第14話

「美味しいぃ…」

出てきたケーキは絶品だった。

ふわふわのシフォンケーキ、生クリーム添え。

オレンジピールが練りこまれているのか、ほんのりと柑橘系の香りが鼻腔をくすぐった。一口ずつ大切に食べていくが、あっという間になくなってしまう。

『うう…もっと食べたい…』

クリームを綺麗にシフォンケーキで拭っていると、名残惜しそうに見えたのか笑われてしまった。

「天使様は美味しそうに食べられますね」

「凄く美味しかったんです…!甘いものには目が無くて…」

ご馳走様でした、とリーンは両手を合わせる。

「天使様。妻の容体はいかがでしょうか」

「えっと、シスターたちが処置をしてくれています。ただ、私は様子を見ていないので詳しくは…すいません…」

そう答えると、アランは頷いた。

「アランさんは、朝のミサに行かれなかったんですね」

「そう、なのです…私は罪深い事をしてしまいました…そのせいで妻が…」

アランは目の前で手を組み、額にあててまるで懺悔をするかのような姿勢をとる。

「アランさんのせいではないと思います…!!!」

ここで懺悔されてしまっても困ると、リーンは慌てて言葉を遮るとアランは顔を上げた。

「誰でも、忙しくて手が離せない時とかありますし。それで何かがおこるって言うのは…ちょっと違うかなって」

うまい言い回しが出てこないリーンを見つめ、「ありがとうございます」とつぶやいた。

『何かいい話題…』

リーンはキョロキョロと周りを見渡した。先ほどまでシフォンケーキが乗っていたお皿が目に入る。

「あの、アランさんはお仕事って何をされてるんですか?」

「わたくしどもは、商店を営んでおります。日用雑貨からお祝いの品まで幅広く取り扱いがございます」

「迎えがくるまで、その、お店を見たりしてもいいですか?」

「構いませんが、どのようなものをお求めでしょうか」

「バッグとか、ですかね。とりあえず欲しいなって思うのが。いくらくらいかも知りたいです。あとはできればハンカチと、着替えとか…」

「すべて取り扱いがございますので、どうぞこちらに。案内をさせていただきます」

エスコートしてもらった先は、アイボリーで統一された店内だった。広い店内には整然と商品が並んでいる

バッグは肩掛けのデザインで一択だった。色合いも黒色か生成り色の布。もしくは革製品だった。手に取ってみてみる。

「うーん…こういうのかぁ…」

「お気に召されませんか?」

「これ、インベントリみたいのは…」

「いんべんとり、ですか」

「…ですよね!気にしないでくださいこっちの話です!!」

インベントリ。ゲームとかではよくある収納するものの大きさとかに関係なく入れられる便利なアレ。けれど。もちろん無いかぁ。

うーん…転生しているはずだよねぇ…今の状態…それなのに、そういう『すっごい便利!』みたいのが一切ない…そして『現代知識が生かせちゃう!やったね!!』みたいのも全くない…。しかも男の体…。

ちょっとだけションボリとしながらバッグの中を確かめる。

仕切りも無い。思わず首をかしげる。

『これ、いろんなのがごちゃ混ぜになりそう…うーん。でも例えば他の町に行くとかで、荷物が多くなった時にはリュックみたいな方がいいのかなぁ…』

「バッグって、こういうのしかない感じですか?こう…背中に背負うタイプのものとかは…」

「残念ながら、遠出をするためのバッグは当店での取り扱いがございません」

「これ、色とか模様はこれだけなんですよね…」

バッグの近くに置いてある値札らしきものを見る。手書きのメモで金額を確かめると、銅貨が3枚。革製品のものが銅貨5枚。

えっと、15000円程度のと、25000円程度のって感じかな?こんなにシンプルなのに…。

可愛くない。せめてモノトーンでもいいから、ツートンカラーにしてくれるとかのバッグが欲しい…んだけど、これしかないならしょうがないのかなぁ。

うーん、とバッグを持ちながら考え込んでいると、アランさんがにこやかに話しかけてくれた。

「もし天使様にご希望があれば、オーダーで承ることも可能ですが」

「えーと、通常商品だといくらで、オーダーだといくらですか?」

好きなデザインができるなら嬉しいけど、今までオーダーなんてやったことがない。金額次第かなぁ。

「天使様のご要望でしたら、どのようなものでも当店で負担いたします。バッグの代金もお支払いいただく必要はございません」

「いやいや!それは普通に考えておかしいです!ちゃんとお金払います!」

そこまで言って、ハッと気づく。

『私、いま無一文じゃん』

すすす…とバッグの形を整えて机の上に置いた。

「あの…なんでもないです…ほんとう、いまのは忘れてください…」

ごにょごにょと言いにくそうにつぶやく。なんとなく、今までの貯金とかを計算に入れてバッグを見ていたけど、当然ながらそんなものはこちらに持ってこれていない。

買う気満々でのやり取りを思い返して、思わず顔が赤くなりそうだった。

「天使様。どうぞご意見をお聞かせください。神の声として、どのような商品がご入用かが知りたいのです」

すっごい懇願されるような顔で見られると、弱い。

「で、デザイン的なものだけでよければ…」

「是非!」

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