第7話

ホロの中に残っている小分けの塩を持ち、シスターの後をついていく。

中世ヨーロッパとかだとペストとか、そこら辺に排泄物が、とか色んな事を想像したけれど、そういう惨憺たる状況に出会うことは無かった。

「次はどこに向かうんですか?」

「教会で使用している修理品の引き取りをしに鍛冶屋へ行きます。そのあとは勇者様の石板の購入です。あとは小麦の購入ですね」

あ、それであの馬車が待機してるんだ。

それにしてもあの『寿司』…日本人の私からすると凄く違和感があるんだよなぁ…そもそもあれパンだし。どちらかというとサンドイッチじゃん。外国の人が漢字だけ知っていてつけたとか、そういうオチだったりして。

街のはずれにつくと、装飾品の店が多くなっていく。どうやら、ある程度「区分分け」が街の中でも行われているようだった。

「ここら辺は装飾品とかが多いんですね」

「強い火を扱う工房は集めておかないと、危ないですからね」

「あー…なるほど、そういう事なんですね」

キラキラした金細工や螺鈿のような櫛。細やかな細工に思わず見とれてしまう。値段は今一つ分からないけれど、高そうなのには間違いない。

「勇者様」

少し先で待っていたシスターが、足を止めていた私に声をかけてくる。

「すいません。凄いのが多かったので見とれていました」

「もっと奥に行くと富裕層の方に向けた装飾具もありますが、私たちに用があるのはこの路地を曲がったところです」

カン、カンと音が聞こえてくる路地を曲がる。

そういえば、ベネツィアだと技術が盗まれないように小島に職人を集めたんだっけ。ここもそんな感じで作られていたりして。

いくつかの工房を過ぎたところに、ハンマーとヤットコをクロスさせた看板が見えてきた。

あー、なるほど、修理とかやりそう。

シスターが中に声をかけると、髭を蓄えた体格の良い男性がやってきた。

「ああ、エリー。出来てるよ…って、そちらの嬢ちゃんは?見かけない顔だけど新しいシスターかい?」

「この方は、リーン様とおっしゃいます。『ブラザー』ですよ。洋服で見分けてください」

「…あー。確かにエリーのとは違うな。こいつは悪かった」

そういえば、特に違和感なく聞いてたけど今までの人にも訂正しておいた方が良かったのかな。…いや、でもブラザーっていうの初めて知ったし。

とりあえず、頭を下げる。

「リーンです。よろしくお願いします」

「マルクってんだ。こちらこそよろしくな。」

ニカッという表現がぴったりな笑顔を向けられ、少し緊張感が解ける。

「いやぁ、それにしても綺麗な顔してんなぁ。変なのに連れていかれないように気をつけろよ?まあ、こわーいエリーがついてるから安心か」

「…人さらいとかあるんですか?」

「まあ、そういう話はこの街でも聞くぞ?門番の目もうまくかいくぐって連れ去るらしいからな」

「それは、怖いなぁ…」

「教会だったら色んな事教えてくれるだろ。しっかり学べよ!」

「…頑張ります」

修理が終わったというフライパンを受け取り、塩を一袋渡し、その場を離れる。

「あの、シスター…」

「なんですか?」

「人さらいがいるって本当ですか?」

「この街は治安が良い方ではありますが、残念ながらそういう話も聞きます。ですが、そうならないようには勿論配慮します」

「助かります」

うーん、これは本当頑張らなきゃ。


次に向かった先は本屋や文房具がある通りだった。

「意外と、いろんなお店がありますね」

「街ですからね」

「…ですよね」

…うん、そうじゃなくて異世界ってもっと昔風で、知識とか私の方があって活躍!みたいのを想定していたんだけど…あ、でも私がそんな知識ないから結局実現できないじゃんそれ。

思わず、むぅ…と不満顔になってしまった。

「先ほど、文字は読めたようですがどの程度まで読めますか?」

「どうでしょう…そこまでしっかりは読めないと思いますので、一応基礎からお願いします」

「それでは、この辺りの本から始めますか」

普通の本と、文字の学習本をお勧めしてくれているみたいだった。

「あとは石板と、石筆と…」

「よくわからないので、お任せします」

本を少し触ってみると、羊皮紙と普通の紙みたいなものの2種類がある。


「あの、シスター」

「なんでしょうか」

「これはなんて言うんですか?」

「ああ、それは植物紙ですよ」

紙があるんかーい!!!

凄く…なんか悔しい…!!

「…ちなみにお値段は…」

「植物紙はまだこちらではほとんど製造されていないので、高価ですよ。その本1冊で30セルです」

「30セル…」

って、どれくらいだっけ…。

「銀のを3枚程度です」

…うん。高いんだか安いんだかわかんない。

いや、でも基本が物々交換だったりして済むところで銀貨っていうと高い…のか…??

「ちなみに、このお塩一袋で何セルなんですか?」

「1セルくらいですよ。その時の出来高によっては多少変わることがありますが」

『まさかの変動制…』

心の中でうーんと悩みながらも、買い物を済ませて馬車に小麦を4袋ほど積んで帰路につく。

本2冊と、石板(布つき)1枚、石筆5本で塩1袋。

というか、ここだと塩が通貨のかわりになるのかぁ…新しい文化と古い文化が入り乱れているみたいだなぁ。

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