第8話

シスターから基本の文字と、数字について教えてもらった。

あとは銅貨、銀貨、金貨のそれぞれが何枚でランクアップしていくかの再確認。

「午後の仕事があるので、今日はこれを反復学習してください」

そう言い残してシスターはドアの向こうに姿を消した。石筆は少し使いにくい。チョークみたいだった。本にも載ってはいるが、まさか本を持ち歩くわけにもいかないので、まず自分用の羊皮紙にローマ字対応表と、数字の対応表を書き写した。

慣れない羽根ペンはひどく書きにくくて、インクの付け方に調整が必要だった。

ふー、と息を吹きかけてインクが乾くのを待つ。羊皮紙はサラサラとした手触りで、鼻を近づけると少し独特な匂いがした。

『この本のは、また少し違う手触り』

自分の持っている羊皮紙よりも白っぽく、サラリとした感触。

『違う羊…いや、そもそも種類が違うとか…??』

サラサラスリスリ…

『いや、こんな風に遊んでる時間は無いかぁ。ちょっとは本を読んでおかないと』

そういえば、と街にでたときのことを思い出した。

『本2冊と、石板1枚、石筆5本で塩1袋。塩が2袋くらいで銅貨…セルって言っていたかな。それ1枚だから…』

石板の文字を一度布で消し、コリコリと書いていく。

2分の1セルが塩一袋…で、ちょっと薄い装丁の簡易的な本の内訳がどれくらいかなぁ…5分の3くらい?それと、石板と石筆で半々だとして…イメージとしては本を買うのに、日本円で一冊750円くらいのやつを2冊、石板が500円、石筆5本で500円…んで、おおよそ2500円くらいだと仮定して…塩高いな。気軽に使えないじゃん。

…まあ、それはいったん置いといて…銅貨一枚で5000円?んじゃ銀貨一枚で5万円、金貨一枚で25万!え、金貨高い!てか、クッキー高い!1箱5000円!?どんだけ高級品なんだよ!贈答品か!いやでも、箱に入っているししっかりバター味とか塩とか使っていたら、塩がそもそも高級品なんだから…。

「うむむむむ…別のやつの値段もチェックしておくべきだった…」

もしかすると、ある程度のものは、値段がつく…例えば、塩とか小麦とかチーズとか?の物々交換で行って、そこの商売をしている人が最終的に換金してもらえる場所があるのかもしれない。

とすると、もっと少しだけ買うには塩なりなんなりを持って行かなくちゃいけないのかぁ。雨の時はやばいね。防水じゃないとお金が溶ける。

雨降るのかなぁ。降るよなぁ。じゃないと人間、干からびて死んじゃう。

コンコン、と軽くノックの音が聞こえた。

「はあい」

「勇者様、お夕食の用意ができました」

「え!?そんな時間!?」

「ええ、鐘が鳴っています」

そういえば、お昼前にも鐘が鳴っていたっけ。

「いま、むかいます」


夕食の献立は、パンとチーズ、そしてソーセージとスープ。そして野菜。昼ご飯よりも軽めという印象だった。ダイエットをしていた時に、夜を一番軽くしなさいという事を言われていたけれど、もしかするとこんな感じのが理想なのかも。

食前、食後のお祈りはまた司教様にお願いをした。『メカーヤ』は覚えたかも。

席を立とうとした所で呼び止められる。

「リーン様」

「はい。あー…」

えーと誰だっけこの人…司教…司教の…名前が出てこない…!!

「司教様」

うん、名前を言うのはあきらめた。そのうち覚えるだろ…。あとで誰かにもう一度聞いて名前書いておこう…

「夜にお話を伺うという事でしたが、今からいかがじゃろうか?」

「あ、はい!…なのですが、一度、部屋に取りに戻りたいものがあるのですが構いませんか?」

「ふむ、わかりました。それでは、わしはこちらでお待ちしております」

お誕生日席にまた腰を掛けたのをみて、軽くお辞儀をしてから部屋をでて、自室に続く廊下を小走りで戻る。

「走らない!!」

急に大声を出されて、ビクッと跳ねてしまう。

「す、すいません…!!」

「…あら、勇者様でしたか。ここは神様のいらっしゃる神聖な場所。静寂も必要ですので、あまり走り回られるのは感心しませんよ」

「気をつけます」

一瞬で声色が変わるのが怖い。むしろそこだった。「怖い」と言われていたのも納得できるかもしれない。早歩きで自室から石板と石筆を持って、また食堂へと取って返した。

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