったかのように冥王先生の元へ歩いて行った。
呆気に取られていたクラスメイトもパラパラと星宮の後に続いていった。
「二言ほど余計な気がしましたけど庇ってくれてありがとうございます」
「いえいえ、いつも助けてもらってばっかりですから気にしないでください」
「ありがとうございます」
「皆リレーお疲れ様でした。皆よく頑張ってたと思います! 来週からはマット運動をしていくので準備をしておいてください! それじゃあお待ちかねの罰ゲームの発表です! 最下位の三班は腕立て、腹筋、スクワット30×3セットをしてから教室に戻ってください! 次の授業に遅刻するといけないので死ぬ気で頑張ってくださいね!」
そう言うと冥王先生は綺麗な白い歯を出してニヤリと笑った。
「「「ま、マジで冥王だぁ……」」」
最後の最後で三班の息が合った。
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