第4話 嵐の訪れ
無事(?)入学式が終わり各クラスで最初のホームルームが始まった。
「皆さん初めまして! 1年3組の担任を務める
と先程俺と灯火を体育館で叱った先生が自己紹介をした。
少しでも若く見せたいのだろうか、語尾に星が見えるくらい明るい話し方だ。
「さっそくだけど出席番号1番の子から自己紹介して行きましょう☆」
三角先生がそう言うと順番に自己紹介が始まっていく。
適当に聞き流しながら自分の番が来るのを待っていると周りがざわざわし出したので顔を上げると、
「星宮明里です。よろしくお願いします」
そこには凛とした表情で自己紹介をしているあの瑠璃色の髪の少女がいた。
俺は驚きのあまり彼女を凝視してしまったが幸い彼女がこちらに気づいている様子はなかった。まあ俺の番がくれば嫌でも気づかれるとは思うが。
周りの男子達はそんな俺の気持ちを知る由もないので「星宮さん可愛くね」だの
「一目惚れした」だのいろいろと言っている。
灯火も近くの席の人に「星宮さん可愛いくね?」と言われているが適当に相槌を打っているだけで大して興味は無さそうだった。
その後も自己紹介は進んでいき俺の番になった。
「月嶹太陽です。今日から一年間よろしくお願いします」
俺が考えうる最高に無難な自己紹介をし、前を向くとまばらに拍手が起こった。
まぁこんなものだろうと思い席に戻ろうとした時に星宮明里が目に入った。
彼女はチラッとこちらを見た後、昨日と同様直ぐにプイッとそっぽを向いてしまった。
(なんなんだ昨日から?)
俺はなんとも言えない気持ちを抱えて席に戻った。
その後はなんの滞りも無く自己紹介が終わり三角先生が軽く明日からの流れを
説明して解散となった。
終礼後、灯火が昼ごはんに行こうと誘ってきたが、もみじが心配なので事情を説明しまたの機会にしてもらった。
帰り途中早苗さんからメールが来てたので見てみると、急用ができたからしばらく
もみじを迎えに行けないという趣旨の内容だった。
「まじか……もみじがいるぶんには全然いいんだが、もし管理人さんに
バレたら追い出されるよな……」
と少し焦りながら帰り道ひたすらもみじの隠し方について考えていた。
しかし帰ってすぐ思いついた案は全て無駄になった。
なぜならエレベーターを降りて自分の家の方を見ると明らかに昨日とは違うところがあったからだ。
それは俺の家の扉の前に“ザ・仁王立ち”という感じで微動だにせず立っている星宮明里が居たということだ。俺は恐る恐る近づいて声をかけた。
「あ、あの何か御用でしょうか……?」
「はい、一つあなたに聞きたいことがありまして」
彼女は俺に気づくと間髪入れずにこういってきた。
「なんでしょうか……?」
「月嶹さんはこのマンションがペット禁止ということは知っていますよね?」
全身からドッと汗が吹き出た。
もみじがいることがバレたのだろうか? いやもみじは滅多に吠えないし昨日の今日でバレるはずがない。ここは冷静に対応して早々に話を終わらせよう。
「はい、もちろん知っていますけど、それがどうかしたんですか?」
「しらを切るつもりですか、では単刀直入に伺います。月嶹さんは部屋に犬を持ち込んでいますね?」
バレている。でもなぜバレた? 学校での灯火との会話を聞かれたのだろうか?
いや今はバレた経緯よりも無理やりなこじつけでもいいから切り抜ける方法を考えなければ……
「な、何言ってるんですか、そんなことしてませんよ。俺やることあるんで部屋入らせてもらってもいいですか?」
「いいですよ……」
意外とすんなり許可してもらえたのでほっとしたが、
「ただし私も入らせてもらいますけど」
やはりそう簡単にはいかなかった。
「……え? いやいやいやなんでそうなるんですか!?」
「大丈夫ですよ、ペットがいないと確認できたらすぐ出て行くんで」
「いやいやそういう問題じゃなくて、そもそもほぼ初対面の異性の家に入ろうとすること自体おかしいですよ。もし俺があなたを襲ったりしたらどうするんですか?」
「その場合は学校が同じですし学校に報告してしかるべき処置を受けてもらいます。まあそもそもそんなことする気のある人はわざわざ聞いてきたりしないと思うのでその心配は全くしていませんけど」
「うっ、えっと、あ! 今家の中凄く汚いんで人を入れたくないんですよ。」
「昨日引っ越して来た人の部屋が1日も立たずにそこまで汚くなるはずありません」
やばい、完全に論破されてる。どうしようもう言い訳が……
「わかりました、そんなに私を入れたくないなら管理人さんを呼んできます。
別にペットがいないならそれでもいいですよね?」
一番恐れていた事を言われた。
管理人さんを出されたらどうしようもない。
このまま虚勢を張り続けてもバレるのは時間の問題だし、かといってここで認めてしまってもバレてしまう。完全に詰んでいる。
「管理人さんを呼ぶのは勘弁してください……」
「では早く鍵を開けてください」
俺は渋々鍵を鍵穴に刺して回しドアを開ける。
すると案の定そこには嬉しそうにこちらを見てしっぽを振るもみじがいた。
「やっぱりいるじゃないですか。率直に言いますけど私は犬が大嫌いなんです。今すぐ実家に返すなりしてください。でないと管理人さんに言って出ていってもらいますよ」
彼女はもみじを見るなりものすごい剣幕でこう言った。
しかし彼女の表情は言葉とは裏腹にまるで泣き出す一歩手前のようなとても悲しそうなものだった。
その事が気になって仕方がなかった俺はよく考えもせずこう聞いてしまった。
「なんでそんなに悲しそうなんですか?」
「っ!」
彼女は短く息を呑みこちらをキッと睨むと出ていってしまった。
去り際の彼女の目には涙が溜まっていた。
「なんなんだ、本当に……」
俺は嵐が去った後の静けさの中一人こうつぶやいた。
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