第2話

「ええ、どこからどう見ても男ですなぁ」

ハーディが相槌を打ってきたが、そういう問題じゃない。

「ちょ、これどういう事ですか!?こういうののセオリーって性別はそのままでなんかスキルとかなんかのチート能力とかあったりする…」

そう問い詰めようとすると、3人は困惑したような顔をしながらお互いに目配せをしている。え、どういう事。異世界転生とかそういうのじゃないの!?あ、そもそもこれって夢?だとしたら納得できる。

「ふむぅ…知らぬ言葉が出てきましたのぉ…」

額の皺をさらに深くしながら、ヒドルストンが呟いた。

「あ…どれが…??」

「その…『すきる』なるものは一体どんなものじゃ?」

「スキルって、その人独自の特殊能力みたいなやつで、なんかこう画面みたいなやつがガッと出てきて、一つの能力とかを重点的にレベルアップできたり…」

「その…『ちーとのうりょく』というものは…どういうものか説明してもらってもよろしいですかな?」

「チートって、えー…なんて説明したらいいんだろ…ほかの人が真似できないような唯一無二の能力でばんばん敵とか倒したり…」

興味深そうにフムフム、と真顔で頷かれると凄く恥ずかしい気分になってくる。

「さっき、『れべるあっぷ』なるものが聞こえたが、それはどういうものじゃ?」

「レベルアップって、経験値とかを積んでレベルが上がると体力とか傷とかが全回復したりするやつ…」

「全回復ですと」

「それは…便利なものだな」

うーん、よくできた夢だ…

「お主の世界のような便利なものは、残念ながらないんじゃ…すまんのう…」

エヴァンズも頷きながら真剣な表情で凛を見た。

「経験値は、体で覚えながら身につけるものです。楽しても何も身につく事は浅くなります」

高校の時の先生もそう言ってたな確か!!

「ふむ…ですが、『ほかの人が真似できないような能力』は、備わっておりますな」

ハーディは整えられた顎髭を軽くなでながら、つぶやいた。凛は思わずそちらに視線を向ける。

「そなたは、勇者として戦う身分。普通の人間より力は強い。そして自然治癒の力も強い。そして…一番は『死んでも生き返る』ことができる」

う…そんな能力とか嬉しくない…むしろ遠くから狙い撃ちできる魔法みたいの無いのかなぁ…

考えていたことが、そのまま口をついて出ていたようだ。エヴァンズが思わず苦笑しながら言った。

「そのような魔法があれば便利だったんでしょうが、残念ながら人は使うことができません。だから魔族との戦いにも苦戦を強いられている状態なのです」

「…なるほどぉ…」

絞り出すように出せた声はそれだけだった。

「魔族は、わしらの街を周期的に襲ってくるんじゃ」

「左様。そしてわしらは、魔族に対抗しうる勇者を求めておる」

ふむふむ。と頷く。というか頷くことしかできない。

「その召喚に応えてくれたのが、そなたじゃ」

「いえ、応えた覚えはありません」

ただ寝ただけで召喚に応えたって言われたら、どんだけの人が呼ばれてるんだ!と思わず頭の中でツッコミを入れてしまった。あ、というかこれ今際の際とかじゃないよね…走馬灯では絶対に無いと思うけど、めっちゃ具合悪くなってたもんなぁ…。

「そうそう、そなたの名前はなんと呼ぶ?」

「…羽山、凛、です」

「ハヤマ・リーン・デス…か」

「いえ、デスまで入れないでください。わかってやってません!??」

「ハヤマ・リーン」

「リン」

「リン、では呼びにくいのう…さすが異世界の人じゃ…」

「…わかりました。それではリーンって呼んでください」

「リーン一族の勇者を、我らは歓迎しよう」

「あああ!違う!違います!!そうか英語と同じね!ごめんなさい!ハヤマ一族のリーンです!リーン・ハヤマです!!」

慌てて止めて訂正すると、かっこよく決め台詞を告げたハーディが、一瞬だけむっとした表情をする。だって普通に名前言っちゃったんだもん!日本語通じるし!

コホン、と一つ咳ばらいをすると、ハーディは改めてこちらを向いた。

「…では、リーン・ハヤマ。ハヤマ一族の勇者として、我らは其方を歓迎しよう」

あ、ちゃんと言い直してくれた。よかった。

「魔族は周期的にっておっしゃられていましたが、次はいつくらい、とかあるんですか?」

「周期的にとはいっても、3か月程で襲撃する時もあれば1年程度来ない時もある」

「それまでに、ある程度の作法を其方には身につけてもらう必要がある」

「社交界デビューですか!?」

「…王への謁見作法や、こちらの世界の常識のすり合わせじゃ」

表情を変えずに言われるとつらい!…そうだよねぇ。色んな小説借りたけど、どれを読んでいてもだいたいはじめはお勉強モードから…。でも、夢だったらそこら辺はさっさと終わって楽しい感じに切り替わらないかなぁ。

「…あ、私…戦ったこととか全くないんだけどなんとかなりますよね!どうせそこまで見ないと思うし」

「見ない?」

「だって、ほら夢ならなんか身体が動いてどうにか魔物を倒せたりとか」

「夢とな?」

コクコク、と頷くと、三人はなにやらボソボソと話しをしている。

「…よかろう、それでは武器の訓練も組み込むとする」

心の中で、ギャーと思わず叫んでしまった。

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