第11話

血を見てから、少し具合が悪くなってしまい部屋に戻らせてもらった。

『あの人、助かるといいなぁ…』

あんなケガをした人は、初めて見た。こちらの医療技術がどれくらいかはわからないけど、もしかすると助からないかもしれない。そうしたら、あの女の子はどうなるんだろう…お父さんとかに引き取られるのかなぁ。

色んな事が頭の中をぐるぐるとまわってしまう。

コンコン、とノックの音が聞こえた。

「はい」

中に入ってくる気配はなかった。

「勇者様。朝食はいかがいたしますか?」

「ちょっと食欲がないので…」

「では、スープだけでもお持ちいたします」

「ありがとうございます」

気遣いをしてくれているんだと思うと、ちょっとの事で引きこもってしまった自分が情けなくなってくる。

でも、貧血で倒れたらそっちの方が迷惑かかりそうだし…。

そんな事を考えながらぐずぐずと横になっていると、またノックの音が聞こえ、別のシスターが部屋に入ってきた。

テーブルにスープとパンを置いてくれたので、頭を下げる。

「ありがとうございます。シスター…」

「カロルです」

にっこりと笑ってくれたシスターは、20歳前後だろうか。同い年くらいに見える。

「さっきの女性、どうですか…?」

「まだ、中の様子は報告されておりません」

「…女の子の方にはケガとかはありませんでしたか?」

「はい、そちらはケガもなく、無事です。先ほど泣きやんだようですので、まずはシスターと食事をとってから家に帰宅させる予定です」

「そうなんですね」

「天使様がお母さんを助けに行ってくれたと、言っておりましたよ」

…天使!!うわあ照れるなぁ!!

普通だと絶対に言われないであろう言葉を言われて、むずがゆくなる。

「勇者様、女の子の帰宅に一緒に向かわれますか?そちらの方が彼女も安心するかと思いますし」

「いいんですか?それじゃあ、ぜひ!」

「馬車が到着したら、またお声がけします」

「わかりました。よろしくお願いします!」

扉の向こうにカロルが行ったのを確認して、スプーンを手に取りスープを口に運ぶ。

ジャガイモのポタージュスープ。

口当たりも優しくて、温かくてとろりとした味わいに緊張がほどけていく気がした。

パンは少し固めの雑穀パン。こちらもほんのり温かい。

どれくらいで馬車が来るかがわからなかったので、少し早めに食べ終わらせてローブを羽織る。

机の端にお皿を重ねて避けると、羊皮紙を広げた。

「日本語でいいか。えっと、さっきの人はカロル…20歳くらいで、優しそうな顔立ち。髪の毛は栗色…」

名前と特徴を一緒に書き込んでいく。

「いつも世話をしてくれていた人は…なんだっけ。エリーは愛称だった気がする…」

エリー(本名:   )と空欄をあけておく。40代くらい?怒った時はめっちゃ怖い感じで、オールドミス…目つきはちょっと釣り目ぎみ…と…

書いている所で、またノックされた。

「勇者様。馬車が到着しました」

「今行きます!」

羊皮紙はインクが乾くまで開いておく。うーん。バッグが欲しい。転生ものだとこう…ヒュッて色んなのをしまっておけるやつがさぁ…。

でも、無いものねだりをしてもしょうがない。

お皿を持って扉をあけると、先ほどのカロルがそこに立っていた。

「これ、ご馳走様です。美味しかったです」

お皿を渡し、そう伝えてから裏の出入り口に向かおうとすると、呼び止められた。

「馬車が待っているのは、教会側の方です」

「あ、そうなんですか?それじゃ、こっち?」

自分が向かおうとしていたのと逆の方向を指さす。

「そうです。女の子と一緒に行かれるので…」

「それもそうですね。ありがとうございます」

失敗失敗。

教会の扉をあけると、そこは高い吹き抜けになっている大聖堂だった。

『うわぁ…』

円柱状の柱がいくつも立ち並び、高窓の所から光が零れ落ちている。ゴシック様式のような装飾が壁に施され、祭壇には杯が掲げられていた。

『教会とかだと、やっぱり似通うのかなぁ…あとでもっとゆっくり見よう…』

正面の大きな扉に向かい、外に出る。

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