第17話 明るく気さくな侯爵令嬢 2

 鍛練場には魔法学院で一組だった豪華なメンバーが集まった。

 エルヴィーラ様、ディートリヒ様、デポラ様、クリストフル様にテオドール様とコンラート様まで。


「ちびりそう……」

 ヴィムが何か言っている。でも、豪華過ぎるので言いたい事はわかる。


「じゃあまずは、移動魔法からお願い」


「はーい。じゃあ、誰が人で誰が障害物役になる?」


 エルヴィーラ様の最初の返事からよくわからない。ただ、デポラ様は慣れている様だった。


「どちらに魔法を多くかけるの?」


「障害物にはかけないよ。人だけ」


「じゃあ私が障害物をやるわ」


「いや、それは僕が。怪我をするかもしれないし」


 デポラ様と紳士なディートリヒ様がしばらく揉めた後、結局デポラ様が障害物役になった。

 あの移動魔法をかけられたディートリヒ様が、障害物代わりのデポラ様に向かってぶつかる勢いで動いた。

 デポラ様が余裕を持って避けた後、二人がしばらく固まった。


「私、自分で避けてない……」

「足の下に何かあった……。背中? にも何か……」


 二人が揃ってクリストフル様を見ると、全員の視線が集まったクリストフル様は遠い目をしていた。


「全ての再現は、無理でしょうね……」

 クリストフル様の小さな声が、静かな鍛練場によく通った。


「エル? 何で私は避けたの? ちょっと押された様な気がするんだけど」


「重力魔法? ディーから離れていく様にしたの」


「……重力だけでは無理ですね。もしそうだとしたら、デポラ様は体の一部だけを強く押された筈です。踏ん張らないと倒れていたと思いますよ」


 疑問形のエルヴィーラ様の話を、コンラート様が補足した。


「自然に体が動いた様な感じだったわ」


 実際に体験した人と見ていた人たちの間で議論が交わされるが、俺たちは蚊帳の外だった。

 見ただけではそんな事までわかりません。ヴィリはあの中に入れないだけかも知れないが。ヴィリの方を見ると、顔付きからそうではないらしいと悟った。


「どうしてこの魔法を考えたの?」

 ディートリヒ様が優しく聞く。


「顔の位置にある枝を手で押さえて通ろうとしたら、手を離した瞬間に戻って来たの。だから全体的に通り過ぎるまで離れていて欲しいなって」


「魔法の対象が点でも面でもなく、範囲かな。となると防護魔法……」


「ああ、なる程。体に纏うタイプでは無く、周囲を覆うタイプでなら」


 ディートリヒ様が思い付いた事にコンラート様が納得しているが、俺には全くわかりません。

 コンラート様がディートリヒ様に魔法をかけ、またディートリヒ様がデポラ様に向かって突進する。


「おっと」


 今回は態勢を崩しそうになったデポラ様をクリストフル様が支える。クリストフル様がさり気なく格好いい。

 共闘? 中にエルヴィーラ様が何度もクリストフル様を格好いいと言っていたのが何かわかってきたかも。


「うわっ、大丈夫? 強過ぎたかな」

 焦って謝罪するコンラート様。


「大丈夫よ。でも、エルのとはだいぶ感じ方が違っていたわ」


「エルだから、枝が折れるのは嫌でその辺を……」


「弾く、接触不可というよりはやんわり避けて頂く的な……」


「磁石の反発……」


「ああ、なるほど。それなら……」


 エルヴィーラ様は議論中の人たちからは少し離れた所で、質問された事にだけ答えている。


「よし、完全再現は無理でもこんなもんでいいだろ。俺らは普段枝とかは避ければいいんだし」

 テオドール様の言葉に、優秀な面々があっそうだったみたいな顔をしている。


「私にはとても有用な魔法だったよ。ありがとう」

 コンラート様がエルヴィーラ様にお礼を言って、話は次の魔法へと移っていった。


 五人がエルヴィーラ様を質問責めにしてわかった事は、全てが物凄く高度な魔法だったということ。


 足場の確保の為に足の下に圧縮した弾力のある空気もどきを設置。実際に何なのかはまだ不明。

 足場に合わせて形状が変幻自在に変わることにより、平地と同じ様な感覚で進めることが発覚。苔にも滑らない。


 次に飛んだり跳ねたりの移動の際に、足の下の弾力空気もどきがバネのように補助していた。

 背中に感じていた魔法は、常に追い風に吹かれている感覚を味わえるもので、体が軽く感じた理由はこれだった。


 これも様々な魔法が絡んでいて、一言では説明できない様な高度な魔法だと判明した。もう俺にはついていけない。

 もう理解不能の域。テオドール様も、「こりゃ、人間には無理だな……」と呟いていた。


 ただその後の話し合いにより、ある程度までは再現できそうだという話になって議論が盛り上がりだした。

 ヴィリの顔を見ると、激しく首を横に振っていた。普通は無理なのだろう。


「どうだ、ヴィリ?」

 ヴィムが小声で聞く。


「いや、無理だろ。一つの魔法に色々と詰め込み過ぎで頭がこんがらがるし、別に展開するのも難しいよ」


「……別次元の話……」

 いつもは無口なヴァルターの言葉に、妙に納得してしまった。

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