第15話

また、私は応接室に座っていた。

バッグのデザイン、とはいうものの。出来上がったものに対して文句は言えても自分でデザインを考えて作るとかいう事はしたことがない。中学校の家庭科でエプロンを作った時にも「綺麗なデザインを!」と意気込んで作った時にも、盛り込みすぎて前衛芸術のような惨憺たる結果になってしまった事を思い出す。

『口は災いの元だぁぁ…』

アランが羊皮紙と、ペンを持ってきた。

ニコニコしながら目の前に置かれる。逃げられない。

「布製のものが良いなと思っているのですが、えっと、色はあの2色だけなんですか?」

「いえ、他の色に染めることも可能ですが、特に必要性が無いので染めていません」

「黒いのは染めていないんですか?」

「はい、あれはもともとが黒い毛のものを織って作っております」

そういえば、洗い物をするときに色落ちがって一文があったりするし、服に色が付くと面倒だもんね。それなら、できれば染色しないでやった方がいいかもしれない。

「…素人なので、変な所とかがあっても気にしないでくださいね。…バッグが、こうやってあって…」

まずは外見。

基本が生成り。マチ部分の所が黒。字は、ちょっと自信がないから斜線で黒って表現しておこう。で、上の蓋部分が生成り。蓋のフチ部分に黒の布でぐるっと一周、アクセントをつけて、ボタンをかけられるように。それと、外ポケットが蓋のすぐ下。真ん中にあって、ここにはすぐに取り出す必要があるものを入れておく。このポケットは…うーん。黒かなぁ。で、肩ひもの部分は黒。本当は茶色とかがいいんだけど…あ、革とか使うと可愛いかな。あれなら茶色だよね。でも茶色っていうと、字をかかなきゃいけないからとりあえず斜線…。

「外見は、こんな感じで2色使いとか、可愛いんじゃないかなって思ってます」

「なるほど、さすが天使様」

「で、ここにはポケットがあるとちょっとしたものが入って、いいです」

「思いつきませんでした」

「…ありがとうございます」

つぎは、中。本当はチャックがあるのが一番安全だけど、それは無理。基本的に大きく使えて、自分の体側に、内ポケット変わりに間仕切りをつける、そうすれば、ここにメモとかをいれて奥に入っちゃわないとかできるもんね。そうなると裏地も必要なのかな。

デザインだけをとりあえず書いて、アランさんに見せる。

「…中は、こんな感じですかね」

「素晴らしいと思います。天使様」

アランさんが確実に何かしらのフィルター越しに私を見ている。とりあえず、書き終わった羊皮紙をアランさんに渡すと、改めてじっくりと見ている。

「このようなデザインのものは、今までに見たことがありません。当店で試作品を作ってみてもよろしいですか?」

「…どうぞ。ご自由にこのデザインはお使いください」

うん、こうなるってわかっていたよ…もっと真面目にバッグを見ておけばよかった。でもこんな風になるとは思わないしなぁ。そういえば、よくある転生ものだとデザインとか色んなのを持ち込んで、商品化してウハウハっていうのがよくあるけど。今回の場合どうなるんだろう。でも現時点で私は教会にお世話になってるから教会にお金がまわるようになるのかな??うーん…わからない…。

腕を組んで考え込んでいると、アランさんがこちらの様子をうかがってきた。

「もちろん、試作品が完成した時点でのご連絡と、司祭様へご相談に上がらせていただきます」

あ、教会の総取りになるのかな。そんな事を考えていたら、応接室の扉がノックされた。

「旦那様。お迎えの馬車が到着いたしました」

「そんなに時間がたっていたか。天使様、ご期待に添えるよう善処いたします」

アランさんは立ち上がり、深くお辞儀をしてきた。

「いえ!あの、気楽に考えてください」

軽くお辞儀を返し、従業員の方にも笑顔で見送られながら、馬車に乗り込む。

ガタガタと揺れる馬車から外を眺めながら、自分がやたらと気疲れしている事に気が付いた。

『何か』を色んな人から凄く期待されている気がするけれど、自分はそんな大した事が出来ない。期待が大きくなればなるほど、そのギャップ…期待を裏切っていることが他の人にわかってしまった時にどんな反応をされるかが怖くなってきた。

風にのってか、教会の鐘の音が聞こえる。

どうやって時間をはかっているんだろう。時計でもあるのかな。

そんな事をぼんやりと考えているうちに、鐘の音が大きく聞こえるようになってきた。

『せめて、何か買う時にお金が払えるくらいには出来るようになりたいな。とすると、バイト的なものを……その前に現時点で住み込みになってるんだから、もう少しどうにか役にたてるように頑張らないと…かな??』

当面の目標:馴染む

そう考えたところで、シスターがにこやかに出迎えてくれていた。

朝にお世話してくれた…えーと、きゃりー…違う。キャロル…じゃなくて……うーん、メモ持ってくればよかった…そうだ!カロル!!!

凄くスッキリした。

「おかえりなさいませ。勇者様」

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