第9話
コンコン、と軽くノックをしてから中に入る。
「失礼します。司教様」
「おお、お待ちしておりましたぞ」
「すいません、遅くなりました」
お誕生日席に座っている司教の隣に座り、テーブルに石板を広げた。
「なんでも聞いてくだされ」
「えーと…だいぶ、いつもと口調が違いますよね。皆さんの前でお話をされる時には、もっとビシッとしている感じに思えますけど…」
「そりゃ、ずっと気を張り詰めているのは疲れるからのう」
そうやって笑うと、皺が深くなって人懐っこい雰囲気になる。結構厳しい先生も、学校以外で会うと意外と優しかったりしたからそれと同じかな。ずっとビシッとしてるものかと思っていたから、考えを改めないと。
「ありがとうございます。…えっと、質問が多かったら申し訳ないんですが、言葉に不自由しないのは、なんでですか?」
「魂の共鳴で意思の疎通をしておるからの」
「共鳴で会話しているんですか!?」
「うむ。疑問に思われるのも当然じゃ。肉体と魂の説明から必要かの。それがリーン様の成り立ちにもつながる。まず、この世界は神が作られた」
『そっから!?』
なんとか言葉を飲み込んだ。やばい、迂闊に聞いたから創世からお話が始まってしまう。
「神は、人を魂と肉体に分けて作られ、合わせて地上に置かれた。リーン様が入っておられる肉体は、ワシらが作り上げたものじゃ」
「作り上げたんですか?」
「そう、神の奇跡と呼んでおる。しかし、肉体だけでは奇跡は起こらん。魂があってこその、『人間という奇跡』になるんじゃ」
「なるほどぉ…」
とりあえず石板にメモっておく。
「さらに神は、男と女を作られた。しかし、伝記として伝わる勇者は全て、魔物に負けてしまっておる。そこで、じゃ。男の肉体に女の魂を併せ持てば、完全なる存在になるのでは、とワシらは考えた」
「それで、体が男になったんですね…??」
「その通りじゃ。神により近い存在、完璧な存在が必要なんじゃ。他の所もまだやっていない方法じゃろうがの」
「だからって、これじゃオネエじゃん…」
あ、性同一性障害か?いやでも、親の教育のせいなのか、男性の体でも「すっごく違和感!」って言うのは今のところ感じていない。
ううん、と考えてしまう。
「えー…と、とりあえず言葉は魂で会話しているから大丈夫というのはわかりました。もしかして、動物の考えもわかったりします?」
「動物に魂が近ければ、共鳴もするじゃろうが普通では共鳴せんと思うぞ。確実にとは言えんがな」
コリコリ、と書き留める。
「他にも『勇者』って、いるんですか?」
「うむ。各地で勇者はおるぞ。これから会う機会もあるじゃろう」
他の勇者とかすごい気になる!!語りたい!!
「ち、ちなみにどんな方がいらっしゃいます??」
「そうじゃのう。ワシが知っておる限りでは、歌で相手を魅了する勇者、弓が得意な勇者はいたのう」
エルフっぽい人かなぁ、ワクワク。会えるように努力しよう!!
弓と歌の勇者、と書いてマルをつける。
えーと、あとは何を聞きたかったっけ。あ、そうだ。さっき言ってたやつだ。
「私の事を、『作った』って言っていましたよね。それって、死んでも生き返るっていうのに関係あるんですか?」
「うむ。健康な男の体を作り上げておる。それは、教会の中でもごく一部のものしか知らん秘儀の一つじゃ。肉体が滅んでも、魂はその場を離れて新たに体を作り上げる。しかし…」
「しかし?」
「肉体の滅びは、魂にも強い負荷がかかる場合がある。人によるが、だいたいは3回から5回前後の再生で限界を迎えるようじゃ」
「意外とコンティニュー回数が少ない」
「こんてぃにゅー?」
「あ、いえ。こちらの話です。…では、できるだけ死なないように頑張りつつ…という事ですね」
「そうなるのう」
うーん。人造人間としての死はだいたい3回まで…と…。
意外と万能じゃないなぁ。
「あとですね。一番聞きたいことなんですが」
「なんじゃ?」
「私が今までいた世界での、肉体はどうなっていますか?」
「…」
沈黙。
なんとなく、予想はついていたけれど。これはダメかなぁ。孤独死トロトロコースかなぁ。あ、でも友達とは毎日連絡とってるし、遊びに来たりしたこともあるから早めに発見してほしいなぁ。
「正直なところを言うと、ワシにはなんとも言えん。肉体と魂の結びつきが弱いものが、こちらに引っ張られやすくなる。じゃが、そちらの世界の肉体と魂の結びつきの方が強い。何かのきっかけで戻ることもあると聞いておる」
「…そう、なんですか?」
ガッツポーズを一瞬しそうになったが、気を引き締めた。これでもし「向こうに帰ったら〇〇するんだ」なんて言ったらフラグになってしまう!!それだけは回避しなきゃ!
「ありがとうございます…少し気が楽になりました」
「うむ。今日は湯浴みをして、ゆっくりと休むといいぞ。明日の朝はミサがあるからの」
「いきなり名指しでお祈りを任せるのはやめてくださいね」
「それも、すこしづつじゃの」
司教様に改めてお礼を言いながら頭を下げ、立ち上がる。
「…あ、湯浴みってどこでやるんですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます