第12話

昨日のよりもだいぶ豪華な馬車がそこには待っていた。

黒く艶のある塗装がされた客車部分には、螺鈿のような装飾がされていた。

中には、すでに女の子が乗っている。

『昨日のより随分豪華だけど、これ乗っていいのかな…』

そう考えあぐねていると、御者の人がドアを開けてくれた。

「どうぞこちらに」

「…失礼します…」

ステップをおろしてくれているので、乗り込むと女の子の隣に座った。

「あとで、また迎えの者も行きますから」

「あ、はい」

『うひょぉぉ、なにこれ緊張する』

馬車が動きだし、ちらりと女の子の様子をうかがった。

7歳くらいだろうか。泣きはらした目が痛々しい。そして沈黙が重い。

「あの…さ」

そう声をかけると、女の子がこちらを見上げてきた。

「お母さん、早く良くなるといいね…?」

『なんで疑問形にした私!!!』

口下手にもほどがある、と心の中で思わず頭を抱えてしまった。

また女の子の目が潤む。

「あたしが…ちゃんと神様にお祈りしなかったがら…」

『ああああ、泣かないで泣かないで!!どうすればいいのこの場合!』

あわあわと思わず手を動かしながら、なんとかいい言葉を投げかけようと必死に考えた私の口からとっさにでた言葉は「大丈夫!神様はちゃんと見てくれてるから!」だった…。

女の子が頷きながら抱き着いてくる。

そっと頭を撫でてあげると、嗚咽が漏れ始めた。

『そりゃ…心配だよねぇ…』

馬車がガタガタと揺れていたが、馬車の揺れが少し収まってきた。街に入ったのかもしれない。

「おねえちゃんも、お祈りするからね」

「天使様…」

…あー、つい今までの癖でおねえちゃんって言っちゃう…。友達のところの妹さんを思い出すなぁ。

馬車が止まり、扉が開くと女の子は私の手を引いて降りていく。

ああ…ローブが鼻水でカピカピになってる…スカーフと一緒に後で謝ろう…

向こうから、身なりの良さそうな男性が駆け寄り、女の子の事を抱きしめる。

「ドニー…ドニー…!お前は無事だったのか…!!」

「パパ、あたしの事を、天使様が助けてくれたの」

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